七十二話 討伐祭とノイズ
※今回は少し長めです
「……って祭りってなんだ?」
ソーマがエリックを引きずろうとしているリサに聞く。
「……あぁ、フクオカの人たちが災害の悪魔をみんなで討伐した記念として、超でかい祭りを開くらしいよ。」
リサの顔はうっとりする。
「豪華絢爛な食べ物達……そして、遊び……そして何より、お酒……!!」
(酒飲みたいだけじゃねぇか。)
それに関してはエリックとソーマで意見が合致した。
「……俺は行けないか、目覚めた——」
「あ、それに関しては医療班の恐ろしい回復魔法の技術で翌日動ける調整になってるらしいよ」
リサがソーマの残念がる声を遮って言う。
「一人でもかけるとせっかくの酒——祭りが楽しくなくなっちゃうからね。私の魔力を提供してフル稼働で、あなたを救ったのよ。」
——この人、俺たちを助けた理由の半分くらい酒だ。
リサはグッタリするエリックの首根っこを掴んで笑顔で病室を去った。
(……怖い。)
ソーマとピピは終始悪魔に怯えていた。
――翌日
戦いでぐちゃぐちゃになっていたフクオカはソーマの寝ていた二か月の間に活気が戻ってきていた。
「……すごいな……。」
ソーマは祭りの雰囲気に飲まれる。
「あ!ソーマ君来たんだねぇ~。」
ピピが遠くから手を振る。
ピピは淡い紫の浴衣を着ていて袖がゆらゆらと揺れる。
「……。」
「どうしたの?」
ピピはソーマの顔を覗き込む。
ソーマは視線を逸らす。
「……浴衣似合ってるな。」
「……え?」
ピピの顔が一瞬で赤くなる。
「あ、ありがとう……。」
二人の間に妙な沈黙が流れる。
――その時だった。
「お~いなにしてんだ?」
遠くから綿あめを購入したエリックが現れる。
「ま・さ・か?」
エリックがピピの耳元にささやく。
「ふっ。隠そうたって無駄だぜ?お前、ソーマのこと……」
――ドゴ!!
エリックはピピの肘によって成敗される。
そしてエリックの言葉が最後まで続くことはなかった。
「今日は黙ってて!!」
ピピがジト目でエリックを見る。
「じゃ。行こ!」
ピピはソーマの手を引いて駆け出して行った。
「ソーマ君、射的やろ!」
ピピがはしゃぎながら指さす。
「……お前、経営破綻させる気か?」
その言葉を聞く前にピピはお金を入れた。
「お、お嬢ちゃんこの射的屋は難しい――」
――ドン!ドン!
「――お嬢ちゃん、もうやめよう。」
店の景品をあらかたかっさらっていくピピに店員はその場で泡を吹いて倒れた。
「あ、あそこにりんご飴がある!買おう!」
ピピがソーマの財布の中から勝手に金を抜き取る。
「おい。なんで俺の財布から取ってんだ?」
「だってソーマ君、持ってるでしょ?」
ピピはにやりと笑う。
「そういう問題じゃねぇよ。」
ピピはりんご飴を4本買い1本ソーマに渡し三本食べる。
「はい。」
「……三本は?」
ソーマは冷や汗が出る。
「私の。」
「なんでだよ。」
ピピは当然のように三本のりんご飴を抱えた。
「だって三本食べたいんだもん。」
「……。」
ソーマはもう何も言わなかった。
――その頃英雄は
(やっと、帰れるな。)
肘でぶたれたところを擦りながら立ち上がる。
――ピピ。
エリックは魔法でピピに話しかける。
――なに?また雰囲気を――
――家に久しぶりに帰ろうぜ。今更だけど。
ピピはすこし言葉を詰まらせる。
――そうだね。
エリックは帰路を進むと荒んでいた幼少期を思い出す。
あの時はすべてが憎かった。
魔族がエリックのかけがえのない一瞬で幸せを壊した。
(母との思い出は、写真にも残っていない……残す暇さえ、あの頃の僕には与えられなかった。)
エリックはある地点で足を止める。
(はは……あそこで魔族を蹴散らしたっけ……。あの時はカインが来てくれなきゃ今の僕はない。)
そして”魔族を滅ぼす”と決めた坂を駆け上がる。
もうすぐ、すべてを置いてきた場所に帰る。
――スッ
エリックは戸を開ける。
「綺麗だ……、掃除してくれたんだ……。」
掃除ができないピピの代わりに誰かがきれいに保存してくれていたのだろう。
――記憶通りのリビング
――少し傾いたキッチン
――母の研究室
実家だけは写真に収められたようにそのままだった。
母の研究室には幼いエリックには難しい書物ばっかりだった。
『日本の歴史』『魔法文明以前の科学技術史』『魔……起源……』
特に『魔……起源……』の本はとても古く破れ全く読めなかった。
エリックは格納魔法でその本をしまう。
――ザザッ
その時だった格納魔法からノイズ音。
エリックが格納魔法を除くと真空管ラジオがいつの間に起動している。
――地図の破片確認半径1m
「え?」
エリックは旅を始めた時に感じた”違和感”をまた覚える。
――早く回収せよ
エリックは何かに導かれるようにありとあらゆる引き出しを開け始める。
慌てて開けるため資料が乱暴に床に散らばる。
(……どこだ?どこだ?母さんはなんで楽園につながるものを持っていた?)
「お兄ちゃん……なにしてるの?こんなに散らかして!掃除大変じゃない!」
ピピは母親のようなセリフを言う。
「……見つけた。」
一枚の封筒。
そし”なにか”が入っている。
その封筒には『エリック・ピピへ』と母の字で書いてあった。
「なにこれ!?ママがこんなものを持ってたなんて?」
ピピも興味津々だ。
「開けるぞ……?」
エリックは震える手を押さえて封筒を開ける。
そこには、一通の手紙と紙切れが入ってる。
――エリック・ピピへ。これを読んでいるということは私はこの世にいないのでしょう。
でも、悲しまないでほしいな、私までもらい泣きしてしまいそう。
さて、この封筒に入った紙は、魔族が血眼に探していた物です。
私には価値がさっぱりわからなかったけど、きっと二人が必要になる時が来ると思って、隠蔽結界をはってここに隠しました。
色々書きたいけど、言いたいことはことは二つ!
①兄弟仲良くしなさい
②私はずっとあなたたちのそばにいる
以上になるけど……あはは。やっぱさみしいや。
だからあなたたちは誰かを傷つける人にはならないで……。
私は、それだけを願っています。
エリックは手紙を呆然と見る。
そして、その同封されたものを掌にそっと握る。
(おかえりとはいってもらえなかったか。)
エリックとピピは呆然と立ち尽くしていた。
――祭り本会場
エリックとピピがトボトボ戻ってくるとべろべろに酔ったリサに出会う。
「あれ~なにしてたの~?」
久しぶりに酒が飲めて上機嫌だ。
「ちょっと実家帰ってた。」
エリックはあの家で起きた出来事が飲み込めない。
「ちょっと寂しかった。」
リサが急にエリックの脇にくっつく。
「勝手に離れちゃ……め。」
リサは瞳をうるうるとさせる。
(こんなこと言って翌日知らんぞ……。でも--)
エリックはリサの頭を優しく撫でる。
リサはご満悦の表情を浮かべ耳がピンと立つ。
(今を楽しもう。)
エリックはそうしなきゃ勿体無いくらいの幸せを感じていた。
「ピピ……ちょっといいか?」
プラスチック酒の入ったコップを二つ持ったソーマが向こうを指す。
「ちょっと外すね!」
ピピは元気よく駆け出して行った。
「で、何?ソーマ君。」
ピピはソーマの奢りの酒を一口飲む。
--ゴク
ソーマは意を決して一気に酒を口に運ぶ。
「そ、ソーマ君!?そんな一気に……!」
ピピがそばでオロオロしているとソーマが耳元に近づく。
「二ヶ月も待たせちゃってごめん。俺は、1番好きな人にずっと手を握っててくれて嬉しかった。」
不意打ち気味の言葉にピピは顔が真っ赤を通り越して茹蛸のようになる。
(え、え?なに?なに?これ。)
--ドクドク
かつてないほど心臓がうるさく鳴り響く。
「ほら、また手を繋ご?」
ソーマは自然に手を伸ばす。
ピピはそっと手を重ねる。
「おい、泣いちゃ可愛い顔が台無しだ。」
ソーマが目尻を拭いてくれるまで泣いていることに気が付かなかった。
(これがずっと続けばいいのに……。)
『ちぇ!お オレッチの春はいつくるんだよ。』
クサナギは鞘から抜け出す。
「お主には拙者がいるだろ?」
『それ、本気でいってる?』
クサナギは鞘に帰った。
全て破壊された街は、英雄……いや英雄達によって再び笑えるようになった。
それが叶わず天に旅立ってしまったもの、どこかへ消えてしまったものの分まで今を楽しもう。
--ヒュ〜ドオオオン!!
夜空に一輪の花火が咲く。
「綺麗だな。」
誰かが笑う。
誰かが酒を飲む。
誰かが隣の誰かと手を繋ぐ。
そして――
フクオカの夜は、ようやく笑った。
「三章ついに終わりです!お疲れみんな!」
「くわぁ〜やっとか、蚯蚓から始まった戦い……苦難の連続だった……。」
「うんうん。途中で作者失踪しかけるしね?」
「だから◯ケモンにハマっただけだって、帰ってきただろ?」
「そうですけど……」
「そこをどうか許してリサ……。」
「まぁ最終話に酒を提供してくれたし--今回は許す」
「「「次回」」」
「「「一日目と再開」」」」
※ここまで読んでくれてありがとう!
このまま下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると家の中を作者が転げ回ります。




