五十七話 第三ウェーブと白熊
強い敵は、必ずしも“強く見える”わけじゃない。
むしろ冷静で、
むしろ静かで、
むしろ淡々としている。
だからこそ怖い。
感情も、誇張もない言葉で、
ただ“評価”として世界を切り裂いてくる。
――戦況はもう、ただの戦いじゃない。
解析と破壊が、同時に進む段階に入った。
——災害の悪魔が身を潜める、種子島
(なんじゃ……ことごとく上手くいかぬ。)
災害の悪魔は頭を押さえる。
(人間は悪魔には勝てぬはずだ……何故だ?)
理解できない。
何故、壊れない。
何故、諦めない。
——災害の悪魔よ。ことは順調に進んでいるか?
脳へ直接割り込むように、αの声が響く。
『もちろんでございます。もう間もなく、“例のブツ”も入手できます。』
悪魔も人間も。
嘘をつく時は笑う。
災害の悪魔は口先だけで誤魔化した。
——そうか。期待しているぞ。
αの声は、どこまでも優しかった。
(次は必ず見つける。)
――戦地フクオカ
作戦会議が一通り終わり少しブレイクタイムとなっている。
「やっぱゾム先生ってすごいなぁ~。」
エリックは食後のデザートのプリンに舌包みを打つ。
「はは。何を言うこれくらいできなきゃ中将としてやっていけないよ。あと教育係としてもなっ☆」
ゾムは軽く笑い飛ばす。
「もしですよ、もし上手くいかなかったらどうするんですか?」
リサが不安そうに聞く。
その瞬間。
周囲の空気が、一度だけ止まった。
――そして
「はははは!」
大きな笑い声が響く。
「上手くいかない?」
ゾムは肩を揺らして笑う。
「なら、上手くいくまでやるだけだ。」
当たり前のように。
呼吸でもするように。
ゾムは言い切った。
「同じ失敗は、二度としない。今日はゆっくり寝ろ。いつ奴が来るかわからない。」
ゾムは「お先に失礼。」と短く言ってテントから出た。
「さてリサ。僕たちも寝ようか。」
「そうですね。」
リサはあくびをかみ殺す。
「じゃ。おやすみ。」
エリックは慣れた手つきで寝袋を広げる。
そして寝袋に入った瞬間。
「すぅ……。」
寝た。
(速!え?)
リサは思わず目を見開いた。
そしてため息を吐く。
「ほんと……エリックだけは変わってほしくないな。」
リサは誰にも聞こえない声でつぶやいた。
――翌日
エリックたちは朝食をサクッと済ませて出陣の準備をする。
今は作戦の最終確認をしている。
「今回の作戦の要になるのはエリックとピピお前たちだ。」
ゾムは向かい合わせに座るエリックとピピを見据える。
「わかってます。」
エリックは息を吐くように答える。
「ただ……少し違うかもな。」
ゾムは言葉を濁す。
「訂正する、作戦のかなめは全員だ。戦場に向かうもの、後方支援、救護、そして市民……これは一人の戦いじゃない。これだけは覚えておけ。」
「なら……」
テントの外から聞こえる足を引きずる音。
「ゾムさん。まだ……まだ、戦えます。」
ソーマだ。
軍服も少し着崩れてしまっている。
「……平気なのか?」
ゾムの最後の確認だった。
「今度は……ちゃんと役割を果たします。」
ソーマは息を吐き切る。
「わかった……。だが生命の危機に瀕したら退避しろ。いいな。」
ゾムは小さく息を吐いた。
それは、安心にも似ていた。
――その時。
――ゴゴゴゴ
東から轟音。
奴が来る。
「さてと。」
ゾムがメイスを担ぐ。
「最終決戦だ。」
揃いし勇者たちは踏み出す戦地へ。
エリック達が見上げると空を突き抜ける壁。
しかし今回は何かが違う。
(魔力が乱れている。――余裕がないんだ。)
エリックは小さく息を吐いた。
『人間ども。まさか顕現時間まで耐えられるとはやるではないか。』
災害の悪魔は口先では余裕ぶる。
『そろそろ、妾も本気を出さないといけないな。妾のすべてを出す!』
災害の悪魔が魔力を練り上げると形となる。
”また来たよ~”
”オレサマはもう止められません。”
激闘を繰り広げた海月と鳳凰。
――そして
周囲の空気が凍りつき、そこから“ごつごつとした体表”が生まれていく。
”寒いな。”
白熊は白い息を吐く。
”弱い生き物ほど群れる。騒ぐ……。”
巨体が、一歩、前へ出る。
青い爪で山に触れる。
――ズパ
山は、まるで初めから割れていたかのように二つに断たれた。
”だから、春は来ないんだ。”
『想定より少し早くなってしまったが問題ない。』
災害の悪魔は焦りを誤魔化すように饒舌に話す。
『まだ、終わりは来ていない。そうだろう?』
”もういい。”
白熊は災害の悪魔の言葉を遮る。
”弱い。遅い。読める。騒ぐ。”
”以上……だがまだ勝てないとは言っていないぞ主。”
主君に仕える使い魔ではない。
それはもはや“使い魔”ではなく、ただの戦況評価装置だった。
――闇を抜けるのも近い。
『妾小物すぎないか?』
”今更~?”
”聖母様。海月の”妄言に騙されないでください!”
『だよな。地獄行きの蚯蚓!』
(え?普通にディスってきた?)
”ケケェ!小物であるほど読者には好かれるぞ。”
『嫌だわ!それで人気になるの。』
”主、弱い。”
『――次回(泣)』
”””『白熊と白虎隊』”””
『妾もう出たくない……。』




