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五十六話 データと大作戦会議

人は、勝てると思った瞬間から変わる。


恐怖で生き残ろうとしていた兵士は、

次第に“どう殺すか”を考え始める。


戦場は、慣れた時が一番危険だ。


――だが同時に、

その瞬間こそが反撃の始まりでもある。


――音が、戻ってきた。


「目標消失、撤退するぞ。」


ゾムは悔しさで唇を噛む。


悔しさを、言葉にしないまま飲み込んだ。


「終わった……の?」


ピピは小さく呟く。

何が終わったのか、自分でも分かっていない声だった。


「ゾムさん、さっきの“殺せる”って……どういう意味ですか」


リサの声は低かった。


確認というより、分析に近い問いだった。


「それは、戻ってからゆっくり話す。それより……」


「それより?」


「疲れた。」


その一言に、ピピが変な顔をする。


「……そこですか。」


一瞬だけ、空気が緩む。


誰かが歩き出す気配がした。


「空気和んだか?」


ゾムの声に、リサは肩をすくめる。


「まだです。」


「これからです」


リサは前を見たまま歩き出す。


(終わりまでは、まだ遠い)


そんな空気のまま、一行は進む。


キャンプ地へ歩いていくと歓喜に満ちた声が聞こえてくる。




「帰ってきた!」


「お帰りなさい!中将達!」


そこには笑顔に満ちた軍人の姿だった。


前回の蚯蚓(ピラリス)戦では、こんな声はなかった。


あったのは、沈黙だけだ。


(そうだ、喜んでいいんだ。誰も犠牲者を出さずに戦えた。)


生きて帰ってきたことが、ようやく現実になる。


「ソーマは平気か?」


ゾムは顔色ひとつ変えずに言う。


「ソーマ少佐は救護テントで休んでいます。致命傷にはならなかったそうです!」


「そうか。」


短い返事。


だが、ゾムの肩からわずかに力が抜けた。


――そしてもう一つ騒がしい声


戦場の空気とは、まるで別世界だった。


「俺の方が食えるぞ!おかわり!」


「はぁ!?マチルダ英雄を馬鹿にすんな!」


救護テントの方から、騒がしい声が響く。


どうやら元気らしい。


「……何してるんですか?日本の英雄さんは。」


リサは思わずため息をつく。


――それでも顔は笑っていた。


「見ればわかるだろ?博多ラーメン大食い対決だ。」


エリックとマチルダのテーブルの上には白い湯気を上げる博多ラーメンが置かれていた。


豚骨のにおいが食欲をそそる。


(……ずるい匂い。)


ピピは我慢できなかった。


「私も参加~我慢できん♪」


「あいよ~!」


奥から威勢のいい店主の声。


「おぉピピちゃんも参加か。手加減はしないぜ?」


マチルダが大人気のない邪悪な笑いをする。


「いっそのこと、この場で行うか。」


ゾムも隣に座る。


(食べたいだけでしょ……。)


と思いつつもリサも座る。


「おやじ替え玉!」


「僕も!」


「お兄さんよく食べるねぇ~あいよ!」


店主はノリノリで麺を作り始めた。


「さて、飯の前だが会議を始める。」


ゾムの言葉を皮切りに箸を置く。


笑いの余韻が、ゆっくり消えていく。


「ちょっと待って保温する魔法をかけておくから。」


エリックはポケットから小さい魔導書を取り出し魔法を唱える。


薄膜が器を覆い、湯気を閉じ込める。


――どこでもラップ


生活用の慣用魔法だ。


「まず、情報を交換しよう。エリックさんたちから報告お願いします。」


ゾムが完璧な司会をする。


「はい。僕たちの相手の最も厄介なところは、圧倒的な戦闘センスです。」


エリックは魔法で図を作りながら説明する。


「特に鳳凰嵐(オレサマらん)は風全てを刃として扱い、上昇気流、下降気流、でさえ操る性能でした。」


「そうか……。」


この場では誰も言わなかったが全員同じことを思った。


(技名ダサくね?)


「マチルダさんの方からも何かありますか?」


「俺ですか?まぁ一つあるとすればドーンってなってバキバキってなって……」


「次行きましょう。」


ゾムはこれ以上聞いていられないと話を強引にずらした。


「あと言い忘れていたのですが、あいつは魔力覚醒を果たしました。」


エリックの言葉だけが、場の温度を一段下げた。


「……!」


リサの目は見開き、ルンタは息を吐いた。


「あのぉ魔力覚醒って何ですか?」


ピピが気まずそうに笑う。


「まぁ簡単に言えば解釈の変化だ。」


エリックがわかるようなわからないような説明をする。


「……わかった!」


ピピは意味を理解したかは怪しかった。


「話を戻そう。次は俺たちの戦況報告だ。」


ゾムが話をまとめる。


「俺たちが戦ったクラゲのような使い魔の最大の特徴は敵を遊ぶように戦うことだ。」


ゾムは静かに言う。


「彼女が本気を出したのは最後だけだった。」


ゾムは目を閉じて戦況を再現する。


「彼女の最も危険な技は双子座流星群ふたござりゅうせいぐん一択だ。」


「あの技には隙がなかった。」


リサが苦虫を噛む。


「しかし、かなり攻撃の手が甘いことが多かったな。」


『そうだね旦那。特に弾数が多くなると大雑把になる感じだな。』


クサナギが剣視点の感想を述べる。


「そうか……だがこれだけの情報があれば勝てる。」


「次は勝つ。」


ゾムは静かに言った。


その言葉に、誰も異論を挟まない。


それは勝利ではなく、“次の戦いの準備”だった。


もう全員、“殺せる側”の思考に入っていた。


「みんなに質問ラーメン何が好き?」


「ピピそんなの決まってるじゃん醤油。」


「拙者は味噌!」


「私は塩!」


「俺はニンニクマシマシ背油地獄盛り!」


「へ?マチルダさん、なんて?」


「――次回」


「「「第三ウェーブと白熊」」」


「だ・か・ら・ニンニクマシマシ背油地獄盛り!」


「何回聞いてもよくわからない……。」

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