第40話 見る目
その日の練習後。
ほとんどの選手が帰宅し、練習室には九条迅と黒崎豪だけが残っていた。
モニターには先ほどまで神谷が使っていた武神タケルのリプレイが流れている。
九条が椅子にもたれながら笑った。
「思った以上でしたね」
黒崎も湯呑みを口に運ぶ。
「そうじゃのう」
リプレイでは神谷が飛び道具を撃ち、相手の飛びを落とし、無理に攻めずじっくり試合を組み立てている。
開幕前とは明らかに違う。
九条が画面を見ながら呟いた。
「正直ここまでハマるとは思ってなかったです」
「武神のことかの」
「ええ」
九条は笑う。
「あの時勧めたの俺なんですけどね」
プロリーグ開幕前。
KaiとRexだけではリーグは厳しいかもしれない。
そう話していた神谷に武神タケルを勧めたのは九条だった。
「最初はキャラ幅のためだったんですよ」
九条が続ける。
「対策ずらしというか」
「うむ」
「でも今はそれ以上になってる」
黒崎も頷いた。
ただキャラが増えたわけではない。
考え方が増えた。
そこが大きかった。
「蓮は元々前に出るのが好きじゃからのう」
黒崎が言う。
「攻めるのが上手い」
「だからKaiもRexも異常に強かった」
九条も同意する。
「でも待つのは得意じゃなかった」
「そうじゃな」
神谷は反応も良い。
読みも鋭い。
観察力も高い。
だが若さゆえに攻めたがる。
勝負を急ぐ。
そこだけが課題だった。
九条がモニターを指差す。
「今のこれ見てくださいよ」
リプレイの神谷は画面端で無理に攻めない。
一歩下がる。
飛び道具を撃つ。
相手を動かす。
そして差し返す。
「前の蓮なら突っ込んでましたよ」
黒崎が笑った。
「間違いないのう」
二人とも同じことを考えていた。
武神タケルを使い始めてから神谷は変わった。
技術ではない。
視点だ。
試合の見方。
勝ち方。
考え方。
全部少しずつ変わっている。
九条が腕を組む。
「武神勧めて正解でしたね」
黒崎は静かに頷いた。
「正解じゃった」
短い言葉だった。
だが本心だった。
九条が笑う。
「豪さんもそう思います?」
「思う」
即答だった。
「今の蓮は強くなる時の顔をしとる」
九条の表情も少し変わる。
トッププレイヤーだから分かる。
急激に伸びる時期。
一気に壁を越える瞬間。
神谷は今まさにそこにいる。
黒崎はモニターを見ながら続けた。
「技術は元々あった」
「ですね」
「じゃが今は考え方が育っとる」
九条も頷く。
それが一番大きい。
技術だけなら練習で身につく。
だが考え方は違う。
経験。
敗北。
観察。
積み重ねが必要になる。
そして神谷は今、それを吸収している最中だった。
九条がふっと笑う。
「そのうち追い抜かれそうですね」
黒崎も笑った。
「いつかはそうなるじゃろう」
「嫌ですねぇ」
「何を言う」
黒崎が少しだけ目を細める。
「そうならんと困る」
練習室に静かな空気が流れる。
九条も少し笑った。
確かにその通りだった。
後輩が自分たちを超える。
それが一番良い形だ。
モニターでは神谷の武神タケルが再び勝利していた。
九条はその映像を見ながら呟く。
「第三節楽しみですね」
黒崎も頷く。
「楽しみじゃのう」
二人の視線の先には。
確実に成長を続ける十七歳の姿があった。




