第10話 加入発表と初配信
RAVEN’S NESTへの加入から数日後。
次の休日の朝、神谷蓮はRAVEN’S NEST本社を訪れていた。
今日は練習ではなく、正式な加入発表の日だった。
施設内では朝からスタッフたちが慌ただしく動いている。
映像編集担当、広報担当、配信スタッフ。
普段とは違う空気が流れていた。
会議室へ入ると、すでにチームメンバーたちが集まっている。
鷹宮蓮司が大型モニターの前に立ち、全員へ向けて説明を始めた。
「それじゃあ最終確認だ。昼十二時に公式SNS『Connect』で神谷の加入発表動画を公開する」
モニターには完成した動画のサムネイルが表示されている。
RAVEN’S NESTのロゴ。
そして神谷蓮の姿。
「夜八時からは事務所スタジオで加入記念配信だ。今日から神谷も正式にRAVEN’S NESTの選手として活動を始める」
「よろしくお願いします」
蓮が頭を下げる。
すると小鳥遊ひまりが笑った。
「神谷くん、今日から通知との戦いも始まるよ?」
「通知ですか?」
「うん。多分スマホ鳴りっぱなし」
「そんなにですか」
「そんなに」
雨宮悠真も頷く。
「RAVEN’S NESTの新加入発表は毎回話題になるしな」
「しかも今回は神谷だから」
真田誠司が続ける。
「StarLive Fighting Festival優勝者だぞ」
相沢レンもスマホを見ながら言った。
「決勝戦の動画、今でも再生されてるし」
「準決勝の逆転勝ちもかなり有名よね」
藤堂玲奈も頷く。
蓮は少しだけ苦笑した。
自分としてはただ必死に戦っただけだった。
だがあの大会が人生を変えるきっかけになったのは間違いない。
その時。
会議室の扉が開く。
九条迅だった。
「準備終わったか」
「ほぼ終わってます」
スタッフが答える。
九条は短く頷き、そのまま壁際へ移動した。
いつも通りだった。
鷹宮が笑う。
「九条、お前も何か言ってやれ」
「ある」
全員が少し驚く。
九条は蓮を見る。
「今日から忙しくなる」
「覚悟してます」
「ならいい」
それだけだった。
「短すぎません?」
小鳥遊が思わずツッコむ。
九条は首を傾げる。
本人は十分話したつもりらしい。
会議室に小さな笑いが広がった。
⸻
そして昼十二時。
RAVEN’S NEST公式SNS『Connect』。
加入発表動画が公開された。
動画はチームロゴから始まる。
続いて九条迅。
小鳥遊ひまり。
雨宮悠真。
所属選手たちの紹介映像が流れる。
そして画面が切り替わった。
神谷蓮。
その名前と共に映し出されたのは、StarLive Fighting Festivalでの名場面集だった。
不利な状況からの逆転劇。
相手の攻撃を読んで決めたカウンター。
実況を驚かせた超反応。
勝負を決めたコンボ。
大会期間中に話題となったプレーが次々と映し出されていく。
画面のテンポに合わせて実況音声も流れる。
『ここで差し返した!?』
『見えているのか!?』
『神谷蓮、止まらない!』
『とんでもない読み合いだ!』
そして最後。
決勝戦で勝利を決めた瞬間の映像。
試合終了の表示。
チャット欄を埋め尽くすコメント。
そのシーンで映像は暗転した。
白文字が浮かび上がる。
【StarLive Fighting Festival Champion】
続いて。
【NEW MEMBER】
【神谷 蓮】
【RAVEN’S NEST Fighting Division】
最後にRAVEN’S NESTのロゴが表示される。
動画終了。
反応は一瞬だった。
『マジか!?』
『本当に加入した!』
『StarLive王者きた!』
『RAVEN’S NEST強すぎる』
『この逆転シーン今見てもヤバい』
『決勝戦の神プレイ懐かしい』
『応援する』
『配信絶対見る』
広報スタッフが立ち上がる。
「トレンド入りしました!」
「何分だ?」
鷹宮が聞く。
「七分です!」
「相変わらず早いな」
「関連ワードも複数入ってます!」
部屋が少し盛り上がる。
蓮はモニターを見つめていた。
映像に使われていたのは、数か月前までの自分。
学生プレイヤーだった頃の戦い。
その積み重ねが、今こうしてプロへの道に繋がっている。
不思議な感覚だった。
するとスタッフが近づいてくる。
「神谷選手、個人アカウントの準備も完了しました」
「ありがとうございます」
渡されたスマホには新しいSNSアカウントが表示されている。
プロフィール欄には、
【RAVEN’S NEST所属】
【格闘ゲーム部門】
【神谷蓮】
と書かれていた。
「最初の投稿どうする?」
小鳥遊が覗き込む。
「普通に挨拶でいいと思います」
「真面目だなぁ」
「変なこと書くよりいいでしょう」
「まあそれはそう」
蓮は少し考えた後、文章を入力する。
【本日よりRAVEN’S NEST格闘ゲーム部門に加入しました神谷蓮です。応援してくださる皆さんの期待に応えられるよう努力していきます。よろしくお願いします。】
投稿。
数秒後。
通知音が鳴り始めた。
一件。
十件。
百件。
そして止まらなくなる。
「……すごいですね」
思わず本音が漏れる。
小鳥遊が笑った。
「まだ始まったばかりだよ」
⸻
そして夜八時。
RAVEN’S NEST加入記念配信が始まった。
配信スタジオには複数のカメラが設置されている。
配信開始と同時に視聴者数が増えていく。
五千。
一万。
二万。
三万。
コメント欄も高速で流れていた。
「こんばんは」
鷹宮が配信を始める。
「本日は新加入選手の紹介配信です」
拍手。
そしてカメラが蓮へ向けられる。
「神谷蓮です。よろしくお願いします」
コメント欄がさらに加速した。
『待ってた!』
『ようこそRAVEN’S NESTへ!』
『応援してる!』
『StarLive優勝おめでとう!』
『高校生プロ!』
『頑張れ!』
鷹宮が話を進める。
「まずは今後の活動方針について説明しよう」
蓮は頷いた。
「学校生活を優先しながら選手活動を行います」
「高校生なので学業との両立が前提になります」
コメント欄も納得したような反応を見せる。
『それ大事』
『無理しないで』
『応援してる』
『学生頑張れ』
鷹宮は続けた。
「神谷は競技選手として活動していく。そのため配信頻度は多くても週二回程度を予定している」
「基本的には土曜日と日曜日です」
蓮が補足する。
「平日は学校と練習がありますので、休日中心になります」
『週2なら十分』
『助かる』
『競技優先でいい』
『大会期待してる』
コメントが流れる。
すると小鳥遊が聞いた。
「ちなみに配信では何やる予定?」
「ランクマッチとか練習ですね」
「予想通りだなぁ」
「それ以外あまり思いつかないので」
「雑談とかは?」
「得意じゃないです」
「好きな食べ物は?」
「カレーです」
「終わった」
スタジオに笑いが広がる。
コメント欄も盛り上がっていた。
『天然だ』
『面白い』
『真面目すぎる』
『好感持てる』
『応援したくなる』
和やかな雰囲気のまま配信は進んでいく。
そして最後。
蓮は改めてカメラへ向かって頭を下げた。
「まだ未熟ですが、選手として結果を残せるよう努力します。応援してくださる皆さんの期待に応えられるよう頑張りますので、これからよろしくお願いします」
大量の応援コメントが流れる。
その光景を見ながら蓮は静かに思う。
StarLive Fighting Festivalでの戦いから始まった変化。
そして今日。
RAVEN’S NESTへの加入発表と初配信を経て、その変化はさらに大きなものになった。
神谷蓮のプロゲーマーとしての新しい日々が、ここから本格的に始まろうとしていた。




