第32話 観る側
俺は控室のモニターを見ていた。
ステージでは先鋒戦。
真田さんと霧島蓮。
両チームの先鋒同士が向かい合っている。
普段なら俺も試合をする側だ。
だが今日は違う。
控え。
観る側だった。
「不思議な気分かのう」
隣から黒崎さんの声が聞こえた。
俺は少し笑う。
「少しだけ」
黒崎さんは湯呑みを持ちながらモニターを見る。
「昔は観る方が好きじゃった」
「そうなんですか」
「試合中の選手より色んなもんが見えるからのう」
確かにそうだった。
試合中は目の前の相手しか見えない。
だが外から見ると違う。
チームの流れ。
選手の表情。
戦略。
全部見える。
画面の中では真田さんがラウンドを取っていた。
「うまいですね」
俺が呟く。
黒崎さんも頷く。
「焦っとらん」
確かに。
霧島は強い。
世界経験もある。
だが真田さんは無理をしない。
勝てる場所だけで勝負している。
「若い頃はああいうの出来んかった」
黒崎さんが笑う。
「どうしてですか」
「勝ちたかったからじゃ」
少し意味が分からない。
俺が首を傾げる。
黒崎さんは続けた。
「勝ちたいから攻める」
「勝ちたいから無理をする」
「勝ちたいから焦る」
そこで一息つく。
「じゃが本当に強い奴は違う」
モニターを見る。
真田さんが試合を決めていた。
KO。
先鋒戦勝利。
RAVEN’S NEST 10-0 VORTEX。
会場が沸く。
「勝つために待てるんじゃ」
俺はその言葉を頭の中で反芻する。
勝つために攻める。
じゃない。
勝つために待つ。
それも強さ。
「なるほど」
「蓮はまだ若いからのう」
黒崎さんが笑う。
「攻める方が好きじゃろ」
「好きですね」
即答だった。
黒崎さんも笑った。
「知っとる」
会話している間に中堅戦が始まる。
藤堂さん。
白崎ルイ。
女性トッププレイヤーと期待の若手。
試合開始。
藤堂さんは相変わらず冷静だった。
崩れない。
焦らない。
相手が何をしても表情が変わらない。
「玲奈は昔からああなんですか」
俺が聞く。
黒崎さんは少し考えた。
「昔はもっと怖かったのう」
「怖かった?」
「負けると誰とも喋らんかった」
思わず笑ってしまう。
今の姿から想像出来ない。
「意外です」
「今も悔しがっとる」
黒崎さんはモニターを見る。
「見せんだけじゃ」
その時。
藤堂さんがコンボを決めた。
KO。
一本目。
藤堂さん。
『強ぇ!!』
『玲奈うますぎ!』
コメントも流れている。
二本目。
三本目。
最後まで流れを渡さなかった。
試合終了。
RAVEN’S NEST 20-0 VORTEX。
会場が沸く。
「強いですね」
俺が呟く。
「強いのう」
黒崎さんも頷く。
これで大将戦。
九条さん。
皇城龍之介。
Division F屈指のエース対決。
会場の歓声が控室まで聞こえてくる。
九条さんがステージへ向かう姿が映る。
余裕そうだった。
皇城も落ち着いている。
「どっちが勝つと思います?」
俺が聞く。
黒崎さんは笑った。
「分からん」
即答だった。
「じゃが」
そこで少しだけ目を細める。
「面白い試合にはなるじゃろう」
俺も頷く。
本当にそう思った。
選手としてではなく。
観る側として。
純粋に楽しみだった。
そして大将戦が始まる。
Division F第二節。
優勝候補同士の激突。
その勝負の行方を、俺と黒崎さんは静かに見守っていた。




