表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/63

二十七話 聖剣の里とクサナギの過去

夜、星の下。

クサナギは夢を見る——“軽い剣”と蔑まれた過去を。


だが今は違う。

自分は選ばれた剣だと、そう言い聞かせる。


翌朝。

焚き火を囲む穏やかな時間に、一人の老人が現れる。


腹を空かせ、弱々しく笑うその姿。

だがその手は——どこか“戦いを知る者”のものだった。


「聖剣の里へ行くのか……」


その一言で、空気が変わる。


「——あそこは、もう昔の場所ではない」


選ばれるはずの聖剣。

だが今は、“選ぶ側”に成り下がった里。


そして老人は静かに告げる。


「お前もなるなよ。“同士”よ」


その言葉の意味を、まだ誰も知らない——。

――お前みたいな()()剣じゃ立派な剣士には拾ってはもらえないぞ!


(うるさいな、俺っちは選んでもらえたぞ。)


――クサナギみたいなやつよりも我らの方が先に出世できるだろ。


(うるさい!できないからこの里にいるんだろ?)


――お前は、聖剣の恥だ。


          ⬛︎⬛︎⬛︎


『俺っちは!』


クサナギは思わず声を上げて跳ね起きた。


辺りは静かな闇。

夢の中の声はもうどこにもない。


「……夢、か。」


気づけばクサナギの刃は、怒りを押し殺すように微かに震えていた。


それでも、クサナギは小さくつぶやいた。


『俺っちは……旦那に選ばれた剣だ。』


――


エリック達は魔導列車で富士山付近の駅へ行き、そこから麓を目指していた。


すでに日はどっぷりと暮れており、今は野宿の夜だった。


(里に近づくと変な悪夢を見るんだ。俺っちはあの頃とはもう違う。)


そう思っても、クサナギはなかなか寝付けない。

勝手にテントを抜け出し、星を見上げていた。


都会から離れた空は街灯もなく、やけに星が近い。


(きっとみんなは俺っちを認めてくれる……。だって、今まで見てきた中で一番すごい剣士だから……。)


「クサナギ、寝付けぬのか?」


いつの間にか、ルンタが隣にいた。


『いつのまに!』


「そっちこそだ。刀がなくなればすぐわかる。戦に行けぬからな。」


ルンタは草原に腰を下ろす。


「拙者はお前を“軽い剣”とは思わぬ。」


『なんで知ってるの?』


「お前の夢が全部、起きてた拙者に垂れ流しだったからな。」


そう言うとルンタは、クサナギを腰に差す。


「軽い剣かどうかは——」


「戦場で証明すればよい。」


ルンタはクサナギを鞘に収め、テントへ戻ろうとする。


――が。


「こっちじゃない。」


気づけば、知らない森の中だった。


『……。』


「ここはどこだ?」


ルンタはまだ気づいていない。


だがクサナギは理解していた。

このままでは戻れないと。


『俺っちの移動魔法使って……。』


一度はふざけてみたが、さすがに方向が滅茶苦茶すぎる。

クサナギは折れた。


「すまぬな。」


ルンタはクサナギの作ったワープ魔法陣に入り、ようやくテントへ戻る。


――その頃には朝日が昇っていた。


しかも、テントの外で。


「おーい!どこ行ってたんだよ!」


遠くで薪を集めていたエリックが声をかける。


「少し散歩にな。」


「迷って帰ってこれなかっただけですよね?」


リサには全てお見通しだった。

手のひらに小さな火種を生み、薪に火をつける。


冬が近い朝。白い空気が少しずつ温まっていく。


「暖かいね。」


リサは悴む手を焚き火にかざし、ほっと息をつく。


その横でエリックは焼きマシュマロと焼き芋を焼いていた。


「ルンタ早く座れよ、エリック特製の焼きマシュマロと焼き芋、ご賞味あれ!」


リサが迷わず口に運ぶと、マシュマロは口の中で溶けて消える。


焼き芋はほくほくで、割ると蜜が垂れた。


――不味いわけがない。


焼き芋とマシュマロが二つずつ減ったころ。


遠くから、腹を押さえた老人が歩いてくる。


「……旅のものよ……少し、分けてくれぬか」


その手つきは、どこか“握ることに慣れた者”のようだった。


「もちろんですよ。おじいさん。」


焼き芋を受け取った老人は、一瞬だけ動きを止める。


まるで扱い方を思い出すように。


(……なんだこいつ)


クサナギは刃をわずかに震わせる。


(あいつらとは違う……けど、似てる)


「どこに向かっておるのだ?」


老人が問う。


「“聖剣の里”に行きます。」


エリックが焼き芋を頬張りながら答える。


「わしも、行こうとしていたところだ。」


「一緒に行きませんか?」


リサは当然のように言う。

エリックは少しだけ面倒そうな顔をした。


「いいのか?」


「ええ、ねっエリック?」


(……なんか変な爺さんだな。手つきとか)


だが放っておくのも後味が悪い。


「いいよ。行こっか。」


エリックは渋々了承した。


「……あそこは、変わってしまった」


老人がぽつりと呟く。


「何故ですか?聖剣が集うところじゃないんですか?」


リサが髪を整えながら聞く。


その瞬間、クサナギが老人を見た。


何かを確信するように。


『違うんだ。あそこは、欲と見栄が蔓延る里だ。』


珍しく、冷たい声だった。


『聖剣は本来、選ばれるべきなんだ。でもあいつらは選ぶ。』


「そうなのか?」


ルンタが息を吐く。


『俺っちは、この性格と固有魔法が羨ましがられて追放された。』


「追放……?」


エリックは唾を飲む。


『多分、あいつらは旦那ほどの剣士を見たら食いつくはずさ。』


クサナギは刃を小刻みに揺らす。


「選ばれることを忘れた剣は……いずれただの刃になる。お前もなるなよ。同士よ。」


老人は最後の焼き芋を食べ終え、静かに息を吐いた。


――その言葉に、クサナギはわずかに震えた。


「安心しろ、拙者は何があろうとクサナギしか選ばぬ。」


ルンタは火を消し、立ち上がる。


「拙者が選んだのだ。——それ以上の理由がいるか?」


その義眼には、青い覚悟の炎が静かに燃えていた。

「てかあの爺さんなんだったの?リサはどう思う?」


「普通でしょ?」


『……。』


「拙者は少し違和感を感じだが……。」


『次回……』


「何勝手に締めようとしてんだよ」


『次回……』


「なんだクサナギ、早く帰りたいのは拙者も同じだが少し待て、」


『次回……』


「えっ怖い怖い。」


『次回……』


『あちら側とこちら側』


『俺っちは——あいつを知っている。』


『絶対、あいつを許さない。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ