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花紋様の宝石姫  〈魔の森でスローライフ始めます〉  作者: おかき


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7話 森から出てみる?

「門だけ?」


セルスが疑問を声にした。

建物もなにもなく、真っ黒で大きな門だけが目の前にある。

禍々しい圧を感じるセルスは首を反らし門を見上げ眺めていた。


「昼間のダンジョンはお山に扉があるんだけど、夜のダンジョンは門だけが建っているの。門の裏も普通に通り抜け出来るわ。昼間のダンジョンは少し離れた場所にあるけれど、夜には見つけれない」


「どうなっているのでしょうか?入り口が二つもあるダンジョンなど、聞いた事がありません。昼と夜のダンジョンは別物?それとも……」


顎に手をあてて、あーでもない、こーでもないと悩むセルスを綺羅は側で待った。


セルスは考えるのをやめて、扉を調べ始めた。

(触れないように少し離れて調べよう)


扉から距離を置き、前から後ろから眺める。

暫くするとセルスが綺羅のもとに戻ってきた。


「綺羅さん、手の紋を見せてもらえますか?」


綺羅はセルスの言葉を聞いて、左手の甲を上にして手を出した。

セルスが綺羅の手を掬い上げて紋をじっと見つめると、納得したのか頷いた。


「紋に描かれている花が、ダンジョンの扉にも描かれています。夜のダンジョンと綺羅さんは関わりがあると考えた方が良いのかもしれません」


綺羅は話を聞き顔を青くさせた。夜のダンジョンは怖いイメージしかない。


「私も連れて行くの?」


震える声でセルスに聞いた。


「綺羅さんを?ダンジョンに?まさか!死ぬかもしれないダンジョンに、綺羅さんを連れてなんて行けないよ」


セルスの言葉に綺羅はホッと息を吐いたが、セルスの言葉に不安が込み上げてくる。


「死ぬかもしれないって……」


セルスは、ん?と首を傾げたが、綺羅が何を不安に思っているのかを察した。


「ダンジョンは命がけで潜るのです。私も絶対に死なないとは言い切れません。ですが、綺羅さんともっと話をしたり街に出かけたりしてみたいので、死なないように気をつけますから安心して下さい」


さらりと死を口にするセルスを見て、安心なんか出来ない。


(死なないで 無事に帰ってきて)


まだ友達でも恋人でもない自分が言って良い言葉ではないのかもしれない。綺羅は言葉を飲み込んだ。


綺羅の様子がおかしいとセルスが気が付いた。


「場所も分かりましたので、仲間を連れてダンジョンに来ます。家まで送ります」


セルスは綺羅の手を握り来た道を戻って行く。


黙ったまま手を引かれる綺羅を見て、きっとセルスの身を案じてくれているのだろう。セルスはそう感じていた。


(綺羅のいた世界はきっと魔物もいない平和な世界だったのだろう。ダンジョンに潜ったり魔物を討伐したり……縁がなければ不安になるのも仕方ないか……)


綺羅をどう慰めようかセルスは考えていると、以前の自分ではあり得ない事に気が付いた。


女性から感情を向けられるのは、とても煩わしく思っていた。

悲しかろうと、困っていようとセルスから行動を起こす事はなく知らぬ振りをしていたのに……。


今は、綺羅に泣いてほしくなくて慰めの言葉を告げる。

笑って欲しくて会話を探す。


今だって、綺羅の不安を取り除けないかを考えているのだから。


セルスはそんな自分に対して、クスリと笑った。

綺羅が小さな笑いに気が付き立ち止まる。


「綺羅さんはこの世界を知らなさすぎます。森に一人でいては何も変わらないでしょう?良かったら、明日にでも街に行きませんか?人々の暮らしを見て、この世界はこういうものだと知っていく事が大切な気がします」


(セルスさんの提案は嬉しいけれど……)


「セルスさんが以前チラッと言ってました。私の姿はこの世界の人と違うって。私が街に行ったら……」


「ん?あぁ、大丈夫です。私が魔導具を持って来ます。見た目を変えるので、綺羅さんはこの世界の人と同じ姿で街に行けますよ」


セルスの提案に綺羅は嬉しそうに承諾の返事をした。


家に入る綺羅を見送り、セルスは結界の外に出ると宿の部屋に転移した。

勿論、宿の部屋の結界はずっと張ったままだ。


明日は朝から忙しい。

アレクセル達にダンジョンの話をして、いつから潜るのかを決めなければならない。

(少し日にちを稼ぐけれど)

話し合いを直ぐに終わらせ、綺羅に似合う街歩き用の衣装を買う予定でいる。


明日が早く来るようにセルスは秒で眠りに就いた。




翌朝、セルスは冒険者ギルドが開いたと同時に建物の中に入った。

予想通りにアレクセルとスレーナはギルドの掲示板と睨み合いをしていた。


「おはよう」


セルスの声掛けに二人は驚き跳ね上がった。


「そんなに驚く事か?」


セルスは胸を押さえる二人を見て笑った。


「俺達に声をかける人はいないし、セルスは距離を置くって言ったから。誰も声をかけるはずないと……油断したな」


「ビックリして心臓がバクバクして痛かったんだからね!」


スレーナに睨まれた。


「ダンジョンの事で二人に話をしたい」


アレクセルとスレーナを連れて近付くの席に座る。防音の結界を張りセルスが話を始めた。


「ダンジョンは見付けた。魔法も解除出来そうだが、入るのを少し待って貰いたい。今まで見たことない状況になっている。ダンジョンに潜った冒険者達の記憶が朧気になるくらい、あのダンジョンには何かあると判断した。少し調べたいが、あのダンジョンが出現するのは夜だけだ。夜に森で調べたいから、少し待って欲しい」


セルスの話に二人が驚く。


「昼にダンジョンの入口はないの?夜だけって……聞いた事がないわ」


アレクセルも記憶を辿るも、やはり聞いた事がないようだ。


「三日後の夜に潜る予定ではいる」


「「わかった」」


アレクセルとスレーナと三日後の夜に潜る事に決めた。


「ギルマスにはアレクセルが話をして欲しい。まだ内緒にするように必ず伝えてくれ。後、あいつにはスレーナから伝えといてくれ」


セルスは席を立つとギルドから出て行った。


「あいつってエレンよね。セルスがあんなに嫌がるならエレンを外す方向になるわね」


スレーナは頭を抱えた。

自分がエレンが可哀想だと連れてこなければ、もっと楽しく冒険が出来たのだから。


アレクセルは落ち込むスレーナの背中をポンポンと叩いた。


「エレンが早起きが苦手で良かったな。この場にエレンがいたら、もっとセルスの機嫌は悪かっただろうしな」


いつも寝過ごし苛立たせるエレンの悪癖を、二人は今日だけ感謝した。


「今日はエレンを置いて、久し振りに二人で依頼を受けようか」


アレクセルの言葉にスレーナはパッと明るい笑顔で「うん!」と返事を返した。



置いて行かれたエレンがギルドで泣き喚き、職員達を困らせる事になるが。

今のアレクセルとスレーナには知る術があるはずがなかった。

楽しそうに依頼の紙を剥がして二人は受付に出した。



セルスは軽い足取りで服飾店に向かっている。勿論、綺羅の衣装を買うためだ。


(どんな服を買おうか。色は?スカートの長さは?靴もいるな。あ!アクセサリーもお揃いで買おう!

いや、変装の魔導具を手作りして渡せば、お揃いで作れる!)


セルスの思考は忙しいようだ。


服飾店の扉を開き中に入ると、店員達は口をあんぐりと開けたまま立ち尽くした。


入ってきたのはSランクの冒険者のセルス。

一切表情を変えず冷たい態度と視線で、

「孤高の魔法師」と二つ名を持つ本人が女性専門の服飾店に来たのだ。


セルスはそんな店員をまるっと無視して店内の衣装を次々と見ていく。


(髪色も瞳も何色に変えるかわからないからな……)


セルスはワンピースに手を伸ばし見比べながら悩んでいた。


「い、い、いらっしゃいませ。女性への贈り物でしょうか?」


声をかけてきた店員はとりあえず決まり文句で声をかけた。

孤高の魔法師が女性に贈り物など無いだろうと……。


するとセルスはパッと明るい笑顔で店員に返事を返した。


「贈り物なんだけど、何色がよいか聞いてなくて。でも、今日必要だから悩んでて。彼女は背も小さくて可愛いいから、何色でも似合うと思うんだ。でも、せっかくなら良い物を贈りたくてね」


捲し立てられるように話すセルスに、店員は一歩下がった。


「よろしければ背の高さと雰囲気を教えていただければ、数着見繕いますが……」


店員がそう提案するが、


「いや、自分で選ぶよ。君に選んで貰うのが良いかもしれないが、自分で悩み選んだものを贈りたい。あ!後、靴を見たい。街歩きするような靴を出してくれ」


セルスはそう言うとワンピースをまた見比べ始めた。


ポカーンとする店員は急いで周りの店員の意識を戻し、靴を沢山運んできた。


真剣に悩むセルスの姿を見た店員達の考えは同じ。


孤高の魔法師様は興味を持てる方がいなかっただけだったのだ。

こんなに嬉しそうに、幸せそうに衣装を選ぶセルスを見ればそう思わざるを得ない。


靴の説明を受け、ブーツを二足選んだ。


ワンピースは白色と青色のふわりとした物を二着選んだ。


幸せそうに衣装を抱いたセルスを、店員達は笑顔で見送った。


「きっと今日のことを誰かに話ても、誰も信じては貰えないわよね」


セルスを見送ったままそう漏らしたのは、服飾店のオーナだった。


次はないだろうと、思っていたのだが。この日から、セルスは服飾店に通い続ける事になる。


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