十三話 竜と街
——……リッちゃん……ただいま。
「何してたの!三日も帰らずに!」
リサはボロボロの兄をポコポコ叩きながら言う。
——面白い……ドラゴンに会ったんだ。
兄はリサの頭をそっと撫でる。
「面白いって?」
リサは兄を睨んで言う。
——正直言うと、三日三晩、ドラゴンと戦った。あいつ強かったなぁ……。
「どれだけ心配したか、わかってるの?」
リサは涙ぐんで言う。
——悪かったって、
それの代わりにな……。
兄はそっとリサの髪に触れた。
するとふわり、と風もないのにリサの髪が整う
——ドラゴンから貰った魔法だ。髪を綺麗にまとめる魔法さ。
リサの頬を膨らませる。
「ちょっと嬉しかった……。」
リサは悔しそうに言った。
——でも、寂しかったよ。
——寂しい
——寂しい……。
木で造られた天井。
ぶら下がった白熱電球が、ぼんやり揺れている。
(宿屋……?エリック、脱出したのかな?)
リサは自分の弱さが恥ずかしくなってきた。
(きっと、私がいなければ——もっと早く、進めた。)
胸の奥が、ぎゅっと潰れる。
(私がいなければ——傷つかずに済んだ。)
息が、うまくできない。
(私がいなければ——)
その先を、考えたくなかった。
いろんな感情が詰まった足を引きずり、1階に降りる。
そこには丁度エリックが誰かと談笑しながらコーヒーを飲んでいる。
——ガシャン
カップが割れる。
エリックは、じっとリサを見た。
「起きたのか、リサ。」
エリックはわざと素っ気なく言う。
「ごめんなさい。」
リサは頭を下げる、涙と後悔が溢れ床に滴る。
「私のせいで、ダンジョン踏破できませんでしたよね……。」
リサは続ける。
「私が弱かったからですよね……。」
「……ふっ。」
次の瞬間、エリックは腹を抱えて笑った。
「何、勘違いしてんだよ。仕方がなかっただろ、てかまだここはダンジョン内だよ。」
(ダンジョン内……?)
リサは困惑した顔をする。
「それに、お前のせいにはしないよ。」
エリックは柔らかく笑った。
リサはこの笑顔に救われた。
涙が、止まらない。
でも、さっきとは違う。
「起きたのか、リサ殿。」
「おい、ルンタ、また迷ったのか?」
「帰るのに一時間かかった、ドラさんに案内してもらわないと帰ってこれなかった。なぁドラさん。」
ルンタが隣にいるドラゴンに話しかける。
『何故、北に行けというのに東に行く?』
(……どういう状況?)
——刀を持ったサイボーグ
——緑の鱗をもった竜
リサはどこからツッコミを入れたらいいのかよくわからなくなった。
「エリック、私の寝てる間に何があったの?」
リサは混乱する頭の中で率直に出た言葉を言う。
「あぁ悪かったね。数時間前の話ね——。」
数時間前——
無事に遅刻魔に二度も勝利し、エリックとルンタはボロボロになっていた。
「お前、好きな食べ物とかあんのか?」
魔力探知に引っかかる魔物がなくなったのでエリック達は余裕を見せる。
「拙者は一応半分は人間だ……ガソリンとかは言わん。普通に唐揚げにマヨネーズつけた奴だ。」
「武士なのにマヨネーズとか好きなのか?」
エリックは軽く笑う。
「……あぁ特に某カロリー0を自称するマヨネーズが好きだ。」
「まじか……。」
エリックは意外な回答に落胆する。
「ガソリンって言うの求めてただろ。」
ルンタには全てお見通しだ。
今二人の中では、“どれだけ疲れていても歩ける”。という不思議な自信に満ち溢れていた。
——この足でどこまで行けるのか試してみたい。
地下三階の奥へ進むと次第に異様な雰囲気に包まれた。
(魔力が薄くなる……。)
エリックは所々にあるピンク色の結晶を見て確信する。
(魔封石……!まずいここで魔物と出会ったら……。)
——グァォオオオオオ。
遠くから咆哮が聞こえる。
「まずいぞ、ルンタ……。近くに遅刻魔以上の魔力を感じる。」
エリックの顔に焦りが現れる。
「しかもここは魔封石の鉱床が近くにある。つまり……」
——魔法が使えない。
ルンタは目を見開く。
「拙者らじゃ間違いなく戻れない……。そいつに遭遇する前に乗り切る……」
エリックは見てしまった、ルンタの後ろにドラゴンがいる。
「ルンタ……後ろ……。」
「ん?」
ルンタは振り返る。しかしまたエリックの方を見る。
「拙者は何にも見てない。さぁ別のところを散策するぞ。」
ルンタはどうやら現実を見たくないようだそそくさと切り抜けようとする。
『待て、旅のもの。』
ドラゴンが脳に直接語りかける。
「「喋ったぁ!」」
エリック達はついに動けなくなってしまった。
『そんなに怖がるでない。』
「あんた、ど、どうせ僕たちを喰う気だろ。」
エリックはブルブルと震えながら言う。
『ガハハ、本当に面白いな。人は喰わん。私の好物はマヨネーズ付きの唐揚げだ。』
「拙者と同じだ。」
『ほぅそうか。私の好みがわかるやつがいるのか!』
ドラゴンは急にテンションをあげる。
『その娘……いや、なんでもない。』
ドラゴンは咳払いする。
『竜の里へ案内しよう。休養を取るための宿もある。ついてこい!』
ドラゴンはエリック達を背中に乗せて歩き出す。
「なんか、助かったな。」
エリックは冷や汗を拭う。
『私は竜の里の次期長。ドラだ。』
「ドラさん。なんでここにいたんだ?」
エリックは初めて敬意を持って話す。
『ガハハ。警備だよ。まぁこれがもう暇で暇でな。』
『そして何より、竜以外の人種を見たのは初めてだ。図鑑にしか載ってないからな。』
ドラが歩くたびに地面が揺れる。
『そろそろ着く、これが我ら竜の里だ!』
竜の里は、ダンジョン内とは思えない異国の世界だった。
鱗がきらめき、ドラゴン達の声が響く。
温かい雰囲気に、エリック達は自然と安心した。
『みんな!よく聞け!我ら以外のお客が来たぞ!』
——ウォォォォ!
竜の里の竜達は一斉に喜び急いで歓迎の支度を始めた。
「ドラさん、いいところだな。」
『あぁ、そうだろ?私の誇りだ。』
ドラは鼻を高くした。
「助かったぁ〜。」
「初めて会ったのがドラさんでよかった。」
『ヤンキーだったら喰われてたかもな。』
「貴方が言うと冗談に聞こえないんですけど」
「リサ殿、拙者もそう思う。」
「ども、久しぶりの作者です。」
「一つ豆知識です、ルンタとドラの好物は私の好物でもあります。」
「僕はちなみにレモン派」
「拙者はもちろんマヨネーズ」
「私はわさび」
『「「わさび?」」』
「……と、ということで、次回」
『「「酒宴と原初の世界」」』
「わさび派がいるとは……。」
『竜の里に連絡せねば。』




