十五話 終演と脱出
夢は、消えない。
ただ、ときどき
作者の都合上、語れなくなるだけだ。
——楽園。
その名を口にしたのは、ずいぶん久しぶりだった。
忘れていたわけじゃない。
物語の流れと、現実の展開と、
色々な事情が重なって、
少し奥へ置いていただけだ。
十二の地図。
十二のアーティファクト。
理屈で数えれば、無謀。
だから黙っていた。
けれどその夜、
唐揚げにマヨネーズをかけすぎる竜が、
人の夢を笑わなかった。
それで十分だ。
作者の都合も、世界の設計も、
ときどきは越えていく。
夢は、また語られる。
乾杯の続きは——
空の上で。
——宴会も終盤に差し掛かる。
『そろそろ、会も終演だ!残さず食えよ!』
ドラが豪快に肉を食べる。
『そうだ、お前ら、なぜ、このダンジョンに来たのだ?』
ドラがエリックに聞く。
「僕たちは、楽園を目指してる。」
——一人と一頭の間に風が吹く。
「なんだ、笑わないのか?」
エリック酒を一口飲む。
エリックは眠ってしまったリサをそっと撫でる。
リサは嬉しそうに笑う。
『人のでっかい夢を馬鹿にはしねぇよ。』
ドラは静かに言った。
『楽園……名は知っている。12個の地図の破片、12個のアーティファクトを集めないと辿り着けない、全ての魔法が集う地……。』
ドラはマヨネーズたっぷりの唐揚げを頬張りながら言う。
「しかも、国に一つずつしかない……。ある国も全く検討がついていない……。」
エリックは肩を落とす。
『エリック、その状態で旅してたのか?』
「あぁ。無謀だろ。」
エリックは自嘲気味に言う。
『なら、少なくとも知っているアーティファクトの場所がある。』
「……!」
『そこは、西の魔法都市“キョウト”にある清水寺の最深部にある“草薙の剣”だ。』
キョウトはアサクサに注ぐ日本の中でも有数の魔法都市。
キョウトは魔法のなかった時代を守る文化が強く根付いていて、今も数多く残っている。
『楽園を目指したものの最初の鬼門だ。』
「取りに行くだけだろ?もう既に取られてるかもしれないぞ。」
エリックは残り少なくなったジョッキを軽く傾け、考えるように泡を眺める。
ドラは骨つき肉をかじりながら、にやりと笑う。
『いや、誰にも取られていない……。』
エリックは酒を注ぎ、ゆっくりとジョッキを傾ける。
「何でだ?」
『草薙の剣は、認めた強い剣士にしかつかない、めんどくさい性格でな……。』
ドラは骨をポイっと捨てる。それをすかさず別のドラゴンが拾い捨てる。
『多分、お前達を認めないだろう。』
「はぁ?認められねぇのかよ。」
エリックは泡を揺らす。
『本当にめんどくさくてな、今まで何人も取りに行ったが、全員認められなかった……。』
「じゃぁ、認めさせればいいんじゃないなぉ?」
起きたリサがゆったりと喋る。
『お嬢ちゃん、そう簡単な話じゃねぇんだよ。あいつは本当にうざくて、めんどい。』
(ドラがこんなに念を押すくらいめんどくさいのか……。)
しかしエリックは笑っていた。
「面白い!余計認めさせたくなった!」
「話は聞いた。拙者が手懐ける。」
いつのまにか隣に座っていたルンタが、ジョッキを軽く揺らしながら言う。
『ガハハハ。やっぱ若者はこうでないとな!明日には出るだろ?寝てる間に、道を開けておく!明日に備えて今日は休め。』
そう言い残しドラは去った。
こうして愉快な宴会は終わり、皆は帰路についた。
笑い声はまだ耳に残るが、夜の空気に溶けていく。
少し寂しくもあるが、彼らには帰るべき場所がある
——それぞれの、心の居場所が。
——翌日
朝という感覚はエリック達はなかった。
かろうじて目覚まし時計が鳴ったため朝とわかった。
(忘れてたけどダンジョンの中かここ……。)
エリックは腕を大きく伸ばす。
「うーん。頭痛い……。」
リサは二日酔いで完全ダウンしている。
「エリック殿、リサ殿、おはようございます。」
ルンタは朝食を用意していた。
フレンチトーストを焼く音、バターがジュワッと溶ける香り。
コーヒーの蒸気が立ち上る。
「お前、料理できるのか?」
「戦の時に、食べ物がなくなっては困るからな。今はこの体だから、何でも作れるぞ。」
ルンタはエリックにはフレンチトーストをリサにはお粥を出した。
「リサ殿は二日酔いだろうから食べやすいものにしたぞ。」
「……ありがとう。」
リサは頭を抑えながら席に着く。
「じゃあ食うか。」
「「「いただきます。」」」
ルンタはフレンチトーストを優雅にコーヒーと共に食べる。
その姿は元武士とは思えない。
「ドラさんの話だともう地上に出られるらしい。」
エリックはコーヒーを一口飲む。
「昨日の流れ的に拙者も同行することになっているが……エリック殿達はそれでいいのか?」
ルンタはコーヒーのカップをゆっくり回す。
「はぁ?何今更言ってんだよ!僕たちのパーティじゃ前衛いなかったし、それに今まで会った剣士の中で一番強い。」
エリックはコーヒーとフレンチトーストを同時に流し込む。
「僕は、お前が必要だ。」
——一瞬。
間が開く。
「“必要”か……。言われたのは殿以来だな。」
ルンタは握り拳を前に突き出した。
エリックも突き出す。
「了承ってことだな。」
二人は熱いグータッチを交わした。
三人が外に出ると光が刺してエリック達は目を瞑る。
エリック達が目を開けるとそこには目を疑う光景が広がっていた。
(穴、空いてる……。) (まだ酔ってるのかな?私)(真か?)
『ガハハハ。起きたか!昨日の夜のうちに我が家に伝わる秘技“破壊光線”で天井を開けた!』
(もう、無茶苦茶……。でも、)
「ありがとう!ドラさん。」
『ガハハハ!礼はいらん。そうだ、エリック……。』
ドラはエリックに魔法式のメモを手渡した。
『友の印だ。過去に一度その魔法をあげたことがある。』
『“髪をビシッと決める魔法”だ!これを持ってれば私とエリック達のズッ友だ!』
リサはハッとした。
『さぁ行け!楽園の到着の報告待ってるぞ!』
エリック達は他の竜に乗せられて空へ旅立つ。
(あの、カインに見せてやりたかったな。)
「ルンタ、パーティに入ってくれてありがと。」
「いいんだ。拙者が必要なのだろ?」
「というか、楽園について語るのは久しぶりですね……。」
「そうだった!旅の目的楽園に行くことだった!」
「「「作者が、忘れんな!」」」
「Aø が登場してから路線が怪しくなって……。」
「まぁ急に旅関係なくなったなって思ったけど……。」
「まぁ拙者の加入理由と“草薙の剣”というアーティファクトの存在を何とかひっくるめられたではないか。」
「僕天才!」
「「「調子乗んな!」」」
「ボコボコに言われたところで、次回」
「「「英雄と馬鹿」」」
「……これ、いじめじゃなくて団結力だよな?」




