三十一話 最終奥義とあっけなく
最強になりたかった。
ただ、それだけだった。
誰よりも上に立ち、価値を証明するために——
何を捨てたのかも、もう分からない。
強さを求める者は多い。
だが、その意味を理解している者は少ない。
上に立ちたい、支配したい、選ばれたい——
その願いは、あまりにも扱いやすい。
ほんの少し歪めればいい。
それだけで、人は勝手に壊れていく。
だが——
その中でも、剣を振るう理由を手放さなかった者もいる。
誰のために振るうのか。
何のために立ち続けるのか。
選択は、すべて自分で決めたものだ。
——そして、その結末もまた。
——そして現在。
(ありったけの魔力を、あいつに!)
カザンの頭上に巨大な溶岩が唸りを上げる。
世界ごと飲み込む質量。
『魔族を下につけた俺が、負けるわけねぇだろ!』
——焔改。
溶岩が落ちる。
ルンタは静かに息を吐いた。
「クサナギ……行くぞ。」
——ホォォォ。
刀身に緑の魔力が宿る。
——風の太刀・風車。
縦横無尽の斬撃。
空間が裂ける。
(馬鹿な……俺の全力だぞ)
(負けない)
(俺のために)
(みんなのために)
——ジュッッ!
——ジャキン!
どちらが先か分からない。
溶岩が裂け、ルンタは炎を正面から受ける。
二人は同時に崩れ落ちた。
——パキン。
音がした。
カザンの刀身が欠ける。
(……嘘だろ)
(俺が……負ける?)
視界が揺れる。
その時、カザンは思い出した。
——δ。
「ええもんあるで。使うか?」
『なんだそれは』
「ピンチの時に使う魔法や。流れが変わる」
『……面白い』
——そうだ。
まだある。
『まだ終わってねぇ!』
——混沌とした覚醒。
オーラが膨れ上がる。
(これで終わりだ)
ルンタは立ち上がる。
だが——何も起きない。
『……は?』
オーラだけが空しく膨らむ。
『おい、δ!どういうことだ!』
——なんや。
眠そうな声。
『何も起きねぇぞ!』
——何も起きへんわけちゃうやろ。
ちゃんと“起きてる”で。
『ふざけるな!』
——ふざけてへんで。
あんたの望み通りや。
“戦わずして勝つ最強”。
それやろ?
『違う!!』
——ほな知らんわ。
あんた、自分が上に立ってると思ってたんか?
ちゃうで。
使われてただけや。
沈黙。
カザンの中で、何かが崩れる。
『……嘘だろ』
魔力が抜けていく。
刀身が崩れていく。
『俺は……最強のはずだ……』
声は、もう誰にも届かない。
——静寂。
ルンタは動かなかった。
「……違う道も、あったはずだな。」
そう呟き、手を合わせる。
『旦那……そんな奴にもか?』
クサナギが問う。
「合わせねばならぬ。」
「選ばれた剣がいるかもしれぬからな。」
クサナギは静かに地に刺さる。
『俺っちはカザンじゃないからな』
ただの静かな音だった。
ルンタはロウとカザンの残骸を拾い、土に埋める。
——次は、こんな終わり方をしないように。
空が、やけに青かった。
「おーい!」
誰かの声がした。
「……なんか今回、重くなかった?」
「エリック殿、珍しくまともなことを言うな。」
『ロウもカザンも……色々あったな。』
「……。」
「……。」
『……で、なんでリサだけいないんだ?』
「……あいつ、焼き芋追加で焼いてる。」
「空気読め。」
「読めるけど食べたいものは食べたいの!」
「はぁ……台無しだな……。」
『いや逆に平和でいいだろ!』
——パチパチ、と焚き火の音が響く。
「……ほんまに、そう思っとるんか?」
「「「……っ?」」」
「あれ?もう終わった感じ出してるやん。」
「その声……!」
「いややなぁ、さっきまでおったやろ?」
「「「δ!?」」」
「あの剣、ええ感じに壊れてくれたわ。」
「お前……何が目的だ。」
「さてなぁ。」
「——次回」
「「「救いと本当の気持ち」」」
「“次に壊れるんは誰やろな?”」
「やめろ。」




