第9話 ラスベガス到着
十数時間にも及ぶ長いフライトを終え、神谷蓮達を乗せた飛行機はアメリカ・ラスベガスへ到着した。
空港を出た瞬間、乾いた熱気が肌を撫でる。
「暑っ……」
思わず神谷が呟く。
日本の夏とは違う独特の暑さだった。
周囲を見渡せば巨大なホテル群や派手な看板が並び、日本では見られない光景が広がっている。
「これがラスベガスか」
神谷は思わず見上げた。
格闘ゲームプレイヤーなら誰もが一度は憧れる場所。
数々の伝説が生まれ、世界中のトッププレイヤー達が集まる舞台。
今年は自分もその舞台に立つ。
そう考えるだけで自然と胸が高鳴った。
「観光は後だぞ」
真田が笑う。
「分かってます」
「お前、完全にキョロキョロしてたぞ」
「してません」
「してた」
周囲から笑いが起きる。
そのまま一行は大会運営が用意したシャトルバスへ乗り込み、会場近くのホテルへ向かった。
ホテルへ到着すると、その規模に神谷は思わず息を呑む。
吹き抜けのロビー。
大量の宿泊客。
そして至る所で見かけるゲーム関連のバッグやアケコンケース。
明らかに大会参加者達だった。
英語、中国語、韓国語、スペイン語。
様々な言語が飛び交っている。
「本当に世界大会なんだな……」
神谷は改めて実感する。
日本にいた時とは空気そのものが違う。
ここには世界中の強豪達が集まっている。
チェックインを済ませると、各自部屋へ移動することになった。
「今日は無理するなよ」
真田が言う。
「時差ボケもあるしな」
雨宮も頷く。
「明日から本番だからな。まずは体調優先」
神谷も素直に頷いた。
長時間移動の疲労は想像以上だった。
部屋へ入ると、荷物を置いてそのままベッドへ倒れ込む。
天井を見上げながら深く息を吐いた。
つい数か月前までは普通の高校生だった。
それが今では世界大会出場を懸けてラスベガスまで来ている。
不思議な感覚だった。
しばらく休憩した後、夕方になるとチームメンバー達はホテル内の練習スペースへ集まった。
既に多くの選手達が対戦を始めている。
海外勢の姿も多い。
神谷は静かに席へ座った。
「軽くだけやるぞ」
真田が言う。
「今日は調整が目的だ」
神谷は頷く。
早速オンラインではなくオフライン環境でRexを動かしていく。
コンボ確認。
連携確認。
反応速度の確認。
一つ一つ丁寧に感触を確かめていく。
隣では雨宮が対戦動画を見ながらメモを取っている。
その向こうでは真田が海外勢と軽く対戦していた。
黒崎は少し離れた場所から全体を見ている。
すると黒崎が神谷へ声を掛けた。
「どうじゃ」
「悪くないです」
「緊張は?」
神谷は少し考える。
そして首を横に振った。
「まだ実感がないです」
黒崎は小さく笑った。
「明日の朝には嫌でも実感する」
「かもしれません」
神谷も笑う。
だが本当に不思議だった。
以前ならもっと緊張していたはずだ。
それなのに今は楽しみの方が大きい。
世界の強豪と戦える。
その事実が純粋に嬉しかった。
数時間ほど調整を終えると、その日の練習は終了となった。
「今日は終わりだ」
真田が言う。
「しっかり寝ろ」
「はい」
「明日から地獄だぞ」
その言葉に全員が笑った。
だが誰も否定はしない。
REVOLT MAJOR 2026。
世界中から集まった数千人のプレイヤー達。
その中で勝ち上がれるのはほんの一握り。
そしてWORLD BREAKERS CHAMPIONSHIPへの切符を掴めるのは決勝へ進んだ二人だけ。
ホテルの部屋へ戻った神谷は窓の外を見た。
ネオンが輝くラスベガスの夜景が広がっている。
明日から始まる世界との戦い。
その光景をしばらく眺めた後、神谷は静かにカーテンを閉めた。
REVOLT MAJOR 2026開幕まで、あと一晩だった。




