六十話 鉄人と半神(フォールン)
――“壊れてからが、本当の戦いだ。”
風が理屈を捨てた。
技でもない。
速度でもない。
ただ“存在そのものが刃”になっていく領域。
そこに入った時点で、
普通の戦いは終わる。
だがマチルダは、まだ終わっていない。
義手は砕けても、足は残っている。
視界は奪われても、間合いは切れていない。
そして何より――
“まだ立っている”という事実だけが、勝敗を拒んでいた。
——内陸部
“ケケケ。今日は一人か?”
鳳凰が白と緑が混じった翼をはためかせる。
羽ばたく度に、さらに激しい暴風が吹き荒れる。
「一人で平気という判断だ。」
“随分と舐められたものだな。”
鳳凰はマチルダを細い目で見る。
“まぁいい。オレサマは強者と戦いたいだけだ。”
その目には偽りはなかった。
最初に動いたのはマチルダだ。
(奴の攻撃するパターンは主に風、そして戦場の操作。一人で対処し切れるのか?)
信頼できるゾムの指揮だがまだ少し不安が残る。
足に鉄が集まる。
重心が下に集まり体が重くなるがマチルダは気にしない。
(ケッ。一番やりたい相手と一騎打ちとはなぁ、あの魔法使いもよかったがやはりお前だ!)
鳳凰はテンションを上げる。
風がさらに激しくなり、マチルダの髪をなびかせる。
前へ進めない。
(飛ばされる……重い。)
しかしマチルダは一歩一歩踏みしめる。
間合いにゆっくりと近づく。
“来るか!流石見込んだ男だ!”
鳳凰の一振りで地形そのものが変わる。
風で土は舞い上がり木は根本から折れる。
吹き飛ばされた土が積み上がり、新たな地形を作る。
“もう私は止められません。”
鳳凰は目を瞑ったまま言った。
その口調は、今までの鳳凰とはまるで別人だった。
——お前誰だ?
鳳凰は自分の中に生まれた新たな存在
に語りかける。
——オレサマじゃない。出ていけ!
体の主導権が誰かに握られている。そんな感覚に鳳凰は恐怖を覚える。
“うるさいです。過去の人格、もう貴方は貴方ではありません。”
冷たい自分の声が頭に響く。
——過去の人格?オレサマの体だ!返せ!
“はぁ……貴方も私なのですから大人しくしてなさい。”
鳳凰はずっと一人で話していた。
風も乱れ上からも下からも吹き荒れる。
“タ……うるさい。……ス……黙れ……ケ……テ”
この言葉を皮切りに鳳凰は目を見開いた。
その目はもう鳳凰のものではない。
別の生き物の目をしていた。
「ったく、ヒロインみたいな顔しやがって。」
マチルダは足に魔力を込める。
“暴嵐転生”
——ドザザザ!
轟音と共に強風が吹く。
全方向が一瞬で見えなくなる。
(見えねぇ……だが!)
マチルダに迷いはない。
(何度もそういう状況で戦ってきた。)
手に取るようにわかる鳳凰の動き。
(正面に奴が突っ込んでくる。そこを叩く!)
——燕落とし
マチルダの足が鳳凰の頭部を打ち砕いた……。
——はずだった。
“甘いですね。私は後ろにいますよ。”
後ろから鳳凰の冷たい声。
(気配が、消えている……?)
マチルダがハッと振り返った時にはもう遅かった。
鳳凰の鋭い翼がマチルダの首を狙う。
マチルダは咄嗟に義手を犠牲にして首を守る。
——バキ
義手は役目を終えたように音を立てて崩れる。
(お疲れ様。後は任せろ。)
マチルダはまだ形が残っている義手を嵌めて立ち上がる。
「義手は壊れても、俺は死なねぇ。お前も飲まれるな。力に。」
“いいえ。完璧な適応です。”
鳳凰はAIのように無機質に応える。
“私は力に従っているのではない。力が、私に従うのです。”
鳳凰はそれだけ言ってマチルダに一気に詰める。
魔力が金網のように無機質に重なり合い異様な鋭さをする。
マチルダは足で攻撃を受け止める。
ジジジと足と羽の間から擦れる音が響く。
(硬い……。本当に羽か?)
マチルダは捻りを使って鳳凰の体を吹き飛ばす。
しかし鳳凰はまた突っ込んでくる。
(なんだ?この立ち回り、無駄がないというか……)
——無駄がなさすぎる。
小手先の技を一切使わず、使うのは己の体。
(前の戦い方も厄介だが……シンプルなのも厄介だな。)
マチルダは静かに息を吐く。
鳳凰が戦闘機のように突っ込んでくる。
マチルダは地面を蹴り空を舞う。
「堕月」
マチルダは鳳凰が真下に来たのを確認し真っ直ぐ落下する。
一撃は重く入る。
“やりますね。しかし……”
鳳凰は呆れたように息を吐く。
“甘い。”
その言葉と共に暴風が吹き荒れる。
風の中に細かい魔力の刃が組み込まれマチルダの肌を切り裂く。
一撃を防いだ義手も音もなく粉々に砕け散る。
“私の勝ちですね。”
鳳凰の声に変化はない。
「フフ。」
マチルダが笑いをこぼす。
「どの気で勝ったと思ってんだ?俺はまだ立ってるぞ?」
マチルダの目はまだ勝ちを狙っていた。
「くぅ〜今日の俺かっこよすぎ〜」
“ケッ。オレサマが飲み込まれてる間にカッコつけやがって。”
「鳳凰はもっとelegantにしなきゃ☆」
(ルビミスってるこというか?言わないでおくか?)
「どうした?俺のエレ〜ガントさにビビっちゃったかな☆?」
(なんだこいつ?)
“次回”
「“戦闘機と泥臭さ”」
「やべルビミスってた。」
(自分で気づくのかよ)




