第16話 開幕、そして初戦
五月。
ついにCSJC当日を迎えた。
会場となる大型コンベンションホールには朝早くから大勢の人が集まり、受付周辺には長い列ができている。プロ、アマチュア、配信者、海外勢――全国、そして世界各地から集まったプレイヤーたちによって、会場は熱気に包まれていた。
RAVEN’S NESTのメンバーも開場と同時に会場入りしていた。
「毎年見てもすげえな」
雨宮が周囲を見渡す。
「今年は特に人多い気がする」
相沢も頷いた。
神谷は選手用パスを首から下げながら会場を見回す。
どこを見ても強そうなプレイヤーばかりだった。
だが不思議と緊張はない。
むしろ集中していた。
「初戦頑張れよ」
九条が肩を叩く。
「はい」
「変なの引かなきゃいいけどな」
雨宮が笑う。
その言葉が妙に引っ掛かった。
そして数十分後。
神谷は自分の対戦台へ向かう。
対戦相手の席にはすでに一人の男が座っていた。
年齢は二十代前半ほど。
神谷を見るなり鼻で笑う。
「ああ、お前がLETHAL?」
神谷は軽く会釈した。
「神谷蓮です」
「テレビとか配信で持ち上げられてる新人だっけ?」
返事はしない。
男は続ける。
「運良かったな」
「何がですか」
「俺が初戦の相手で」
周囲の空気が少し変わる。
男はわざとらしく椅子にもたれた。
「プロとか言っても高校生だろ?」
「社会経験ないガキじゃん」
神谷は黙っていた。
男はさらに笑う。
「まあ現実教えてやるよ」
周囲で見ていた観客が顔をしかめる。
明らかに挑発だった。
だが神谷は表情一つ変えなかった。
スタッフが声を掛ける。
「両者準備お願いします」
試合開始。
一ラウンド目。
開始五秒。
神谷は相手の動きを見て全てを理解した。
荒い。
強引。
読み合いが単調。
ランクマッチなら通用するかもしれない。
だがこの舞台では甘かった。
下段をガード。
反撃。
コンボ。
画面端。
起き攻め。
再びコンボ。
体力ゲージが消し飛ぶ。
PERFECT。
会場がざわついた。
「は?」
相手が声を漏らす。
ラウンド終了。
続く二ラウンド目。
相手は焦っていた。
無理な飛び込み。
危険な暴れ。
通るはずのない択。
神谷は冷静に処理する。
対空。
反撃。
コンボ。
投げ抜け。
差し返し。
一方的だった。
そして――
KO。
2-0。
試合終了。
わずか数分だった。
会場から拍手が起こる。
「強……」
「何もさせてないぞ」
「初戦とは思えねえ」
観客たちがざわめく。
対戦相手は呆然と画面を見つめていた。
神谷は静かに立ち上がる。
そして頭を下げた。
「ありがとうございました」
男は何も言えなかった。
試合前の余裕は完全に消えている。
神谷はそのまま対戦台を離れた。
通路へ戻ると九条たちが待っていた。
「終わるの早かったな」
九条が笑う。
「初戦なので」
「いや意味分からん」
雨宮が苦笑する。
「相手ちょっと可哀想だったぞ」
「挑発してたじゃないですか」
「それはそう」
全員が笑った。
神谷も少しだけ笑う。
だがすぐに表情を戻した。
初戦を突破しただけ。
目指す場所はもっと先にある。
CSJC。
日本最高峰の戦い。
神谷蓮の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




