第38話 謎の武神
RAVEN’S NEST本社。
格闘ゲーム部門の練習室。
昼過ぎ。
神谷はいつものように対戦台へ座っていた。
その周囲には九条、真田、藤堂、黒崎が集まっている。
「で?」
九条が腕を組む。
「最近面白いことやってるらしいな」
神谷は少し目を逸らした。
「別に」
「その顔は別にじゃないな」
真田が笑う。
「SNS見たぞ」
藤堂もスマホを見せる。
そこには切り抜き動画。
【謎の武神、ランクマ21連勝】
【正体不明の武神タケル使い現る】
【プロを狩る謎のプレイヤー】
神谷は黙る。
九条が笑った。
「お前だろ」
「違います」
「嘘つけ」
即ツッコミだった。
黒崎も湯呑みを持ちながら笑う。
「蓮は昔から分かりやすいのう」
「豪さんまで」
「ほっほっ」
全く隠す気がない。
真田がモニターを指差した。
「まあいいから見せろ」
「何をですか」
「武神」
神谷は数秒考えた。
そして。
「一回だけですよ」
対戦台へ座る。
九条がニヤニヤしている。
「楽しみだな」
「武神とかいつ以来だよ」
藤堂も珍しく興味を示していた。
「確かに」
神谷がキャラクターを選択する。
武神タケル。
すると真田が吹き出した。
「本当に武神じゃねぇか」
「だから言ったじゃないですか」
「まさか本当に使ってるとは思わないだろ」
九条が席へ向かう。
「相手してやる」
「いいですよ」
「その自信気になるな」
試合開始。
九条はいつものメインキャラ。
神谷は武神。
開始直後。
九条が前へ出る。
だが神谷は動かない。
飛び道具。
牽制。
歩き。
距離管理。
九条が眉をひそめる。
「おい」
飛び込む。
対空。
落ちる。
再び飛ぶ。
また落ちる。
「おい」
三回目。
また落ちる。
真田が吹き出した。
「全部落ちてる」
藤堂も小さく笑う。
「綺麗」
九条が本気になる。
攻める。
崩す。
揺さぶる。
だが神谷は崩れない。
そして。
差し返し。
コンボ。
KO。
一本目。
部屋が静かになる。
九条がモニターを見る。
「なるほど」
笑っていた。
本気の顔だった。
二本目。
さらに攻める。
だが。
武神が止まらない。
飛び道具。
差し返し。
対空。
起き攻め。
全部高水準。
KO。
試合終了。
神谷勝利。
数秒静寂。
そして。
「強っ」
真田が最初に言った。
「おかしいだろ」
藤堂も頷く。
「武神が強いんじゃない」
九条を見る。
「蓮が強い」
九条は笑った。
「いや面白いなこれ」
神谷が席を立つ。
「そんなにですか」
「そんなにだよ」
即答だった。
真田も頷く。
「Rexと全然違う」
「そうですか」
「立ち回りが別人」
九条が続ける。
「というかお前」
神谷を見る。
「見えるようになったな」
その言葉で神谷が少しだけ止まる。
黒崎が笑った。
「気付いたか」
九条も頷く。
「前より急がなくなった」
真田も納得する。
「あー」
「確かに」
「前なら攻めてた場面で待ってる」
神谷は少し考える。
言われてみればそうだった。
九条が椅子にもたれる。
「豪さん効果か」
黒崎は笑う。
「儂は何もしておらんよ」
「絶対してるだろ」
全員がそう思った。
その時。
部屋のドアが開く。
小鳥遊ひまりが顔を出した。
「あっ」
全員を見る。
「噂の武神だ」
神谷が嫌そうな顔をする。
ひまりはスマホを掲げた。
「今SNS大騒ぎだよ」
画面には。
【謎の武神、レートランキング12位到達】
【正体はプロか?】
【武神タケル最強説】
九条が爆笑した。
「ランキング12位!?」
真田も笑う。
「お前何やってんだよ!」
神谷は黙ったままだった。
黒崎だけが静かに笑う。
武神タケル。
謎のランクマ荒らし。
そして。
確実に成長している神谷蓮。
次のリーグ戦へ向けて、その牙は静かに研がれていた。




