第15話 束の間の日常
CSJC開幕まで残り三週間。
RAVEN’S NESTの練習施設では今日も朝から対戦台の音が響いていた。大会が近付くにつれて練習量は増え、格闘ゲーム部門のメンバーたちはそれぞれ課題と向き合いながら調整を続けている。
「そこ反応できるんですか……」
神谷が苦笑する。
目の前では九条迅が余裕の表情でコントローラーを置いていた。
「反応じゃないな」
「読みですか?」
「半分はな」
九条はリプレイを見ながら続ける。
「お前、最近ちょっと慎重になりすぎてる」
「そうですか」
「大会近いからだろうけど」
神谷は何も言わない。
図星だった。
以前なら迷わず押していた場面でも、一度考えるようになっている。
「悪いことじゃない」
九条は言う。
「ただ考えすぎると動きが遅くなる」
「はい」
「今のお前は十分強い」
「そう言われても安心はできないです」
「それでいい」
九条は笑った。
「安心したら終わりだからな」
その後も対戦は続き、気付けば昼になっていた。
翌日。
昼休み。
神谷は教室で弁当を広げていた。
窓の外では運動部の生徒たちがグラウンドを走っている。
「おーい蓮」
聞き慣れた声がした。
振り返ると宮城悠人が近付いてくる。
「なんだ」
「なんだじゃねえよ」
宮城は勝手に前の席へ座った。
「最近全然遊んでねえな」
「忙しいからな」
「ゲーム?」
「ゲームです」
「敬語になってるぞ」
神谷は少しだけ笑った。
宮城はスマホを取り出す。
「そういやまた見つけたぞ」
「何を」
「お前の話題」
神谷は嫌な予感がした。
案の定、画面にはLETHALの名前が映っている。
「見せなくていい」
「結構盛り上がってるぞ」
「興味ない」
「次世代トッププレイヤー候補だって」
「勝手に言わせておけ」
宮城は肩をすくめた。
「相変わらずだな」
「何がだ」
「昔から変わらん」
神谷は弁当を食べる。
有名になった実感はあまりない。
やることは以前と変わらないからだ。
強い相手と戦って、負けて、考えて、また戦う。
それだけだった。
放課後。
帰ろうとした神谷を宮城が呼び止める。
「蓮」
「なんだ」
「大会頑張れよ」
「おう」
「応援してる」
神谷は少し驚く。
宮城は基本的にふざけている。
だがこういう時だけは真面目だった。
「ありがとう」
「優勝したらサインな」
「やらない」
「ケチ」
二人は笑った。
夜。
RAVEN’S NEST練習室。
合同練習が行われていた。
雨宮と相沢が対戦し、その横では藤堂と真田が試合をしている。
小鳥遊ひまりはモニターを見ながらため息を吐いた。
「負けたなあ……」
「惜しかったですね」
神谷が言う。
「慰めになってない」
「いや、本当に惜しかったですよ」
「神谷くんに言われると複雑なんだけど」
小鳥遊が苦笑する。
先ほどまで神谷と対戦していたが結果は敗北。
それでも以前よりは善戦できていた。
「ひまり、最近強くなってるぞ」
真田も言う。
「ほんとですか?」
「コンボミス減ったしな」
「やった」
一気に機嫌が良くなる。
その様子を見て雨宮が笑う。
「単純だな」
「うるさい」
「否定しないんだ」
練習室に笑い声が広がった。
大会前の緊張感はある。
だが重苦しい空気ではない。
互いに競い合いながら成長できる環境がここにはあった。
神谷はそんなチームメイトたちを見渡す。
RAVEN’S NESTに入る前は、一人でゲームをしていた。
今は違う。
同じ目標へ向かう仲間がいる。
その事実が少しだけ心地良かった。
CSJC開幕まで残り三週間。
戦いの日は少しずつ近付いていた。




