七十七話 家族とウィーンランド
――イギリス帝国ウィーンランド領
ウィーンランド領は争いが極度に少ない領として世界のお手本となっている。
「今日もいい朝だ。紅茶が進む。」
そのウィーンランド領を治めるはチャールズ=ウィーンランドだ。
「チャールズ様。領の視察から帰りました。」
チャールズに頭を下げるのは第二令息レムス=ウィーンランドだ。
その周囲には、何十羽もの折り紙が浮かんでいる。
鶴。
蝶。
小さな鳥。
どれも紙で作られた、ただの折り紙にしか見えない。
「視察ご苦労だ。レムス。」
チャールズはレムスをふかふかのソファーに座らせる。
「いえいえ。領のみんなの笑顔が見れて目の癒しになりましたよ。」
レムスは大きく伸びをする。
「ですが、まだ甘いかもしれません。」
レムスがすこし中を漂っていた鶴たちに魔力を込める。
――バサバサ
ひとりでに紙の鶴たちは大空に飛び立つ。
「視察の続きか?」
チャールズが紅茶をもう一杯飲む。
「はい。お父様の夢はウィーンランド家の夢ですから。」
レムスは紅茶を飲もうとするが熱いのか口に運ぶ前にカップを置いた。
「争いのない世界。まずはこの領から。」
チャールズは暖炉の上に飾ってある女性の絵を悲しげに見つめた。
――ホッカイドウの一本道
「FREEってあのエリックやマチルダさんが所属してるエリート集団?」
「あぁ。マチルダ先輩も知ってるんだね。」
ムラホシは少しけだるそうに答える
エリックとの再会の興奮も、もう昔のこと。
いまはすっかりけだるさが勝っていた。
「さっさと行こう。母さんが心配しちゃうよ。」
ムラホシが舗装されている一本道から外れて東に向かう。
リサはエリックをジト目でずっとにらみつける。
――しかし、エリックはまったく気にしない。
(やっとママにあえる。)
エリックは胸を躍らせる。
――なにより
荒んだころには絶対考えられなかった仲間を見せてあげられる。
(”仲間なんていらねぇ”なんて言っちゃって心配かけちゃったなぁ。)
エリックは過去の自分を叱る。
そして――
少しだけ、歩く速度が速くなった。
ほんの少し進むと家の明かりが見える。
リサは泣き出しそうな目で睨みつける。
エリックは全く気にせずニヤニヤと笑っている。
遠くにバルコニーにあるゆりかごのような椅子に座る影が見える。
エリックは迷子になってしまった少年がやっと家を見つけたように走る。
「散歩から帰ったよ〜。」
一足先にムラホシが糸を使って帰る。
「あら、遅かったわね。それに少し嬉しそう?」
メルマは上品に笑う。
「母さん、それよりも!!外を見て!」
メルマは何事かと外を見る。
そして、動きが完全に止まる。
息子を迎えにメルマは外に駆け出す。
(こんなにも草原が広いなんて)
メルマは無駄にだだっ広い草原に少し苛立つ。
メルマはスカートの裾がどうなろうとも、草で足をちょっと切っても止まらない。
早く。
早く抱きしめたい。
その気持ちだけがメルマを突き動かしていた。
「ママ!」
「エリック!」
メルマはエリックの足に抱きつく。
「……遅いわよ゛〜見ない間にすっかり大きくなって〜。」
メルマの涙でエリックのズボンが濡れる。
「……泣くなってよ……。まぁ10年も帰れなかったのは謝るから。」
「許さない!許さないからぁ〜」
――どちらが年上なのかわからない。
それくらい、メルマの感情は溢れていた。
「で、ママ?僕さ。——」
「聞いたわよ!!フクオカでの大進撃!英雄エリックの復活!わたしゃもう誇らしかったよ——」
メルマは話を強引に遮って話す。
——こうなると止まらない……。
「こう?シボボーでしょ?ゴキーンって!災害の悪魔を倒せるなんてすごい!すごすぎるよ!!」
(懐かしい擬音だらけの説明だ。)
エリックはなんとなく理解する。
——しかし
((会話が一ミリも頭に入ってこない。))
後ろのリサやルンタは一ミリも理解していなかった。
「っで!っで!確かエルフの子とサイボーグの子と一緒に!?」
メルマは言葉を止める。
そしてエリックの肩を掴んでグワングワン揺らす。
「まってぇ゛仲間できてるじゃな〜い。もう涙腺がぁ゛〜。」
メルマはまた堪えきれずに泣き出す。
「き、今日からお世話になります。」
「拙者もよろしく頼む……。」
二人は気まずそうに声を上げた。
「ちょ!エリック仲間ができたなら紹介しなさいよ!」
「いや、言おうとしたよ……?」
「でも、“俺は一人で魔族を殺す”なんて言うからすっごく心配してたのよ。」
「恥ずかしっ厨二病?」
「そうよ〜厨二病みたいで可愛かった〜。」
(厨二病って可愛いのか?)
「次回!」
「「「天然とテレビ放送」」」




