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LETHAL -俺だけが見える勝利の一手-  作者: 龍崎
第一章 無名の高校生

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第16話 決着

「さあ準決勝第一試合、ついに最終ゲームです!」


黒田の声が会場へ響き渡る。


大型モニターには白石凛とLETHALの名前が並び、観客席を埋め尽くしたファンたちが固唾を呑んで画面を見つめていた。


一勝一敗。


勝てば決勝進出、負ければ敗退。


ここまでの二ゲームがあまりにも高いレベルだっただけに、会場全体が異様な緊張感に包まれている。


「Round 1――Fight!」


試合開始と同時にCelesとKaiが中距離で向き合う。


凛は開幕から細かくステップを刻みながら距離を揺さぶり、Kaiもまた冷静に間合いを調整する。


牽制が空を切り、差し返しが飛び交い、どちらかが一度触れれば大ダメージへ繋がる極限の読み合いが続いていく。


「速い! 速い! 両者とも判断速度が尋常じゃありません!」


黒田が叫ぶ。


「ここまで来ると反応じゃないですね」


鬼塚が真剣な表情で続ける。


「お互い相手の行動を予測した上で動いています。一手先どころか二手三手先を読んでいる」


試合は序盤から激しく動く。


凛が下段を通してコンボを決めれば、Kaiも即座に差し返しから体力を奪い返す。


投げを見せれば抜けられ、中段を見せればガードされる。


会場からは感嘆の声が漏れ続けていた。


中盤に入っても均衡は崩れない。


凛は今まで見せなかった攻めを次々と投入し、LETHALもまた即座に対応していく。


試合中に学習し、試合中に修正し、試合中に攻略する。


その異常な適応力に観客たちは熱狂しながらも息を呑んでいた。


「しかし白石選手も負けていません!」


黒田が声を張り上げる。


「適応される前提で戦っている!」


鬼塚も頷く。


「普通なら崩れています。でも白石選手はさらにその先を見ている」


終盤。


体力はほぼ五分。


会場の誰もが息を止めていた。


凛が前へ出る。


ステップ、フェイント、投げ。


抜けられる。


しかしそこから即座に下段へ派生しヒット。


歓声が爆発する。


コンボ、追撃、さらに追撃。


Kaiの体力が一気に削られる。


「白石選手リード!」


黒田が絶叫する。


「決まるか!?」


しかしLETHALは崩れない。


起き上がりから冷静に距離を取り、最小限のリスクで差し返しを狙う。


Kaiの牽制が凛の前進を咎め、少しずつ体力差が縮まっていく。


残り体力。


Celes二割。


Kai二割。


最後の読み合い。


凛が前へ出る。


Kaiも動く。


一瞬だった。


凛が投げを警戒して後ろへ下がる。


その行動を読んでいたかのようにKaiが前進する。


最速下段。


カウンターヒット。


会場がどよめいた。


「入ったぁぁぁぁ!!」


黒田が絶叫する。


Kaiのコンボが始まる。


追撃、壁運び、さらに追撃。


体力が消えていく。


凛は必死に抜け道を探す。


だがない。


完全に読み切られていた。


最後の一撃が叩き込まれる。


そして――。


「K.O.!!」


勝者。


LETHAL。


会場が揺れた。


「決まりましたぁぁぁ!!」


黒田が叫ぶ。


「LETHAL選手、決勝進出です!!」


鬼塚も興奮を隠せない。


「凄まじい試合でした……白石選手も最高のプレイを見せました。しかし最後の最後でLETHAL選手が上回った」


凛はモニターを見つめたまま、小さく息を吐いた。


悔しい。


ただ、その一言だった。


◇◇◇


試合画面が切り替わり、自身の配信画面へ戻る。


コメント欄は凄まじい勢いで流れていた。


『お疲れ様!』


『神試合だった!』


『惜しかった!』


『本当に強かった!』


凛はしばらく何も言わず、ヘッドセットを外して椅子にもたれた。


そして天井を見上げる。


数秒。


何も言葉が出なかった。


「負けたなぁ」


ようやく漏れた言葉は、どこか力の抜けたものだった。


「勝ちたかった」


コメント欄の流れが少しだけ緩やかになる。


「結構、本気で勝てると思ってたんだよね」


苦笑する。


「準備もしたし、調子も悪くなかったし」


それでも届かなかった。


だから悔しい。


単純に。


どうしようもなく。


悔しい。


『でも強かった』


『マジであと少しだった』


『感動した』


『最高の試合だった』


コメントが流れる。


凛は画面を見つめた。


視界が少し滲む。


最初は気のせいだと思った。


だが違った。


気付けば涙がこぼれていた。


「あー……やばい」


笑う。


でも止まらない。


「ごめん」


声が少し震える。


「泣くつもりなかったんだけどな」


悔しかった。


本当に。


勝ちたかった。


あの相手に。


自分の全力をぶつけた上で負けたからこそ余計に。


コメント欄が優しい言葉で埋まっていく。


『泣いていい』


『本気だった証拠だ』


『よく頑張った』


『ありがとう』


凛は何度か目元を拭い、深呼吸を繰り返した。


少しずつ落ち着いていく。


そして静かに笑う。


「でもさ」


今度の笑顔は自然だった。


「楽しかった」


それは嘘じゃない。


悔しい。


でも楽しかった。


こんな試合は滅多にない。


全力でぶつかって、全力で返されて、最後の最後まで勝負できた。


だから負けても下を向きたくなかった。


「次は勝つよ」


凛ははっきりと言った。


「もっと強くなる」


コメント欄が一気に流れる。


『応援してる!』


『次も絶対見る!』


『頑張れ!』


『白石最強!』


凛はそれを見て笑った。


涙の跡は残っている。


それでも表情は晴れやかだった。


悔しさは消えない。


けれど前は向ける。


それが今の自分だった。


「じゃあみんな、今日はありがと」


配信終了ボタンへカーソルを合わせる。


「また練習配信で」


最後に小さく手を振る。


「おやすみ」


画面が暗転する。


悔しさは消えない。


だがその悔しさは、もう前へ進むためのものになっていた。

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