二十七話 聖剣の里とクサナギの過去
夜、星の下。
クサナギは夢を見る——“軽い剣”と蔑まれた過去を。
だが今は違う。
自分は選ばれた剣だと、そう言い聞かせる。
翌朝。
焚き火を囲む穏やかな時間に、一人の老人が現れる。
腹を空かせ、弱々しく笑うその姿。
だがその手は——どこか“戦いを知る者”のものだった。
「聖剣の里へ行くのか……」
その一言で、空気が変わる。
「——あそこは、もう昔の場所ではない」
選ばれるはずの聖剣。
だが今は、“選ぶ側”に成り下がった里。
そして老人は静かに告げる。
「お前もなるなよ。“同士”よ」
その言葉の意味を、まだ誰も知らない——。
――お前みたいな軽い剣じゃ立派な剣士には拾ってはもらえないぞ!
(うるさいな、俺っちは選んでもらえたぞ。)
――クサナギみたいなやつよりも我らの方が先に出世できるだろ。
(うるさい!できないからこの里にいるんだろ?)
――お前は、聖剣の恥だ。
⬛︎⬛︎⬛︎
『俺っちは!』
クサナギは思わず声を上げて跳ね起きた。
辺りは静かな闇。
夢の中の声はもうどこにもない。
「……夢、か。」
気づけばクサナギの刃は、怒りを押し殺すように微かに震えていた。
それでも、クサナギは小さくつぶやいた。
『俺っちは……旦那に選ばれた剣だ。』
――
エリック達は魔導列車で富士山付近の駅へ行き、そこから麓を目指していた。
すでに日はどっぷりと暮れており、今は野宿の夜だった。
(里に近づくと変な悪夢を見るんだ。俺っちはあの頃とはもう違う。)
そう思っても、クサナギはなかなか寝付けない。
勝手にテントを抜け出し、星を見上げていた。
都会から離れた空は街灯もなく、やけに星が近い。
(きっとみんなは俺っちを認めてくれる……。だって、今まで見てきた中で一番すごい剣士だから……。)
「クサナギ、寝付けぬのか?」
いつの間にか、ルンタが隣にいた。
『いつのまに!』
「そっちこそだ。刀がなくなればすぐわかる。戦に行けぬからな。」
ルンタは草原に腰を下ろす。
「拙者はお前を“軽い剣”とは思わぬ。」
『なんで知ってるの?』
「お前の夢が全部、起きてた拙者に垂れ流しだったからな。」
そう言うとルンタは、クサナギを腰に差す。
「軽い剣かどうかは——」
「戦場で証明すればよい。」
ルンタはクサナギを鞘に収め、テントへ戻ろうとする。
――が。
「こっちじゃない。」
気づけば、知らない森の中だった。
『……。』
「ここはどこだ?」
ルンタはまだ気づいていない。
だがクサナギは理解していた。
このままでは戻れないと。
『俺っちの移動魔法使って……。』
一度はふざけてみたが、さすがに方向が滅茶苦茶すぎる。
クサナギは折れた。
「すまぬな。」
ルンタはクサナギの作ったワープ魔法陣に入り、ようやくテントへ戻る。
――その頃には朝日が昇っていた。
しかも、テントの外で。
「おーい!どこ行ってたんだよ!」
遠くで薪を集めていたエリックが声をかける。
「少し散歩にな。」
「迷って帰ってこれなかっただけですよね?」
リサには全てお見通しだった。
手のひらに小さな火種を生み、薪に火をつける。
冬が近い朝。白い空気が少しずつ温まっていく。
「暖かいね。」
リサは悴む手を焚き火にかざし、ほっと息をつく。
その横でエリックは焼きマシュマロと焼き芋を焼いていた。
「ルンタ早く座れよ、エリック特製の焼きマシュマロと焼き芋、ご賞味あれ!」
リサが迷わず口に運ぶと、マシュマロは口の中で溶けて消える。
焼き芋はほくほくで、割ると蜜が垂れた。
――不味いわけがない。
焼き芋とマシュマロが二つずつ減ったころ。
遠くから、腹を押さえた老人が歩いてくる。
「……旅のものよ……少し、分けてくれぬか」
その手つきは、どこか“握ることに慣れた者”のようだった。
「もちろんですよ。おじいさん。」
焼き芋を受け取った老人は、一瞬だけ動きを止める。
まるで扱い方を思い出すように。
(……なんだこいつ)
クサナギは刃をわずかに震わせる。
(あいつらとは違う……けど、似てる)
「どこに向かっておるのだ?」
老人が問う。
「“聖剣の里”に行きます。」
エリックが焼き芋を頬張りながら答える。
「わしも、行こうとしていたところだ。」
「一緒に行きませんか?」
リサは当然のように言う。
エリックは少しだけ面倒そうな顔をした。
「いいのか?」
「ええ、ねっエリック?」
(……なんか変な爺さんだな。手つきとか)
だが放っておくのも後味が悪い。
「いいよ。行こっか。」
エリックは渋々了承した。
「……あそこは、変わってしまった」
老人がぽつりと呟く。
「何故ですか?聖剣が集うところじゃないんですか?」
リサが髪を整えながら聞く。
その瞬間、クサナギが老人を見た。
何かを確信するように。
『違うんだ。あそこは、欲と見栄が蔓延る里だ。』
珍しく、冷たい声だった。
『聖剣は本来、選ばれるべきなんだ。でもあいつらは選ぶ。』
「そうなのか?」
ルンタが息を吐く。
『俺っちは、この性格と固有魔法が羨ましがられて追放された。』
「追放……?」
エリックは唾を飲む。
『多分、あいつらは旦那ほどの剣士を見たら食いつくはずさ。』
クサナギは刃を小刻みに揺らす。
「選ばれることを忘れた剣は……いずれただの刃になる。お前もなるなよ。同士よ。」
老人は最後の焼き芋を食べ終え、静かに息を吐いた。
――その言葉に、クサナギはわずかに震えた。
「安心しろ、拙者は何があろうとクサナギしか選ばぬ。」
ルンタは火を消し、立ち上がる。
「拙者が選んだのだ。——それ以上の理由がいるか?」
その義眼には、青い覚悟の炎が静かに燃えていた。
「てかあの爺さんなんだったの?リサはどう思う?」
「普通でしょ?」
『……。』
「拙者は少し違和感を感じだが……。」
『次回……』
「何勝手に締めようとしてんだよ」
『次回……』
「なんだクサナギ、早く帰りたいのは拙者も同じだが少し待て、」
『次回……』
「えっ怖い怖い。」
『次回……』
『あちら側とこちら側』
『俺っちは——あいつを知っている。』
『絶対、あいつを許さない。』




