エピローグ 次なる拳
CSJC2026終了翌日。
神谷蓮はRAVEN’S NESTの練習施設を訪れていた。
大会の熱気はまだ残っている。
SNSでは決勝戦の話題が飛び交い、配信者たちは皇恒一と九条迅の激闘を語り続けていた。
そして。
新キャラクター《Rex》。
既に格闘ゲーム界最大の話題になっていた。
神谷は練習室のソファへ腰掛けながら昨日までの大会を思い返す。
TOP8。
国内トップ。
海外トップ。
絶対王者。
今まで画面越しにしか見たことのなかった強者たちと同じ舞台で戦った。
結果は7位。
悔しかった。
だが得たものは大きい。
世界との差。
トッププレイヤーとの差。
自分に足りないもの。
全部見えた。
読み合い。
経験。
キャラクター理解。
勝負所での判断。
どれもまだ足りない。
だが逆に言えば伸びる余地があるということだった。
「浮かない顔してんな」
声を掛けてきたのは九条迅だった。
後ろにはチームメイトたちもいる。
「まだ悔しいか?」
「もちろんです」
神谷は即答した。
その返答に九条は笑う。
「なら大丈夫だ」
短い言葉だった。
だが妙に納得できた。
悔しさがあるならまだ前へ進める。
そこで神谷はモニターへ視線を向ける。
画面に映っているのは昨日発表された新キャラクター。
Rex。
高速ステップ。
圧倒的なラッシュ。
プレッシャーゲージ。
一度流れを掴めば止まらない爆発力。
映像を見るほどに目を奪われる。
そして。
昨日からずっと考えていた。
「九条さん」
「ん?」
「俺、決めました」
九条が振り返る。
チームメイトたちも視線を向ける。
神谷は迷わず言った。
「Rexを使います」
一瞬。
練習室が静かになった。
そして。
「マジか」
「いきなりかよ」
「難しいぞあれ」
チームメイトたちが苦笑する。
Rexは発表時点で超高難度キャラと言われている。
使いこなせる保証などどこにもない。
それでも神谷は頷いた。
「だからです」
全員が黙る。
「今のままじゃ届かない」
皇恒一にも。
九条迅にも。
世界にも。
Kaiで学んだことは多い。
だが。
次のステージへ行くなら変わらなければならない。
もっと強く。
もっと上へ。
そのために必要なのがRexだと思った。
九条はしばらく神谷を見つめる。
そして笑った。
「いいじゃねぇか」
神谷が顔を上げる。
「ただし覚悟しろ」
九条はモニターに映るRexを指差した。
「あの手のキャラは使うだけで地獄だ」
「はい」
「でも使いこなせたら……」
九条が笑う。
「とんでもなく強くなる」
神谷も自然と笑っていた。
悔しさは消えない。
負けた現実も変わらない。
だが。
だからこそ前へ進める。
神谷は立ち上がる。
その視線の先には新たな舞台があった。
日本最強。
世界最強。
そして。
王のいる場所。
そこへ辿り着くための新たな挑戦が始まる。
Rex。
その拳と共に。
――CSJC編 完。
――第二章『プロゲーマーチーム加入 初の大型大会編』完結。
――第三章へ続く。




