第14話 リベンジマッチ
白石凛は対戦席へ座りながら、ゆっくりとモニターへ映る名前を見つめていた。
LETHAL。
今大会最大の話題。
正体不明。
所属不明。
経歴不明。
だが実力だけは本物。
そんな評価が既に出来上がっている。
しかし凛にとって重要なのはそこではなかった。
――強い。
それだけだった。
ランクマッチで負けた時から考えは変わらない。
相手を侮ったことなど一度もない。
むしろ逆だ。
誰よりも警戒している。
誰よりも危険視している。
だからこそ。
負けたままでは終われない。
「準決勝第一試合!」
実況の黒田が声を張り上げる。
「白石凛選手対LETHAL選手!」
配信は既に十五万人を超えていた。
コメント欄も異常な速度で流れている。
「鬼塚さん、このカードどう見ますか?」
「楽しみですね」
鬼塚は笑う。
「お互い研究していると思います。特に白石選手は間違いなくLETHAL選手の試合を全部見ているでしょう」
その通りだった。
凛は見た。
何度も。
何度も。
予選。
本戦。
全試合。
天城レオ戦も。
ノア戦も。
全て。
その上で分かったことがある。
LETHALは読んでいるわけじゃない。
学習している。
試合中に。
戦いながら。
だから。
同じことを繰り返したら負ける。
「Round1――Fight!」
試合開始。
開幕。
Celesが前へ出る。
Kaiは下がる。
中距離。
最初の探り合い。
凛は飛ばない。
無理に触りにも行かない。
まず見る。
相手を見る。
Kaiも同じだった。
互いに牽制。
距離管理。
差し返し。
高レベルな静かな立ち上がり。
「おおっと」
黒田が声を上げる。
「どちらも慎重ですね」
「当然です」
鬼塚が頷く。
「この二人は相手の強さを知っています」
凛が先に仕掛ける。
高速ステップ。
下段。
ガード。
即座に投げ。
成功。
小さく体力を奪う。
さらに離脱。
追わない。
深追いしない。
LETHAL相手に勢いだけで攻めるのは危険だと知っていた。
Kaiが接近。
中段。
ガード。
投げ。
抜ける。
視聴者がどよめく。
「反応している!」
「白石選手の集中力が凄いですね」
鬼塚も感心していた。
凛は感じていた。
――速い。
やっぱり速い。
レオ戦を見ていた。
理解していたつもりだった。
だが実際に向き合うと違う。
反応。
判断。
選択。
全てが速い。
少しでも迷えば終わる。
だから凛も集中を極限まで高める。
Celesが前進。
牽制。
差し返し。
ヒット。
コンボ。
体力を奪う。
「白石選手リード!」
黒田が叫ぶ。
「良いですね!」
凛は攻める。
だが同じ択は使わない。
投げ。
下段。
中段。
散らす。
徹底的に散らす。
LETHALに覚えさせない。
学習させない。
しかし。
中盤。
違和感が生まれる。
――通らない。
さっきまで通っていた行動。
それが徐々に機能しなくなる。
投げ。
抜けられる。
下段。
止められる。
接近。
置かれる。
凛は確信した。
――もう始まってる。
学習が。
実況席でも鬼塚が口を開く。
「早いですね」
「やっぱりですか?」
「ええ」
鬼塚が頷く。
「LETHAL選手が白石選手の攻めを整理し始めています」
試合が加速する。
凛が変える。
Kaiが対応する。
凛がさらに変える。
Kaiも変える。
視聴者たちが熱狂する。
『やばい』
『レベル高すぎる』
『決勝みたい』
終盤。
体力。
Celes二割。
Kai二割。
完全な五分。
凛は思わず笑っていた。
楽しい。
純粋に。
ここまで読み合いが噛み合う相手は久しぶりだった。
だが。
勝つ。
絶対に。
Celesが前へ出る。
最速ダッシュ。
投げを見せる。
Kaiが反応する。
その瞬間。
中段。
読み勝ち。
ヒット。
会場が沸く。
コンボ。
さらに追撃。
体力が消える。
KO。
「決まったあああああ!!」
黒田が絶叫する。
「第一ゲームは白石凛選手!!」
配信が爆発する。
「やりましたね」
鬼塚が笑う。
「初めてです」
「何がです?」
「LETHAL選手が大会でゲームを落とした」
凛は小さく息を吐いた。
だが表情は変わらない。
まだ終わっていない。
相手はLETHALだ。
一ゲーム取った程度で安心できる相手ではない。
むしろ。
ここからが本番。
なぜなら。
学習する怪物は。
敗北した直後が最も危険だからだった。
そして数分後。
運命の第二ゲームが始まる。




