閑話 深夜の武神
小鳥遊ひまり視点
深夜の個人配信。
小鳥遊ひまりはいつものようにランクマッチを回していた。
視聴者は一万人超え。
大会後ということもありコメント欄もかなり盛り上がっている。
「よーし、今日はレート盛るよー!」
『いけー!』
『ひまりなら余裕』
『連勝頼む』
マッチング成立。
相手のキャラクターは武神タケル。
ひまりが少し首を傾げる。
「あれ?」
最近何度か話題になっているキャラクターだった。
『出た』
『あっ』
『終わった』
『謎の武神』
コメント欄の反応がおかしい。
「何その反応」
試合開始。
ひまりは得意の立ち回りで距離を詰める。
だが武神は動かない。
飛び道具。
牽制。
歩き。
ただそれだけ。
なのに近付けない。
「え?」
飛び込む。
落とされる。
もう一度飛ぶ。
また落とされる。
「うそでしょ」
コメント欄が笑い始める。
『始まった』
『いつもの』
『対空検定』
ひまりは苦笑しながら立て直そうとする。
だが今度は地上戦。
差し返される。
投げを抜けられる。
暴れを狩られる。
気付けば一本目終了。
完敗だった。
「いや強っ!」
思わず声が出る。
二本目。
今度は慎重に戦う。
無理をしない。
観察する。
しかし。
向こうも付き合ってくる。
距離を管理される。
飛び道具で揺さぶられる。
飛べない。
走れない。
近付けない。
そして。
一瞬の隙。
最大コンボ。
KO。
試合終了。
「ちょっと待って!」
ひまりが机を叩く。
『お疲れ様でした』
『また犠牲者が』
『誰なんだろうな』
ひまりは真顔でモニターを見ていた。
「これ絶対プロでしょ」
即答だった。
「しかもかなり上位」
普段なら名前が浮かぶ。
だが今回は分からない。
動きに見覚えがない。
なのに強い。
その不気味さが一番怖かった。
⸻
新堂隼人視点
新堂隼人。
二十四歳。
国内トップクラスの攻撃型プレイヤー。
その日も練習を兼ねてランクマッチへ潜っていた。
大会までまだ時間がある。
調子も良い。
連勝中。
レートも順調に伸びていた。
「今日はいいな」
そう呟いた直後だった。
武神タケル。
最近噂になっているプレイヤー。
「またこいつか」
SNSでも見たことがある。
だが所詮ランクマ。
そう思っていた。
試合開始。
開始十秒。
違和感があった。
相手が上手い。
それもかなり。
飛び道具一発。
歩き一回。
それだけで圧力が伝わってくる。
「なんだ?」
攻める。
止められる。
崩す。
通らない。
読み勝ったと思った瞬間に読み返される。
気付けば一本目終了。
新堂は腕を組んだ。
「面白いじゃん」
本気になる。
だが。
結果は変わらない。
二本目も敗北。
ストレート負け。
試合終了。
新堂は数秒黙っていた。
そしてリプレイを開く。
見る。
もう一回見る。
さらに見る。
結論。
「分からん」
思わず笑った。
誰だ。
海外勢か。
プロか。
サブアカウントか。
だがどれも決め手がない。
ただ一つだけ分かる。
「めちゃくちゃ強い」
それだけだった。
⸻
久世悠斗視点
久世悠斗。
二十二歳。
大型大会常連。
冷静な立ち回りを武器とする実力派プロ。
深夜二時。
練習を終えた後のランクマッチだった。
マッチング成立。
武神タケル。
噂のプレイヤー。
久世は少し笑った。
「やっと当たったか」
興味があった。
最近プロ仲間の間でも話題になっている。
そして試合開始。
一本目。
終わった瞬間。
久世は思わず前のめりになった。
「なるほど」
負けた。
だが納得した。
強い。
それも本物だ。
読み合い。
距離管理。
判断速度。
全部高水準。
特に視野が異常だった。
「何見えてるんだ?」
久世は呟く。
普通のプレイヤーなら気付かない部分に反応している。
普通のプレイヤーなら触られる場面で触られない。
普通のプレイヤーなら焦る場面で焦らない。
二本目。
さらに集中する。
だが結果は同じだった。
敗北。
ストレート負け。
久世は試合後すぐリプレイを保存する。
研究したい。
そう思わせる相手だった。
SNSを開く。
検索欄。
武神タケル。
予想通り大量の投稿が出てくる。
【また負けた】
【誰なんだよ】
【プロだろこれ】
【ランクマ壊れてる】
久世は思わず笑った。
「みんな同じこと考えてるな」
だが次の瞬間。
表情が少し変わる。
「この人……」
誰かに似ている。
だが分からない。
知っているようで知らない。
そんな違和感が残る。
そしてその夜もまた一人。
謎の武神タケル使いの被害者が増えていた。
正体は誰なのか。
まだ誰も知らないまま。




