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LETHAL -俺だけが見える勝利の一手-  作者: 龍崎
第三章 海外遠征編 ― 世界を喰らう拳 ―

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第1話 新たな拳

CSJC2026終了から一週間。格闘ゲーム界では今も大会の話題が続いていたが、それ以上に注目を集めているものがあった。新シーズンと同時に実装された新キャラクター、《Rex》だ。SNSも動画サイトも配信もRex一色と言っていいほど盛り上がっていた。


RAVEN’S NESTの練習室で、神谷蓮はモニターを見つめながら深く息を吐いた。


「難しすぎるだろ……」


画面の中ではRexのコンボが途中で途切れ、反撃を受けていた。実装から毎日のように触っているが、思い通りに動かせた日は一日もない。プレッシャーゲージの管理、高速ステップを絡めた攻め継続、状況ごとに変わるコンボルート。どれも難しく、少し判断を間違えれば火力が激減する。


「Kaiの方が全然楽ですね」


神谷が呟くと、近くで練習していた九条が笑った。


「そりゃそうだ。Rexは今プロ連中も苦戦してる」


「やっぱりですか」


「使うだけなら簡単だが、強く使うのが難しいタイプだな」


神谷は再びモニターを見る。だが不思議と嫌にはならなかった。むしろ楽しい。昨日できなかったことが今日できる。今日できなかったことが来週にはできるかもしれない。その感覚がたまらなかった。


夜になり、自宅へ戻った神谷は配信を開始する。タイトルは【Rex練習中 ランクマッチ】。配信開始から数分で多くの視聴者が集まり、コメント欄が流れ始めた。


『きたあああああ!』


『LETHALだ!』


『TOP8おめでとう!』


『Rex使いになるってマジ?』


神谷はマイクを調整しながら答える。


「こんばんは。たぶんRex使いになります」


コメント欄が一気に加速する。


『たぶんで草』


『もう引き返せないぞ』


『Kai捨てるのか』


「捨てるというか……Rexの方が面白いです」


『分かる』


『男の子はこういうキャラ好きだからな』


『ロマンキャラだしな』


ランクマッチが始まる。Rexが高速ステップで距離を詰める。ジャブ。ストレート。プレッシャーゲージ上昇。そこから最大コンボへ――行くはずだった。


コンボミス。


反撃。


敗北。


『草』


『いつもの』


『コンボ練習しろ』


神谷も苦笑した。


「いや今のはできたと思ったんですけど」


『みんなそう言う』


『プロもミスってるから安心しろ』


『Rex難しすぎる』


試合は続く。負ける。勝つ。また負ける。そして連勝する。プレッシャーゲージが溜まった時のRexは異常な強さだった。相手を画面端へ追い込み、そのまま何もさせずに倒し切ることもある。だが一度守勢に回ると脆い。強い時は最強クラス。弱い時は一気に崩れる。そんな極端なキャラクターだった。


『強い時やばいな』


『これ完成したら世界狙えるだろ』


『LETHAL向きな気がする』


神谷もそう思っていた。まだ全然使いこなせていない。だが可能性だけは感じる。今までのキャラにはなかった感覚が確かにあった。


数時間後、配信終了前。神谷は椅子にもたれながらコメント欄を見る。


「まだ全然弱いですけど、しばらくはRex一本でやってみます」


『頑張れ』


『海外勢も触ってるらしいな』


『次の大会楽しみ』


『世界編始まったな』


神谷は小さく笑う。


世界。


その言葉を聞くだけで胸が高鳴る。


CSJCで見た景色。


韓国の天才。


中国王者。


アメリカの強豪。


そして絶対王者の皇恒一。


まだ届かない。


だからこそ面白い。


配信を終了した神谷は再びコントローラーを握る。


Rex。


このキャラと共に、もっと強くなるために。


そしていつか、世界の頂点へ辿り着くために。

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