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四十話 集団リンチとピピの覚悟

恐怖は、人を守るためにある。

——本来は。


だが、それが牙を剥く時もある。

心を縛り、足を止め、生きることすら諦めさせる。


それでも。


砕けかけた心の奥で、誰かの声が響く。

「お前は——自慢の妹だ」


立て。

折れるな。


これは、恐怖を踏み砕き、もう一度立ち上がる者たちの波紋だ。


”愚かな人間どもよ。聖母様にはかなわぬのだ。大人しく滅びるのだ。”


蚯蚓(ピラリス)は体をうねらせる。


「そりゃ困るな。」


エリックは大きく息を吐いた。


「ここは10年前、僕の故郷があった場所だ。魔族に滅ぼされちまったがな。」


誰に向けているのかは分からない。だがエリックは続ける。


「ここにな、“魔族を全部滅ぼしてから必ず帰ってくる”って勝手に決めたんだよ。」


”それがどうした?我には関係ない。”


蚯蚓(ピラリス)は魔力を練る。


「ふっ。自己中に聞こえるだろ?」


エリックは乾いた声で笑う。


だが、続ける。


「だけどな。身勝手に突き放しても、ずっと僕を待ってくれた奴がいる。」


エリックの視線がピピへ向く。


昔の笑顔が脳裏をよぎる。

母の笑顔。

苺おじさんと逃げ回った日。


(昔の俺に言うなら一言だ。“周りを大事にしろ”ってな)


——だから今度は。


——守る番だ。


”まぁいい。故郷で死ねるだけ感謝しろ!”


蚯蚓(ピラリス)は地中へ潜る。


大地が激しく揺れ、立っているだけで限界になる。


ピピは座り込んだ。


「たてぬ理由はない!」


ルンタが刀を杖にして立つ。


突きの太刀(つきのたち)流星残光(りゅうせいざんこう)!」


地中の気配を捉え、一気に突き刺す。


蚯蚓(ピラリス)の頭部を貫いた。


『旦那!やったのか!?』


クサナギが叫ぶ。


「固定した!一斉に叩き込め!」


蚯蚓(ピラリス)は暴れる。


エリックが笑う。


「サンキュールンタ!」


——一般公用魔法(マサーシュ)


リサも続く。


炎が頭部を焼く。


鬼亡脚(きぼうきゃく)!」


マチルダが鉄脚で頭蓋を砕く。


——グオオオォ!!


蚯蚓(ピラリス)が悲鳴を上げる。


(……すごい。あの化け物を……)


軍兵たちは言葉を失う。


だが——


蚯蚓(ピラリス)は、無理やり体を振り上げる。


エリック達を薙ぎ払い、吹き飛ばした。


”ハァハァ……やっとどけたか。”


そして軍兵へ視線を向ける。


”恐怖は良い栄養だ。”


——恐怖は、悪魔にとって“餌”だ。


再生が始まる。


(嘘だろ……)


ゾムの手が震える。


(あの連中でも勝てなかったのか……)


ソーマの双剣が軋む。


——ビィアアア!!


空気が裂けた。


蚯蚓(ピラリス)が一直線にピピへ向かう。


”まず一人、確実に喰らう。”


(動けない……)


恐怖が体を縛る。


「——ピピ!!」


声。


だが間に合わない。


——ドンッ!!


衝撃。


ピピの体が吹き飛ぶ。


(……終わりだ)


視界が白く溶ける。


(お兄ちゃんに……会えたのに)


——ピピ、諦めるな。


(……うるさい)


——限界はお前が決めるもんじゃねぇ。


(無理だよ……)


——だってお前は——


間が空く。


——俺の自慢の妹だからな。


(……っ)


心臓が跳ねた。


指が動く。


(私は——)


歯を食いしばる。


(私は、お兄ちゃんの——)


瞳が開く。


「自慢の妹だ!!」


「ありがとう。諦めかけてた私を助けてくれて。」


「あれ?僕なんかしたっけ?」


「お兄ちゃん忘れないでよ。ほら——そんなんで限界決めんな。って言ってくれたじゃん。」


「あぁ。潜水対決のやつじゃん。」


「あっそうだった。お兄ちゃんが速攻で脱落して私と母で対決してるときにそうやって野次飛ばしてたな。」


「おぃ恥ずかしいからあんまり大きな声で言うな。」


「お兄ちゃんの黒歴史ならたくさん持ってるよ♪」


「おい待て!」


「例えば……小さい頃に書いてた”闇の禁断の魔法書”とか”僕の考えたさいきょーの魔法”とか……」


「これ以上はやめろ、僕のイケメンすぎる英雄像が粉々になる。」


「イケメンって自分のことはイケメンって言わないけどね~。」


「ということで次回……」


「「本当の役割と裏の戦い」」


「他にも……」


「やめろおぉぉぉぉぉ!」

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