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四十三話 勝利の形と空白

勝ったはずだった。

倒したはずだった。


それでも——戦場は終わらない。


崩れたギルドの外で、遠ざかる安堵。

その裏で、まだ息をしている“何か”。


空が歪む。音が遅れて届く。

勝利は、ただの錯覚だった。


そして担架の上で、少女は気づく。


「……まだ、終われない」


これは、終わったはずの戦いがもう一度“始まる”物語。

——崩壊したギルド跡地。


蚯蚓(ピラリス)に相対するのは、ピピを抱えたソーマと一般隊員たちだった。


「ピピを安全な場所へ運べ。」


相変わらず冷たい声。


だが――


「……頼んだぞ。」


その一言だけは、不器用なほど優しかった。


隊員たちは担架にぐったりと横たわるピピを乗せ、戦場から離脱する。


“その娘はもう死ぬ。あの金髪と同じようにな。”


蚯蚓(ピラリス)は興味なさそうに吐き捨てた。


「いや――まだ誰も死んでねぇ。」


ソーマが低く言う。


一瞬、静寂。


“……は?”


蚯蚓(ピラリス)は言葉の意味を理解できなかった。


“生命活動は止まりかけている。何を――”


「そういう話じゃねぇんだよ。」


ソーマの影が揺れる。


双剣を、黒い刃が覆っていく。


「勝手に終わらせるな。」


“綺麗事か?”


「違う。」


ソーマは双剣を構える。


「死んだかどうか決めるのは――俺だ。」


――ザンッ!!


先に動いたのはソーマ。


双剣が左右から蚯蚓(ピラリス)の頭部を狙う。


蚯蚓(ピラリス)は体をうねらせ回避。


直後、その巨体がソーマへ叩きつけられた。


――ジャァッ!!


ソーマは咄嗟に双剣を割り込ませる。


だが勢いを殺しきれず、そのまま森まで吹き飛ばされた。


(……ミスった。受け流すべきだった。)


木々を薙ぎ倒しながら、ソーマは思考を巡らせる。


(再生が遅い……銀を喰らったのか。)


脳裏に浮かぶのは、血を流しながら笑った少女。


(あの状態で、まだ戦ってたのかよ……。)


ソーマは影を枝へ伸ばし、無理やり体勢を止める。


「――影鞭(かげむち)


伸びた影が蚯蚓(ピラリス)へ絡みつく。


――ギギギギギ!!


巨体が止まった。


“邪魔だ!! ほどけぬ!!”


蚯蚓(ピラリス)は暴れる。


だが影は食い込み、締め上げる。


「滑稽だな。ミミズ、もう降参か?」


“ふざけるなァ!!”


――サッ!!


背後から空気を裂く音。


(来た……!)


「遅くなったな!」


ゾムが空から降ってくる。


巨大なメイスを肩に担ぎ、獰猛に笑っていた。


「よく止めた、ソーマ!」


ソーマはさらに魔力を流し込む。


影が軋む。


目から血が流れる。


それでも離さない。


(上まで行け……!)


ゾムの軍器メイスは、“落下速度”で威力が増す。


高く。


もっと高く。


“離せ!! 小僧!!”


蚯蚓(ピラリス)が暴れる。


「離すわけねぇだろ。」


ソーマは歯を食いしばった。


「お前は――踏み越えちゃいけねぇもんを踏んだ。」


――堕界鎚(ついかいづい)


ゾムが天から落ちる。


メイスが重力を喰らい、加速する。


怒り。


悔しさ。


仲間を傷つけられた感情。


全部を乗せた一撃。


(避けねば――!!)


蚯蚓(ピラリス)は最後の力で影を引きちぎる。


飛ぶ。


逃げ切れる――


――ゴンッ。


半歩、遅かった。


メイスが頭部へ直撃する。


地面が沈む。


蚯蚓(ピラリス)の頭が陥没し、大地へ叩き込まれた。


口から大量の魔力が噴き出す。


“馬鹿な……我が……人間に……?”


白目を剥きながら、蚯蚓(ピラリス)は震える。


脳裏に浮かぶのは、あの少女。


(あの小娘……あのボロボロの体で……)


――まだ、立っていた。


“そうだ……!”


蚯蚓(ピラリス)の目が見開く。


“諦めぬのなら――我も諦めぬ!!”


潰れた頭部に、魔力が集束する。


――断層放(ガイアバースト)!!


崩れた口から、莫大な光が放たれる。


(せめて一人でも――)


ゾムに回避の時間はない。


――場面は変わる。


崩壊したギルドの外れ。


担架に乗せられたピピは、ぼんやりと空を見ていた。


音が遠い。


戦場だけが別世界みたいだった。


(……終わった?)


誰かの怒号が聞こえる。


歓声じゃない。


勝利の声でもない。


焦りだけが混ざっている。


「急げ!! まだ離脱できてない!!」


その瞬間――


遠くの空が白く歪んだ。


――ドンッ。


遅れて衝撃が届く。


担架が跳ねる。


隊員が叫ぶ。


「伏せろ!!」


ピピは、ただ空を見ていた。


(……まだ終わってない。)


崩れたギルドの中心。


そこでは、まだ“何か”が暴れている。


終わっていない。


その事実だけが、異様に鮮明だった。


ピピの指が、担架の布を握り締める。


(じゃあ――)


胸の奥で、黒い熱が揺れる。


さっきまでの安堵を焼き潰すように。


「……まだ、終われない」


掠れた声。


運ばれているはずの少女の口元が、ゆっくり歪む。


それは笑顔じゃない。


――戦場へ戻ろうとする者の顔だった。


蚯蚓(ピラリス)強くね?」


「おにいちゃ~ん強すぎでしょなにあの〇ソミミズ」


「おい、急に口悪いぞ。ピピ」


「それは、わかるかもしれない。あの〇ミミミズ」


「ミが三連続!ソーマ、気持ち悪いな。」


”我はそういう役だからしかたないだろ?”


蚯蚓(ピラリス)~もうちょっと手加減しよ?」


”主からこうやれと言われてる。”


「やっぱり、作者って邪神だよね……。」


”――次回”


「「”壊れた少女と一時の勝利”」」



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