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異世界[知らない場所]で、私[金髪碧眼美少女]とあなた[桃髪ツインテ美少女]がやりたいこと・やりたくないこと~バディでのりきる!ゆるゆるサバイバル生活~  作者: てついち
私とあなたと知らない人

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おじさんとは一緒に暮らしたくない

 なまじ不要なおじさんたちを生かしてしまったため、ふたりはしばし頭を抱えることになった。倫理観とは生活とのトレードオフなのだ。


「……うーん、どうしよっかねぇ?」


「とりあえず家の中に入れるのはナシね」


「それはそう」


 家を拡張すれば彼らの居住空間自体は作れるのだろうが、これはもう、そういう問題ではない。同じ屋根の下に知らないおじさんが六人押しかけてくる生活なんて、同性同士でも危険が伴うものだ。それが異性であるのなら、その危険度は計り知れない。


 せっかく生かしておいたのに下手なことをされて、翌朝には全員分子レベルで分解しました、なんてことになったらとても悲しい。おじさんたちの命は現時点でだいぶ儚いのだ。そういう意味の〝危険度〟である。


「外に逃げられないような空間を作りましょう」


「檻みたいな感じ?」


「そういう感じ。でもまた臭くなるのは嫌だから水場は考えないと……」


 ヘルガはぶつぶつと呪文を唱えながらあごに手を当てて考え始めた。こうなってしまうともうエルザの出る幕はない。


「肉でも食うか……」


 考えることを放棄した彼女は、家の中で朝食を摂ることにした。通算五回目の肉である。だってそれしかないんだもの。


「ヘルガ、ごめんだけどお肉とお塩ちょうだい」


「はーい」


 ぽん、と渡されたのは多分ふたり分ありそうな肉の盛り合わせと、必要充分な塩の乗った木製皿、それからトングと取り皿と箸がワンセットだった。


「ありがとー」


「はーい」


 恐らく一緒に食べる予定で用意していたのだろうが、シンキングタイムに入ってしまったヘルガにその選択肢はもはやない。エルザは自分の分を食べたらヘルガの分も焼いて持ってくるか、なんて考えていた。



♢



 この黒い霧というのは全く便利で、距離は作れるし、ドアと壁のちょっとした隙間ですら繋がりを維持できる。つまりドアを閉めたとしても、濡れて麻痺ったしょぼおじさんたちを外に放置できるのだ。素敵!


 家に入ると食卓にはアストレアが陣取りっぱなしだった。そういやお前外に出てこなかったな。おとなしくしてて偉かったのか、単に食い意地の張った餌待ちだったのかわからないが。


「ぴ」


「ん、へいお待ち。今から焼くよー」 


「ぴぴ」


「ヘルガは外でなんか考えてるんだよ、寂しいねー」


「ぴ」


 炭の火も充分に入っており、脂を網に塗って肉を敷けばそれはもう肉の焼ける良いにおいと良い音がするのだが、アストレアが横にいるとはいえ、エルザは少々寂しさを感じた。思えばこれが〝ここに来て初めての独り飯〟なわけである。


「ぴぴ」


「あ、やべ、ちょっと焦げた。これあげるね?」


「フスー」


「あっ、イテッ、ごめ、冗談だって! 私が食べますって!」


 アストレアの方に上手く焼けた方の肉を進呈し、自分はやや焦げた肉をついばむエルザ。もっしゃもっしゃと咀嚼すればこれはこれで上等な肉とわかるし、実際味は良いはずなのだが。


「なんか微妙だなぁ」


 朝だからというのもあるのかもしれないが、昨夜食べた肉の味とだいぶ味が違って感じるなぁ、と思うエルザだった。



♢



「ヘルガ~」


 という声に振り向いたら口に肉を放り込まれた。


「ん、おいひ」


「へへ、上手く焼けたやつ持ってきた」


 頭にアストレアを乗っけたエルザは、心なしか普段よりにこにこしている気がした。肉が上手く焼けたことがそんなに嬉しかったのだろうか。


「で、進捗ど……できたのね」


「まぁ、九割九分くらい?」


「もうできてるんだわ、それは」


 家から二メートルほど離れた場所に、それはそれは立派な屋根付きの柵ができていた。馬とか牛とか入れておけそうな、言うなれば簡易的な厩舎だろうか。ぱっと見て風変わりなのは、個室がふたつ設置されていることと、水が流しっぱなしの滝のような施設が備え付けられているところだ。そこには簡易的だが、仕切りのようなものが付いている。


「あの個室は……何?」


「あれはトイレ。家(うち)のやつと同じね。人数いるから喧嘩しないようにと思ってふたつ置いたの」


「そしたら、あの滝は……?」


「お風呂と洗面所代わりに温水を循環できるようにしてみたの。放っておいたらまた臭くなるでしょ?」


「おおぅ、おんすいのじゅんかん……」


「あとで家(うち)の方も直しておくわね」


「あ、うん、ありがとう……」


 この辺で既にエルザの脳みそはパンクした。合掌。しかし彼女には脊髄で話す能力があるのだ。すごいぞエルザ。


「……床はフローリングで、上に草が敷いてあるのね」


「下が土だとどの道汚れそうだし、それならもう室内飼いみたいにしちゃおうかなって」


「室内飼い」


「室内飼い」


 さらによくよく見れば、柵の入り口のあたりは確かに家の玄関と似たような構造になっている。だが、室内というには壁はない。屋根の下はそれを支える柱と、その間を走っている柵だけである。


「室内飼いの割には結構明け透けじゃない?」


「ふっふっふ、そう思うでしょ」


 ヘルガはおもむろに水魔法を柵にかける。その水は柵の中には一切入らず、透明な壁を伝って下に落ちたように見えた。


「おお、なんか張ってる!」


「その通り。弱い風だけ通す透明な防壁が設置してあります。強過ぎる風は通りません」


「すご! 嵐の日も大丈夫そうだね。……でもこれ張り直しとか必要ないの?」


「あるけど、多分数カ月はもつと思うから、今のところは心配ないかな」


「ほえ~」


「色々調整したから、多分あのワイバーンの攻撃でも防げるはず」


「……どうなってんの? 進化っぷりがすご過ぎるんですけど……」


 ヘルガの技術改良は日進月歩どころではないのだが、エルザも大概イカれてやがるのを忘れている。だってあーた、腕作って敵を無力化してるんだぜ? しかもこんな会話をしてる最中もずっとなんだぜ?


「ちなみに水分がすぐ乾燥するように効果付きの風を中に巡らせてるし、ついでに罪悪感と私たちへの崇拝が増すような精神系の干渉も組み込んであるの」


 あれ? 何か今、早口で物騒なことをまくし立てられた気がするなぁ。エルザが聞いた内容を確かめようとヘルガの顔を覗くと、そこには三割増しでにっこりした彼女の姿があった。とても可愛い、けどちょっとこわい。


「……なんて?」


「うん、水がすぐ乾くのよ」


「そっかー、それは良いことだね」


「でしょう?」


【 エルザ は きかなかった こと に した !】


「ま、正直また唾かけられたくないし、そんなことされたら今度こそ分子レベルで分解しちゃいそうだからね」


「そ、そうだね……」


 動物を飼う資質というのは、環境を整えるだけでなく、その動物を手懐けられるかどうかが肝(きも)だ。でも別に飼いたくて飼うわけじゃないからその辺を力づくで解決しても何も問題なかろう、というのがヘルガの見解であった。


 極論、連中が勝手に押しかけてきたので、こちらとしては温情で延命してやっているに過ぎない。それをまた唾までかけられたら縊(くび)り殺して打ち捨てる以外の選択肢などありはしないのだ。


 仮に野生動物であっても、かけられた情けは理解するだろう。恩を仇で返すという行為など、全くもってそれ以下なのである。


「九割九分って言う割には、もう十割完成してるんじゃないの?」


「そうなんだけど、なーんか足りない気がしてて……」


 ヘルガは腕を組んで、またうんうん唸り始めた。エルザは、ヘルガから厩舎の方へと視線を移すと、思いついたことを言ってみた。


「看板、とか?」


「それだ!」


 ヘルガはインベントリから、板と棒を組み合わせた簡易的な看板を取り出すと、追加で瓶入りの黒い液体と筆と思しきものを取り出した。


「……それ、元の塩じゃないよね?」


「ちがうちがう、これは炭から作った墨汁です」


「ほう、墨汁」


「こっちは狼の毛で作った筆です」


「ほう、狼。そういやありましたねそんなものも」


「これで、エルザさんにこの建物に名前をつけていただきたい」


「え? 私?」


「そう」


「なんで? 作ったのヘルガじゃん?」


「あ(・)れ(・)を飼うことになったの、エルザお姉さんが言い出しっぺだからね? その責任だと思って」


 ヘルガは親指と頭をおじさんたちの方に傾けてクイッとやってみせた。そもそもエルザが人間を殺して良いのかなんていう問いを投げていなければ、多分あのおじさんたちは今頃分子として生まれ変わっていただろう。


「あ、そういうこと……」


「そういうこと」


 エルザは寝かせてある看板に筆を持って近づくと、うんうん唸りながら名前を必死に考えた。そして、ぱっと何かがひらめいた顔をすると、ヘルガにひとつ確認を取ることにした。


「これ日本語で良いの?」


「もちろん。そもそも私たちが認識できてるのって日本語だけなのよね」


「よっしゃ! いっちょやったりますか!」


 エルザは勢いよく看板に文字を書き始めた。が、半分くらい書いたところで、また唸り始めた。


「ヘルガ~、牧場って漢字どう書くんだっけ……?」


「ん~、わかんない。ひらがなで良いんじゃない?」


 ふたりには壊滅的に漢字の記憶がなかった。そういうものがあったという認識はあるようだが、それ自体の知識が欠落しているようだ。


「しゃーない、ひらがなでいこう」


 エルザは残ったスペースにひらがなを書き入れて、看板は完成した。


「よし! できた!」


「おぉ~」


「……なんかバランス悪いかも」


「ふふっ、これはこれで可愛いんじゃない?」


「そう? なら良いけどさぁ……」


 下手な筆文字というのも中々趣があるものだ。でも、漢字にする前提だった右側がスペース足りなさ過ぎてめっちゃ詰まってる感じがする。


「よっこらしょ……あぁ!?」


 エルザが思いっきり看板を立てると、乾いていない墨汁がだらっと下にたれておぞましい感じになった。わお。


「あちゃ~、全然乾いてなかった」


「ふむ、味があって良いかもしれない」


「そうかな~? まぁヘルガがそう言うなら良いか……」


 かくして、ここに『おじさんぼくじょう』が完成したのだった。


 その看板は、『おじさん』がすごいデカくて、『ぼくじょう』がなんか縦に細い。ついでにお化け屋敷チックなホラー感も液だれによって再現されている。この看板がついてる場所がまともな施設であるはずがない。


 ……いくら生活とトレードオフって言ったってさ、倫理観も含めていろいろ大丈夫なのそれ?

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