十八話 グレると聖剣
——ここは、清水寺
「へぇ、ここにあのアーティファクト“草薙の剣”があるのか……。」
魔族のシャークが清水寺の最深部に向かっている。
シャークは腰に西洋式の剣を指している。
——コツコツ
石畳を歩く音が反響してシャークの周りを取り巻く。
——コツ
シャークは足を止めた。
正面に剣が悠々と刺さっている。
『誰だお前は?』
(喋れるのかこの剣……。)
草薙の剣の声がシャークの脳内に直に響く。
「俺はシャークだ。β様の命令より草薙の剣の回収を命じられた。」
『お前にか……?俺っちが?』
草薙の剣は魔力を刀身に溜める。
「まぁまぁ落ち着け……。貴様、神器ってのに嫌気が刺してるだろ。」
『……何故わかる?』
「聖剣様がこんなダンジョンにはいないだろう普通。」
——聖剣
生前思い入れのあった剣に魔力がこもることで固有魔法と意思を手に入れた剣のことだ。
使う者次第で力は変わる。
だからこそ、剣はただの道具ではない——まさに相棒なのだ。
シャークは草薙の剣に寄る。
「俺はお前を誰よりも普通の剣として欲しい。神器らしくなくていい。」
『そうか……面白いな。俺っちは、いつも“聖剣らしくない”“その態度を改めろ!”とか自由じゃなかったんよ。お前はそれから解き放ってくれるのか?』
草薙の剣は徐々に刀身が勝手に抜ける。
『ならついて行くわ、よろピー。改めて俺っちは“クサナギ”と呼んで。』
「必ずお前を見たことのない景色に連れてってやる。」
ついにシャークはクサナギを手にした。
この後、クサナギの人生の最大の相棒との出会いになるとはまだ知る由もない。
——時は少し経ち
「とりあえず、清水寺に向かう前に、食料とかを買い込むために路銀を貯めよう。」
昨日ルンタにボコボコにされたエリックがピンピンして言う。
「路銀……あれ?私が依頼の時に金貨三枚の報酬貰ってましたよね……?」
エリックの顔がこわばる。
「……実は……使っちゃって……。」
「えっ?なんて?」
リサは怒ってないよとでもいうような笑顔をする。しかし笑顔には圧があった。
「……竜の里で魔導書買っちゃった☆」
——ズブブ
宿屋からは絶対聞かない音をたてて下から沈み始めた。
「なになになに……?」
エリックは脱出しようと踠くがそれに反して段々体が沈む。
「それは地面を底なし沼にする魔法です。安心して
死にはしないから。」
リサは柔らかく笑う。エリックはその笑顔が余計怖かった。
——ズブブ
「……拙者よりもエグいことするな。」
ルンタは“殿より怖い”と肝に銘じた。
「買った魔法は……“髪をイチゴの香りにする魔法”。」
エリックは機嫌を取ろうとリサに買った魔法をかける。リサの髪からふんわりとイチゴの香りがした……。
——逆にそれだけの実用性皆無の魔法だ。
リサはさらに3センチ沈めた。
「路銀を集め直しましょう。ギルドに行きますよ。ルンタ。」
「エリック殿は?」
「反省するまで放置です。」
「滑稽だな。」
ルンタは笑う。
「ルンタ、テメェ後で覚えておけよ!」
エリックは強い言葉を使うが姿が姿なので威厳がない。
——ギルドにて
ギルドの酒場で男が話している。
「オイオイ、聞いたか?草薙の剣が何者かに渡ったってよ!」
「しかもここ最近ハイオークが出回ってるって……。依頼でも上がってるけど誰も達成できないから金貨85枚の報酬になっている……。」
「それ、私達受けます。」
ギルドに入っていたリサが話に割り込む。
「お嬢ちゃん。ハイオークはSS級だぞ。一級魔法使いでも対処が難しいんだぞ。」
魔法使いには主に四級から始まり最大、特級まで存在している。
リサは五十年前に一級魔法使いの免許を更新したばっかりだ。
「リサ殿。ハイオークの依頼受けるのか?」
道に迷って遅れてきたルンタも合流する。
「えぇ。草薙の剣の騒動はルンタに任せる。私、か弱いから。」
(か弱い……?)
ルンタは納得したような、しなかったような気がした。
リサは受付に行く。
「私達、この依頼受けます。」
「……死亡保険はついてませんよ。」
「構いませんよ♪」
リサがイタズラぽく笑う。
「拙者は草薙の剣の依頼を受ける。」
ルンタが紹介状にハンコをおして受注する。
「あれ?ハイオークは私達で倒すって言ってましたよね?」
「はい……私の連れとやります。」
リサは静かに言う。
「お連れさんの役職は?」
「魔法使いです。」
「階級は?」
「特級です」
受付が声を失う。
「特級……?この広い世界に何百人といない。魔法使いの頂ですよ?では安心して依頼を受注させられます。」
こうしてリサはハイオークの討伐を、ルンタは草薙の剣の回収のためにそれぞれの支度を始めた。
——宿屋では。
「……ん?」
エリックは数時間経っても帰ってこないリサ達を心配する。
それよりもここから出してほしいのだが。
宿屋の扉をリサが開けると魔法を即解除する。
「どうした?そんな急いだ顔をして?」
「エリック、依頼です。しかも高額報酬ですよ。」
「……草薙の剣はどうするんだ?」
エリックは完全に高額報酬に目が眩んでいるが一旦隠しておく。
「今誰かに持ち出されていて、それを回収するつもり。」
「で?いくら?」
「金貨85枚」
「よし、すぐ行こう。」
エリックは鼻歌を歌いながら宿を出た。
(ちょろくて助かった……。)
そんなリサの思いも梅雨知らずバカは駆け出した。
「グヘヘ。金貨85枚……。」
「開幕から欲丸出しですよ……。」
「だって85枚だぞ。一生遊んで暮らせる金額グヘヘ……。」
「エリックは多分三日で使い切りますよ。」
「拙者もそう思う。」
「僕も……。」
「作者は黙れ」
「……次回(涙)」
「「「エリックと飢える者」」」
「黙れって言われたよ〜」




