七十三話 推し活と免許切れ
※今回も気合い入りすぎて長めです
――α国の郊外
(α様からの招集……?そのためには……)
「おい、人間と悪魔の不純物がよぉ?そんな雑魚が――」
ある悪魔はケイタにメンチを切る。
(こいつ《雑魚》をわからせなければ。)
ケイタは指を噛み地面に血が流れる。
――血猟犬
地面に落ちた血が蠢き、一頭の猟犬へと変わる。
「あ?そんなわんこに……」
――グシャ。
言葉が途切れた。
血猟犬が駆け抜けた、その一瞬。
悪魔の姿は細切れになり、地面へ崩れ落ちる。
ケイタはそれを一瞥することもなく、歩き出した。
(……時間がない。)
――α様の招集。
その意味を、ケイタは理解していた。
――血に濡れた城
リルルは、静かに湯船に身を沈めた。
赤い湯気がゆらゆらと立ち上がり、浴室を包む。
リルルは赤く反射する水を両手にすくう。
(悪魔が人間に敗北するなんてことはありえないの。英雄――必ず私たちが殺しますわ。)
リルルはブクブクと浴槽に潜っていった。
――祭りが続くフクオカ
討伐祭の本命は終わったのにも関わらず余韻はまだ続いている。
――酔いつぶれてがれきの上で寝てしまう人
――崩れた建物の隣に並ぶ、色とりどりの屋台。
――瓦礫を片付けながら、祭りに混ざる人。
災害の悪魔との戦いの傷跡は消えない。
失った命は二度と戻らない、壊れた町が一瞬で元通りになるわけではない。
――それでも
人は、前を向いて笑える。
今夜のフクオカには、そんな笑顔があふれていた。
――しかし。
屋台の一角で顔をうずめて泣いている男がいた。
「ぐ、ぐ、あああああああああ!!!!」
マチルダは椅子から崩れ落ちそのままがれきの上を高速で回転する。
「ど、どうしました?」
がれきをかたずけていた軍人が恐る恐る聞く。
――ガバ!
マチルダは急に立ち上がり、軍人に泣きつく。
「俺の~魂の推しの~ルナちゃんの~生ライブを見るのを忘れてたんだよ~。」
「アーカイ――」
「アーカイブと生とは違うんだ、本当に困りますね。こういうことを軽々しく口にする輩には……。」
マチルダの目が見開かれる。
――ギロッ。
そこには、もはや普通の人の目ではなかった。
――ガチの目だった。
「ういっす~ってどういう状況?」
空気を全く読まないエリックがラムネを飲みながら呑気にやってくる。
「ルナちゃんの生ライブを……」
「アーカ――」
マチルダの目がさらに鋭くなる。
「だから!アーカイブじゃダメなんだよくそがぁぁぁぁああ!!!」
あまりの悔しさにこぶしを地面に叩きつける。
――バキィ!!
あまりの力に大地が四つに割れた。
エリックはすべてを察した。
そして――何も言わず、その場を離れた。
「あ、そうだ。」
思い出したようにマチルダが言う。
(切り替えはや!?逆に気持ち悪……。)
エリックはぎょっとする。
「な、なに?」
「次の行先は決まってんのか?」
マチルダは世界地図を掌に出す。
7つの大陸に6つの州。
――この世界では、それが常識だった。
「次のアーティファクトや地図の破片の目星はついてるのか?」
「いや全くついてないね。」
エリックは雑に椅子に座る。
「ただ――」
「ただ?」
エリックは一瞬言葉を詰まらせる。
「母さんの手紙を見つけたんだ。」
マチルダの目が変わる。
「……どこにあったんだ?」
マチルダはエリックの母については深く聞かなかった。
「研究室の奥さ。」
エリックは懐から一枚の紙きれを取り出す。
「手紙の中に同封されてたこの紙は魔族が血眼になって探していたものらしい。」
マチルダは紙をまじまじと見る。
「……魔族が?」
「ああ。これさえなきゃ母は死なずに済んだのにな。」
エリックはぽろっと言った。
「でも、母さん自身も何なのか分かってなかったらしい。」
「じゃあ、それが次の地図の破片ってことか?」
「分からない。」
エリックは首を横に振る。
「ただ……旅を始めた頃から、こいつには何かあるって感じてた」
エリックは、そばに置かれた真空管ラジオを愛おしそうに撫でる。
「リサには秘密な。”まだ持ってたんですか!そんなガラクタ!”って怒られちゃう。」
マチルダは小さく笑う。
「な〜にしてるの?」
ギクリとエリックが後ろを振り返ると、もう何杯目かわからないほど酒を飲んで酔っ払っているリサがいた。
「……ちょっとマチルダと話をね……。」
「ふ〜ん。じゃあその後ろに隠してるのはなぁに?」
(即刻バレた、酔っ払ってるしワンチャン許してくれないかな?)
エリックは藁にもすがる思いで言い訳を考える。
「あ〜ぁもうしょうがないなぇ〜。」
リサは不意に立ち上がり耳元で囁く。
「そんなガラクタより、もっとエルフで一番可愛い私を見てよ。」
リサの息はほんの少し酒臭くも甘い香りがふんわり漂う。
「ってことで……わた——クゥー。」
リサはそのままエリックの膝に倒れ込むようにして眠った。
「本当にお似合いだなお前ら。」
マチルダはニヤッと笑って言う。
「う、うるせぇ。」
エリックが言い返す。
——アーティファクト確認
突然ラジオがノイズ混じりで鳴る。
二人の間に緊張が走る。
——アーティファクト天界にあり
「天界……?」
「聞いたことあるぞ!」
マチルダは急いで地図を開く。
「ある昔にチュウゴクの南あたりに天国の一部が墜落したらしい……。その一部が今は天界と呼ばれてる……。」
マチルダはごくりと唾を飲んで続ける。
「そこは、今七冠の一人εが統治してる魔族統治国家……の一つだ……。」
マチルダの手が震える。
「七冠を相手にするかもしれない……今までとは比べ物にならない相手だぞ?それでも行くのか?」
エリックは大きくため息をつく。
「僕をだれだと思ってるの?七冠なんてけちょんけちょんにしてやるよ。」
エリックは殴る真似をしながらニヤッと笑う。
「そうだったな。って冒険者としての海外渡航のために何かしらの特級の称号持ってるか?」
マチルダ当然のようにサラッと言う。
「当然だろ……ほら……!?」
エリックが表示魔法で免許とっていることを証明した……はずだった。
そこには虚しく——免許切れの文字。
「……。」
「……。」
二人は完全に黙ってしまった。
「このコーナーに来るのは初めてだな。ケイタだ。」
「今日は作者からやっと動きを見せたケイタに質問しまーす。」
「まずは、好きな食べ物は?」
「悩むが……クロワッサン。」
「趣味は?」
「魔導列車に乗って最終駅まで行くこと。」
「???」
「だから魔導列車に乗って最終駅まで行くこと。」
「なんで?」
「尺が足りないから後で言うってことで——次回」
「「「ホッカイドウとムラホシ」」」
「で、答えだが……最後に何があるか見たいから。」
「深いやら浅いやら……。」




