第39話 三つの武器
RAVEN’S NESTの練習室。
九条を武神タケルで倒した後も、その話題は続いていた。
「いや普通に強かったな」
真田が呆れたように言う。
「ランク荒らしの正体がお前だったとは」
「別に荒らしてないです」
神谷が返す。
「勝ってるだけです」
「それを荒らしって言うんだよ」
九条が笑った。
部屋にも笑いが広がる。
その後。
神谷はモニターにキャラクター選択画面を映した。
Kai。
Rex。
武神タケル。
三体が並ぶ。
藤堂が画面を見る。
「結構変わった」
神谷も頷く。
「前よりかなり」
開幕前。
神谷が使っていたのはKaiとRexだった。
どちらも近距離特化。
どちらも飛び道具なし。
強力な接近戦を武器にするキャラクターだった。
だがリーグが始まり、考え方が変わった。
「KaiとRexだけだと対策されやすいんです」
真田が頷く。
「方向性が近いからな」
神谷も同意する。
相手から見ればやることは同じ。
近付かせない。
守る。
距離を取る。
リーグのような長期戦では研究される。
だから武神を始めた。
九条がモニターを指差す。
「改めて整理すると」
一本目。
「Kai」
神谷が頷く。
「爆発力」
高難度コンボ。
近距離の読み合い。
一度流れを掴めば止まらない。
REVOLT MAJOR優勝を支えた相棒だった。
二本目。
「Rex」
神谷が続ける。
「対応力」
攻守の切り替え。
差し返し。
起き攻め。
プレイヤー性能がそのまま出る。
神谷が最も長く使っているキャラクターだった。
そして。
三本目。
「武神タケル」
神谷が少し笑う。
「安定感ですね」
飛び道具。
無敵対空。
突進技。
守りも攻めも出来る。
苦手な相手が少ない。
どんな状況でも戦える。
王道オールラウンダー。
黒崎が湯呑みを置く。
「綺麗に分かれたのう」
神谷もそう思っていた。
Kaiは攻め。
Rexは対応。
武神は安定。
全部役割が違う。
真田が聞く。
「で、一番手応えあるのは?」
神谷は少し考える。
だが答えは早かった。
「武神です」
九条が笑う。
「やっぱりか」
藤堂も納得する。
「最近ずっと触ってる」
神谷は頷いた。
「見えるものが違うので」
黒崎が少し笑う。
その言葉が気に入ったらしい。
「どう違うんじゃ」
神谷はモニターを見る。
「待てるんです」
部屋が静かになる。
「Kaiなら攻める場面」
「Rexなら前に出る場面」
少し考える。
「武神だと待てる」
九条が頷く。
「分かる」
飛び道具がある。
対空もある。
無理に触りに行く必要がない。
だから相手を見る時間が増える。
観察する時間が増える。
神谷は続けた。
「黒崎さんに言われたことも分かってきました」
黒崎が笑う。
「ほう」
「相手を知ってから勝つ」
その言葉だった。
以前の神谷なら攻めていた。
だが今は違う。
待つ。
観察する。
誘う。
それも勝ち方だと理解し始めていた。
九条が腕を組む。
「面白くなってきたな」
真田も笑う。
「リーグ中に進化してるじゃねぇか」
神谷は否定しなかった。
実際そうだった。
狼塚との敗北。
控えで見た試合。
黒崎との会話。
全部が繋がっている。
そして。
Kai。
Rex。
武神タケル。
三つの武器が揃った。
神谷はキャラクター選択画面を見つめる。
どれを出すか。
どれで戦うか。
相手によって変わる。
それがリーグ戦だ。
だからこそ面白い。
「まだ完成じゃないですけど」
神谷が言う。
「かなり手応えあります」
その言葉に九条たちは笑った。
神谷がそこまで言う時は大抵強い。
そして黒崎だけは静かに頷く。
技術だけではない。
考え方も変わり始めている。
それこそが一番の成長だった。
Division F第三節まで残りわずか。
神谷蓮は誰にも気付かれない場所で、また一段階強くなろうとしていた。




