第28話 王の証明
俺は観客席の最前列でその戦いを見ていた。
既に敗退している。
TOP8で終わった。
悔しさはまだ胸の奥に残っている。
それでも目の前の試合から目を離すことはできなかった。
日本最高峰。
いや、世界でも通用する二人の戦いがそこにあった。
スコアは二対一。
皇恒一が王手。
九条迅が追う。
会場は異様な熱気に包まれていた。
『第四セット開始!!』
実況の声と同時に歓声が爆発する。
そして始まった瞬間、九条は再び前へ出た。
まるで獣だった。
ガルドの巨体が画面を支配する。
前蹴り。
膝蹴り。
肘打ち。
一歩も引かない。
一発被弾しても止まらない。
二発被弾しても止まらない。
ただひたすら前へ出る。
獲物を仕留めるまで牙を剥き続ける猛獣そのものだった。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
俺なら下がる場面。
俺なら守る場面。
それでも九条は攻める。
だからこそ強い。
だからこそトッププレイヤーなのだと分かる。
観客席も完全に飲まれていた。
「行けぇぇぇ!!」
「九条ぉぉぉ!!」
「追いつけ!!」
大歓声の中。
ガルドの拳がアーサルを捉える。
カウンター。
コンボ。
画面端。
さらに投げ。
体力が減る。
また減る。
そして最後は飛び膝蹴り。
KO。
『決まったぁぁぁぁ!!』
『九条迅!!』
『追いついたぁぁぁ!!』
会場が揺れた。
二対二。
フルセット。
優勝を決める最後の戦い。
俺の心臓も激しく鳴っていた。
これが頂上決戦。
これが日本最強同士の戦い。
そして最終セット。
誰も座っていない。
観客全員が立ち上がりモニターを見つめている。
開幕。
九条は再び襲い掛かる。
獣のように。
荒々しく。
激しく。
全てを破壊するために。
ガルドの攻撃が次々と振られる。
重い打撃。
凄まじいプレッシャー。
だが。
そこで初めて気付いた。
皇は焦っていない。
押されているように見える。
削られているように見える。
それでも。
全く慌てていない。
まるで王座に座る王のように。
ただ静かに戦場を見ている。
「……違う」
俺は思わず呟く。
九条は戦っている。
皇は支配している。
同じゲームをしているのに見えている景色が違う。
九条が攻める。
皇が耐える。
九条が崩す。
皇が返す。
その繰り返し。
だが少しずつ。
本当に少しずつ。
試合の流れが変わっていく。
九条の攻撃が読まれる。
飛びが落とされる。
差し返される。
投げが抜けられる。
会場の空気も変わっていく。
誰も気付かないほど静かに。
だが確実に。
王が戦場を取り戻していた。
『皇選手の防御が固い!!』
『九条選手が攻めているのにダメージ差が縮まらない!!』
実況も驚きを隠せない。
そして最終ラウンド。
残り体力はほぼ同じ。
優勝まであと一歩。
その時だった。
九条が踏み込む。
勝負を決めるための前進。
ガルドの膝蹴り。
渾身の一撃。
会場全員が息を呑む。
だが。
皇は動かなかった。
ほんの僅かに下がる。
空振る。
そして。
王剣が振られた。
カウンター。
完璧だった。
会場が爆発する。
『入ったぁぁぁぁぁ!!』
そこから始まるのは皇恒一だけが使いこなせる超高難度コンボ。
王剣が舞う。
斬る。
叩き付ける。
打ち上げる。
追撃。
さらに追撃。
最後は巨大な光を纏った王の一撃。
画面全体を埋め尽くすほどの剣撃が炸裂する。
KO。
静寂。
そして。
次の瞬間。
今日一番の歓声が会場を揺らした。
『決着ぅぅぅぅぅぅ!!』
『優勝!!』
『皇恒一ぃぃぃぃぃ!!』
観客が総立ちになる。
割れんばかりの拍手。
歓声。
叫び声。
それでもステージ中央に立つ皇は変わらない。
喜びを爆発させることもない。
拳を突き上げることもない。
ただ静かに席を立つ。
その姿はまるで。
王だった。
俺はその光景を目に焼き付ける。
悔しい。
遠い。
圧倒的に遠い。
だが。
だからこそ。
あの場所へ行きたい。
あの景色を見たい。
あの王を超えたい。
胸の奥で燃え上がる感情を感じながら、俺はステージに立つ優勝者を見つめ続けていた。
CSJC2026。
優勝者。
皇恒一。
日本格闘ゲーム界の王は、まだ誰にも倒されなかった。




