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十四話 酒宴と原初の世界

——竜の里の歓迎会は愉快だ。


普段は甘えないエルフも、今日は膝に額をこつんと押し付け、にへらと笑う。

酔えないとぼやく剣士は、骨つき肉を豪快に頬張りながら文句を言う。

竜たちは唐揚げにマヨネーズをかけ、豪快に笑い声を響かせる。


そして——

原初の伝承が、舞台で静かに幕を開ける。


ダンジョンの奥深くで、こんな愉快な宴会が行われているとは誰も想像できないだろう。


——乾杯!


ジョッキがぶつかる音に、笑い声が重なる。


誰かが唐揚げを落として竜に追いかけられる騒ぎもあったけれど、誰も気にしない。


今日はただ、笑って、食べて、甘えて——そんな日なのだ。


——同時刻、地上では。


ここは新宿駅の外、アユミはモニターを見つめる。


(……もうほとんどの卵達がダンジョンから出た。)


アユミはコーヒーを飲む。コーヒーには角砂糖が6個も入っていた。それでも、まだ苦い。


(それなのに、エク、リサ、ルンタ、この三名が脱出できていない。)


“エク”とはエリックがマチルダに忠告されてつけた偽名だ。


(S級(エスクラス)が何体もいる。死んだら反応するはず?)


しかし、彼らはまだ生きている。


アユミはどこにいるのか見当もつかなかった。


——同時刻、竜の里では。


「って訳さ。」


「いや……全部聞いてもやっぱり意味わかりません、特に最後らへんが……。」


リサは考えることを止めようとしている。


「エリック殿、竜の里の皆さんが歓迎の酒宴を開いてくれるらしいぞ。」


ルンタは既にエールの木のジャッキを持っていた。


(……酒!)


リサはAøの襲来によってなかったことにされた、飲酒を待ち侘びる。


『ガハハ!エルフのお嬢ちゃん、この街のエールは他にもみないうまさだぞ!』


リサの顔がパッと明るくなる。


「エリック、早く行こう。」


リサはエリックの袖を引っ張って半ば強引に外に連れ出した。


外出ると、屋台が立ち並んでいて竜達がお祭り騒ぎしている。


(そういえば……お兄ちゃんがあった竜の好物って確か……。)


リサが一つの屋台の売り物を見た時、仰天した。


(唐揚げ……!しかもマヨネーズたっぷり……。)


『なんだ?』


「いえ、私の兄があった竜の好物がマヨネーズたっぷりの唐揚げでしたから。」


リサは一つ唐揚げを摘む。


リサは猛烈な背徳感に胃もたれがする。


『ガハハ、奇遇だな。私と同じではないか!そいつにも会ってみたいものだ!』


ドラは豪快に笑った。


「で、お酒はどこ……?」


リサはきょろきょろと辺りを見回す。


『あぁ、里の中心にビールサーバーがある。その近くに、あのフードコートで紙コップを取るやつの……木のジョッキ版があるからな。』


一瞬、風が止まる。


(……なんでそこだけ現代式なのよ……。)


遠くに見える、堂々たる“木製ビールサーバー”。


横には、レバーを押すと

カコン、と落ちてくる木製ジョッキ。


どう見てもセルフ式だ。


「リサ殿、本当にこの酒は美味しいぞ。戦国の世でも飲みたかった……。」


ルンタは既に三杯も飲んでいた。しかし彼はサイボーグなので全く酔わない。


「酔わない体も、悪くはない。」


ルンタはさらにおかわりを求めビールサーバーに向かった。


「よし、あのでっかい骨つき肉食べよう!」


エリックはある屋台にあった骨つき肉を貰い食べる。


『人間、よく食べるな。』


竜達もエリックの隣でエリックよりも大きな骨つき肉を食べている。


『原竜広場で劇が始まりますよ〜。よかったら見てってください』


(劇か、面白そうだ。)


エリックは何かに吸い寄せられるように広場に向かった。


広場にはリサとルンタも見に来ていた。


「エリック殿も見るのか?」


ルンタが何杯目かわからないほど注いだジャッキを持って言う。


「わたし、劇とか初めてぇ〜楽しみ。」


リサは空のジョッキを抱えたまま、にへらと笑った。


「それでは始めるよ〜。『自由なる画布』!」


原竜広場では、焚き火が灯り、竜たちが半円を描く。


簡素な舞台の中央に、仮面をつけた一人の役者が立つ。


ナレーター役の龍が語り始める。


『これは、世界に魔法が誕生してまもない頃——。』


『あと、一歩でこの世界は我のものだ。』


魔王Ø(スラッシュ)役の竜は黒い布を被り姿を表す。


周りの木々が枯れ痩せかけている。


『邪悪は広がり、空は裂け、血の海が広がった。』


ざわ、と観客の竜たちが息を呑む。


そのとき。


白い外套の魔法使いが現れる。


顔は仮面で隠されている。


『そうは、させないぜ!』


『彼の名は……』


——原初の魔法使い。


(原初の魔法使い……聞いたことない話だな。)


『彼の魔法は、炎でも、水でも、なかった。』


舞台上の魔法使いが、空中に手をかざす。


赤い布と青い布が同時に投げられる。


それが空中で絡まり、紫に変わる。


『すべてを分け、すべてを混ぜ、世界を“描き直す”力。』


『彼は、空を自由に飛び、枠にとらわれない。自由な男だった。』


舞台では竜役が吠える。


『人の身でありながら、我を友と呼んだ愚か者よ!』


原初の魔法使いは笑う。


『世界が終わるなら、笑って描き直せばいい。支配されるだけの、世界じゃつまんないだろ!』


焚き火の火が一瞬だけ揺らぐ。


エリックの視界が、わずかに歪む。


舞台上、Ø(スラッシュ)が魔法使いを飲み込もうとする。


『だが、無はすべてを呑む。“自由”?馬鹿馬鹿しい妄言を吐くな!』


『こうして、原初の魔法使いとその使いのドラゴンと魔王Ø(スラッシュ)との戦いが始まりました。』


ナレーターが、声のトーンを落とす。


『勝利したのは原初の魔法使い達でした。しかし完全に魔王を倒し切ることはできなかったので、封印しました。』


魔王Ø(スラッシュ)役のドラゴンが倒れる。


『こうして、世界に平和は訪れました。しかし、原初の魔法使いは、その後姿を消しましたとさ……。』


話が終わり、竜達から喝采が起こる。


ドラは横で見ているエリックを見つめる。


『何か……似ている。』


しかしドラは酒宴を楽しむことを優先した。


(こんな楽しい酒は久しぶりだな……。)


エリックは最後の一滴まで飲み干す。


リサもフラフラとした足取りで、お酒を注ぐ。


「エリック殿……この体になってから酔わなくなってしまった……。」


ルンタはもう何杯めかわからないほど酒を飲んでいる。


「あはは、僕も無駄に強くてね。」


エリックはこめかみをかく。


「ねぇ……エリックぅ。」


リサはいつもより柔らかい声で呼ぶ。


袖をきゅ、と掴む。


「さっきのさぁ……原初の魔法使い。」


エリックがちらりと見る。


「ちょっとだけ、似てたよ?」


にへら、と笑う。


「笑いながら戦うとことか。バカみたいに自由なとことか。」


一歩、近づく。


「でもねぇ……」


リサはエリックの胸元に額をこつん、と当てる。


「いなくならないでよ?」


リサはエリックの膝を枕にする。その姿は小さな子供のようだ。


焚き火が、空気を察したように揺れた。


「原初の魔法使いみたいに、急に消えたらやだ。」


ぎゅ。


袖じゃなくて、今度は服の裾を握る。


「どこか行くなら、わたしも連れてって。」


一瞬、静寂。


竜たちのざわめきが止まる。


ルンタは、無言でエールを飲む。


ドラはにやりとする。


「だってぇ……」


リサは顔を上げる。


とろり、とした目。


「わたし、エリックの隣がいいもん。」


沈黙が走る。


三秒。


五秒。


そして——


『ガハハハハハ!!!』


竜たちが爆笑する。


『若いなァ!』


『青春だなァ!』


エリックは顔を真っ赤にする。酔いが遅れて回ってきたわけではない。


「……一人は……いや。」


数秒後。


リサはそのまま、安心したように猫のように丸く寝てしまった。

「エリック殿、リサ殿は酒に飲まれるタイプなのか?」


「悪い、これに関しては、僕に関しても知らなかった。」


「エリックぅ〜抱っこしてぇ。」


「おい、次回予告でも酔ったままなのよ……。」


「エリック貴様!」


「なんだよ作者……。」


「お前らイチャイチャしやがって!俺も彼女ほじいぃぃいいい。」


「うるさいぞ、作者殿。」


「じゃあ〜作者にもぉ、わ・た・しの」


「やばい、健全な読者には到底見せらない。自主規制だ、ルンタ!」


「あぁ。」


——えへへ

——ドン

——グシャ


「……次回」


「「「終演と脱出」」」


「リサキャラ壊れすぎだろ……。」


「作者のせいだろ」

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