第33話 九条迅が見た景色
表彰式が進む中、RAVEN’S NESTのミラー配信も異常な盛り上がりを見せていた。数万人を超える視聴者が配信に集まり、チャットは流れ続け、誰もが神谷蓮という一人の若きプレイヤーの優勝を見届けていた。
九条迅は静かにモニターを見ていた。
いつも通り。
腕を組み。
椅子にもたれ。
大きなリアクションもしない。
だが長く見ている視聴者なら分かる。
今の九条はかなり機嫌が良かった。
コメント欄。
『九条さん嬉しそう』
『顔が違う』
『先輩ニヤけてるぞ』
『泣いてる?』
「泣いてねえよ。」
即答だった。
コメント欄。
『早いw』
『絶対見てる』
『草』
モニターにはトロフィーを掲げる神谷の姿が映る。
数か月前。
チームへ加入したばかりの頃の神谷が脳裏をよぎる。
実力はあった。
才能もあった。
だが荒かった。
勝てる試合を落とすこともあった。
感情で動くこともあった。
だからこそ。
ここまで来るとは思っていなかった。
コメント欄。
『最初から期待してた?』
『優勝予想してた?』
九条は少し考える。
「いや。」
「ここまで早いとは思ってなかった。」
コメント欄。
『おお』
『正直』
『でも認めてたんだな』
九条は頷く。
「強くなるとは思ってた。」
「でも大会って強いだけじゃ勝てないんだよ。」
「調子。」
「組み合わせ。」
「メンタル。」
「運。」
「全部いる。」
「だから優勝は難しい。」
コメント欄。
『確かに』
『プロの言葉』
『重いな』
モニターにはインタビュー中の神谷が映っている。
少し緊張している。
だが堂々としている。
コメント欄。
『成長したな』
『主人公だった』
『ルーザーズから優勝は熱い』
九条も小さく笑った。
「主人公っていうか。」
「馬鹿みたいに諦めなかっただけだろ。」
コメント欄。
『それ主人公』
『草』
『間違ってない』
九条は肩をすくめる。
「ウィナーズで負けた。」
「普通なら終わる。」
「グランドファイナルで追い付かれた。」
「普通なら折れる。」
「でも折れなかった。」
「だから勝った。」
コメント欄。
『かっけぇ』
『いい言葉』
『神谷聞いてるか』
配信スタッフも思わず笑う。
だが九条の表情は真剣だった。
神谷が優勝した。
それはチームにとって大きな出来事だ。
だが。
それで終わりじゃない。
九条は画面を見ながら呟く。
「これで終わりじゃねえぞ。」
コメント欄。
『お?』
『どういうこと?』
『次か』
九条は笑う。
「優勝したら追われる側になる。」
「次からは全員が神谷を倒しに来る。」
「今までより大変だ。」
コメント欄。
『確かに』
『王者の宿命』
『始まりか』
九条は頷く。
「そう。」
「今日で終わりじゃない。」
「今日から始まりだ。」
コメント欄。
『うおおおお』
『熱い』
『次の大会楽しみ』
トロフィーを掲げる神谷の姿を見ながら、九条迅は静かに笑った。
RAVEN’S NEST。
その新たなエースが、今日この日、世界へ名を刻んだのだった。




