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LETHAL -俺だけが見える勝利の一手-  作者: 龍崎
第三章 海外遠征編 ― 世界を喰らう拳 ―

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第3話 変わらない日常

皇との対戦から数日後。


神谷蓮の日常は、意外なほど変わっていなかった。


朝起きて学校へ向かい、授業を受け、放課後は練習する。


CSJC2026ベスト8。


RAVEN’S NEST所属。


今や格ゲー界では注目される存在になっていたが、学校にいる時だけはただの高校生だった。


「神谷、昨日の配信見たぞ」


昼休み。


クラスメイトの佐藤が机に肘をつきながら話しかけてくる。


「皇と当たってたじゃん」


「見てたのか」


「そりゃ見るだろ。お前最近普通に有名人だし」


周囲のクラスメイトも興味津々だった。


「王者ってやっぱ強いの?」


「どんな感じだった?」


「実際喋ったりした?」


質問攻めにされながら神谷は苦笑する。


「強いなんてもんじゃない」


その言葉だけで十分だった。


神谷自身、あの試合を思い出すだけで背筋が伸びる。


同じキャラなのに別物。


あの動きは今でも頭に焼き付いていた。


放課後。


神谷は久しぶりにある場所へ向かっていた。


駅前のゲームセンター。


格ゲーを始めた原点。


高校生になってからはオンライン対戦が中心になり、昔ほど通わなくなっていた場所だ。


自動ドアが開く。


懐かしい音が耳に入る。


メダルゲーム。


クレーンゲーム。


格闘ゲームコーナー。


昔と何も変わらない光景だった。


「久しぶりだな……」


神谷は少しだけ笑う。


ここで負けて悔しがり。


勝って喜び。


強いプレイヤーにボコボコにされた。


全ての始まりの場所だった。


すると。


「もしかして……神谷さんですか?」


後ろから声を掛けられる。


振り返ると高校生くらいの少年が立っていた。


手には格ゲー専門誌。


緊張しているのが丸分かりだった。


「あ、はい」


「本物だ……」


少年の目が輝く。


それを見て神谷は少し照れ臭くなる。


配信では視聴者数万人。


大会でも大勢の観客がいる。


だが直接声を掛けられるのはまだ慣れていなかった。


「CSJC見ました!」


「応援してます!」


「サインお願いできますか!」


神谷は驚きながらも笑顔で頷いた。


「もちろん」


雑誌にサインを書く。


少年は何度も頭を下げていた。


「Rex使い始めたんです!」


「神谷さんの影響で!」


その言葉に神谷は少しだけ嬉しくなる。


自分も昔、強い選手に憧れてここまで来た。


今度は自分が誰かに影響を与える側になっている。


不思議な感覚だった。


さらにその様子を見ていた別の客も気付き始める。


「あれ神谷蓮じゃね?」


「マジだ」


「写真いいですか?」


気付けば小さな人だかりができていた。


神谷は一人一人に丁寧に対応する。


写真。


握手。


応援の言葉。


大会頑張ってください。


世界行ってください。


そんな言葉を何度も貰う。


その度に神谷は少しだけ背筋が伸びた。


応援される側になった実感。


そして期待される重み。


全部まとめて心地良かった。


ひと段落した頃。


神谷は格ゲーコーナーへ向かう。


すると見覚えのある筐体が目に入った。


昔よく座っていた対戦台。


何百戦もした場所。


神谷は財布から百円玉を取り出した。


カラン。


コイン投入口へ落とす。


画面が点灯する。


懐かしい感覚。


オンラインも楽しい。


大会も楽しい。


だがゲームセンターにはゲームセンターにしかない空気がある。


隣に座る相手。


直接伝わる緊張感。


勝った時の高揚感。


負けた時の悔しさ。


全てが近い。


「たまにはこういうのもいいな」


そう呟きながら神谷はレバーを握る。


画面にはRex。


今一番夢中になっているキャラクター。


そして神谷の新しい武器。


その瞬間。


後ろから声が聞こえた。


「神谷さんと対戦できるなら百円じゃ安すぎるな」


周囲から笑いが起こる。


神谷も思わず吹き出した。


久しぶりのゲームセンター。


久しぶりのファンとの交流。


そして原点への帰還。


世界を目指す戦いは続いている。


だが今日は少しだけ立ち止まって、自分が歩いてきた道を振り返る日だった。

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