第7話 掴みかけた答え
REVOLT MAJOR 2026まで残り二週間。RAVEN’S NEST格闘ゲーム部門は大会へ向けた最終調整期間に入っており、連日トッププレイヤー達によるハイレベルな練習が続いていた。
練習室の一角では神谷蓮が黙々と対戦を繰り返している。
神谷蓮は既に高校生プレイヤーとしては異例とも言える実績を残していた。StarLive Fighting Festival優勝、NOVA eSportsの看板選手である白石凛の撃破、PHOENIX所属の若きトッププレイヤー桐生蒼真の撃破、そして国内トップチームの一角であるRAVEN’S NESTへの加入。短期間で一気に競技シーンの注目選手へと駆け上がった存在だった。
しかし神谷は元々、過去の結果に満足するタイプではない。勝った相手よりも次に戦う相手を見ている。今の自分がどこまで通用するのか、もっと強い相手と戦えば何が足りないのか。そんなことばかり考えていた。
だからこそ皇恒一との対戦は大きかった。
同じRexを使いながらもまるで別次元だった立ち回り。日本王者との実力差。そして二週間後に迫るREVOLT MAJOR。神谷の視線は既にその先の世界へ向いていた。
「またそこだな」
後ろから声が掛かる。
振り返ると真田誠司が立っていた。
RAVEN’S NEST主力選手として長年トップシーンで活躍し続けるベテランプレイヤーだ。
神谷は対戦リプレイを見ながら苦笑する。
「分かってるんですけど、どうしても攻めが途切れるんですよね」
「攻めようとしすぎなんだよ」
真田は即答した。
神谷は少し考える。
確かに最近はRexというキャラクターを理解することばかり考えていた。
コンボ。
ゲージ管理。
セットプレイ。
強い連携。
どれも大事だ。
だが何かが噛み合わない。
その時、近くで別のモニターを見ていた雨宮悠真が声を掛けてくる。
「神谷さん、ちょっとリプレイ見てもいいですか?」
「もちろん」
雨宮は研究熱心なことで有名だった。公式リーグ上位入賞やオンライン大会優勝経験を持つ若手注目株であり、対策力と分析力はチーム内でも高く評価されている。
映像を確認していた雨宮は数十秒後に口を開いた。
「神谷さん、ゲージ使うタイミングがほとんど同じです」
「同じ?」
「はい。プレッシャーゲージを攻め継続のためだけに使ってます」
神谷は映像を見返す。
言われてみればその通りだった。
ゲージが溜まる。
攻める。
継続する。
その繰り返し。
いつの間にかそれが正解だと思い込んでいた。
「なるほど……」
すると後ろから聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。
「若いのう」
そこにいたのは黒崎豪だった。
四十三歳。
格闘ゲーム黎明期から戦い続けるレジェンドプレイヤー。
国内大会優勝多数。
二十年以上現役を続ける格闘ゲーム界の生ける伝説。
RAVEN’S NESTの精神的支柱でもある存在だ。
「豪さん」
黒崎は神谷の隣へ座るとモニターを見ながら笑った。
「難しく考えすぎじゃな」
「そうですか?」
「そうじゃ」
黒崎は即答する。
「お前さんの武器は何じゃ?」
突然の質問だった。
神谷は少し考える。
コンボ精度ではない。
反応速度でもない。
すると黒崎が先に答えた。
「観察力じゃろ」
「……」
「試合中に相手を見て適応する。それがお前さんの強さじゃ」
神谷は思い出す。
白石凛との試合。
桐生蒼真との試合。
どちらも最初から圧倒したわけではない。
相手を観察し、癖を見抜き、試合中に対応して勝ってきた。
それが神谷蓮というプレイヤーだった。
「最近はRexを見ることばかり考えとる」
黒崎は笑う。
「キャラを見るな」
「……」
「相手を見ろ」
その言葉が胸に刺さった。
神谷はすぐに対戦席へ座る。
相手は真田。
長年トップシーンを戦い続ける実力者だ。
試合開始。
神谷は無理に攻めない。
まず見る。
真田が何を狙っているのか。
どこで動くのか。
どこを嫌がるのか。
観察する。
分析する。
そして適応する。
それは神谷が最も得意とする戦い方だった。
数十秒後。
真田が後ろへ下がる。
神谷はその癖を見抜いていた。
Rexが一気に踏み込む。
カウンター。
コンボ。
起き攻め。
継続。
今までとは違う。
キャラクターを動かしている感覚ではない。
相手を追い詰めている感覚だった。
「おっ」
雨宮が声を上げる。
「変わりましたね」
真田も笑う。
「それだよ」
神谷自身も分かっていた。
判断が早い。
攻めが自然に繋がる。
無理がない。
そして何より楽しい。
ラウンド終了。
勝利。
神谷は静かに息を吐いた。
黒崎が腕を組みながら頷く。
「戻ったのう」
「戻った?」
「お前さんらしい戦い方にじゃ」
神谷は小さく笑う。
Rexを使うことが目的ではない。
勝つことが目的だ。
そのためにRexを使う。
ようやくその当たり前のことを思い出した気がした。
REVOLT MAJORまで残り二週間。
世界への戦いはすぐそこまで迫っている。
そして神谷蓮は今、確かな手応えと共にさらに強くなろうとしていた。




