第4話 見え始めたもの
第二ラウンドが始まった。
一戦目を落としたとはいえ、蓮の表情に焦りはなかった。
むしろ逆だった。
面白い。
それが正直な感想だった。
今までの相手なら、一試合もやれば大体の癖は見えていた。
だが白石凛は違う。
選択肢が多い。
判断が速い。
何より同じ行動を繰り返さない。
だから読みにくい。
だが。
読めないわけじゃない。
――FIGHT。
開幕。
今度は蓮から前へ出た。
Kaiが一気に距離を詰める。
下段。
フェイント。
投げ。
凛は投げ抜け。
即座に後ろステップ。
剣の先端を押し付ける。
リーチ差。
本来ならKaiが最も苦しい距離だった。
だが蓮は止まらない。
前へ出る。
さらに前へ。
一歩ずつ。
無理に技を振らない。
焦らない。
じわじわと距離を奪う。
「へぇ……」
配信中の凛が小さく呟く。
一戦目とは違う。
明らかに距離の詰め方が変わっていた。
観察が終わった。
そんな印象だった。
次の瞬間。
Celesの剣が走る。
中距離牽制。
しかし。
Kaiはギリギリで潜った。
「っ!」
凛の目が僅かに開く。
カウンター。
コンボ始動。
浮かせ。
追撃。
さらに追撃。
体力が三割近く吹き飛ぶ。
コメント欄が流れる。
『うまっ』
『反応やば』
『潜ったぞ今』
『誰なんだよこいつ』
だが凛もトッププロだった。
起き上がり後の防御が固い。
投げを読まれる。
下段も通らない。
攻め継続を拒否される。
そして。
攻守逆転。
Celesの剣が舞う。
斬る。
下段。
中段。
投げ。
高速の三択。
体力差が縮まる。
蓮はガードを続ける。
ガード。
ガード。
投げ抜け。
ガード。
息苦しいほどの攻防だった。
一瞬でも読みを外せば終わる。
だが。
蓮は見ていた。
試合開始からずっと。
凛の癖を。
トッププロだから小さい。
本当に小さい。
それでも存在していた。
「なるほど」
思わず声が漏れる。
追い込まれた時。
守りに入る時。
凛は必ず一度だけ距離を取ろうとする。
攻め続けるタイプではない。
態勢を立て直そうとする。
それは悪い癖ではない。
むしろ正しい判断だ。
だからこそ無意識に出る。
残り体力は互いに二割。
観客なら心臓が止まりそうな状況だった。
どちらが勝ってもおかしくない。
凛が前へ出る。
剣閃。
ガード。
二段目。
ガード。
三段目。
そこで凛は後ろへ下がった。
ほんの一歩。
本当に小さな後退。
だが。
蓮には見えていた。
――そこだ。
Kaiが踏み込む。
予測。
確信。
凛が距離を取る場所。
その先。
その後に出す技。
全てが一本の線で繋がる。
蓮の脳裏に浮かぶ。
勝利への道筋。
LETHAL。
Celesが迎撃の剣を振る。
だが遅い。
Kaiの拳が先に届く。
カウンター。
ヒット確認。
最大コンボ。
画面が揺れる。
体力ゲージが消し飛ぶ。
K.O.
静寂。
そして次の瞬間。
コメント欄が爆発した。
『うおおおおお!!』
『勝ったあああ!!』
『マジかよ!!』
『凛負けた!?』
『今の読んでたのか!?』
蓮は椅子にもたれた。
知らず知らずのうちに力が入っていたらしい。
心臓が速い。
楽しい。
こんな試合は初めてだった。
一方。
配信画面の向こうで凛も画面を見つめていた。
負けた。
だが怒りはない。
悔しさはある。
それ以上に。
興味があった。
「LETHAL……」
初めて聞く名前。
初めて戦う相手。
なのに。
間違いなく強い。
本当に強い。
画面には最終戦のロード画面が表示される。
一勝一敗。
決着戦。
どちらが勝ってもおかしくない。
蓮はレバーを握り直した。
凛も姿勢を正す。
次で終わる。
そして。
二人とも理解していた。
ここから先は。
一切の言い訳が通用しない、本当の勝負だということを。




