第17話 世界の壁
CSJC初日。
朝から始まったトーナメントは、気付けば夜へ差し掛かっていた。
数千人規模で始まった大会も、敗者が次々と消えていくことで徐々に人数を減らしていく。
神谷蓮もここまで順調だった。
プロ選手。
有名配信者。
地方大会の優勝経験者。
様々な相手と戦いながら勝ち進み、気付けば大会会場の空気も変わっていた。
周囲にいるのは明らかに強者ばかり。
だが神谷も負けていない。
「また勝ったぞ」
「LETHALやっぱり本物だな」
「ここまでウィナーズ継続か」
観客たちの声が聞こえる。
神谷はモニターから目を離さない。
次が初日最後の試合だった。
スタッフが対戦台を案内する。
神谷は席へ向かった。
そして――
対戦相手の名前を見た瞬間、周囲がざわつく。
『ALEX REED』
アメリカ。
世界ランキング上位。
複数の国際大会優勝経験を持つトッププレイヤー。
『CHRONOS STRIKE』本場北米シーンを代表する実力者の一人だった。
「マジかよ」
「初日で当たるのか」
「組み合わせえぐいな」
観客席がざわめく。
神谷もその名前は知っていた。
海外大会の動画で何度も見たことがある。
攻撃的なプレイスタイル。
圧倒的な反応速度。
そして勝負強さ。
まさしく世界トップクラス。
対戦席には金髪の青年が座っていた。
二十代前半ほど。
長身。
鋭い目つき。
しかし神谷を見ると笑顔を浮かべた。
「You are LETHAL?」
流暢ではないが聞き取れる英語。
神谷は頷く。
「Yes」
するとアレックスは笑った。
「I’ve watched your matches today.」
「Strong player.」
神谷は少し驚いた。
ここまでの相手とは違う。
挑発も見下しもない。
純粋に強者として見ている。
「Thank you.」
短く返す。
アレックスは拳を差し出した。
神谷も軽く拳を合わせた。
そして試合開始。
一ラウンド目。
開始直後。
神谷は理解した。
速い。
今まで戦った誰よりも。
差し返し。
暴れ潰し。
確認精度。
全てが異常だった。
神谷が得意とする読み合いが成立しない。
一歩先を取られる。
コンボ。
画面端。
起き攻め。
体力が消える。
KO。
「……っ」
神谷は息を吐く。
だがまだ終わりではない。
二ラウンド目。
今度は神谷が対応する。
相手の癖を探る。
タイミングを読む。
一度見た動きは忘れない。
神谷の強みだった。
中盤。
読みが通る。
大ダメージコンボ。
会場が沸く。
「おお!」
「LETHALやるぞ!」
だが。
アレックスは崩れない。
体力残り僅か。
そこから防御。
差し返し。
反撃。
神谷が攻めようとした瞬間。
完璧なタイミングで技が刺さる。
KO。
0-2。
敗北。
会場がどよめいた。
神谷は画面を見つめる。
負けた。
完全な実力負けだった。
アレックスは立ち上がる。
「Good game.」
神谷も立ち上がった。
「ありがとうございました」
握手を交わす。
その時だった。
アレックスが笑う。
「Don’t lose next match.」
「I want to fight you again.」
神谷は少し目を見開く。
再戦したい。
そう言われたのだ。
世界トップクラスのプレイヤーに。
「次は勝ちます」
英語で返す。
アレックスは満足そうに笑った。
「Good answer.」
そう言って去っていく。
神谷はその背中を見つめた。
強かった。
今まで戦った誰よりも。
だが――届かない相手ではない。
負けた悔しさより先に、その感情が湧いていた。
会場の出口付近。
九条たちが待っていた。
「負けたか」
「はい」
「どうだった」
神谷は少し考える。
そして答えた。
「強かったです」
九条は笑った。
「いい顔してるな」
「え?」
「本気で勝ちたい相手ができた顔だ」
神谷は再びアレックスが去った方向を見る。
CSJC初日終了。
数千人いた参加者の大半が姿を消した。
そして――
初日を終えた時点で残り九十六人。
数千人いた参加者の中で、神谷蓮の名前は確かに上位へ食い込んでいた。
しかしウィナーズではない。
ルーザーズ。
もう後がない。
一度でも負ければ終わり。
世界への道は、ここからさらに険しくなっていくのだった。
“You are LETHAL?”
→ 「君がLETHALか?」
“I’ve watched your matches today.”
→ 「今日の君の試合を見ていたよ。」
“Strong player.”
→ 「強い選手だな。」
(意訳すると「かなり強いな」)
“Don’t lose next match.”
→ 「次の試合は負けるなよ。」
“I want to fight you again.”
→ 「もう一度お前と戦いたい。」
ALEX REEDの翻訳になります!




