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異世界でやりたいことやりたくないこと  作者: てついち


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3/7

死にたくないから証が欲しい

「なるほど、データみたいな感じで手持ちのアイテムに入ってるわけね」


「うん。マジックバッグとかそういうイメージで良い、かも」


 ヘルガは回収した狼の尻尾を再召喚してから、手に持って感触を確かめている。素材自体に血や汚れはついていない。なんなら毛皮を出したら先程首ちょんぱした部分も綺麗に繋がっていた。どうなっとんねん。


「ほぇー。んで、これは魔法ってわけじゃないんだ?」


「そうみたい。特別魔力を使う感じがなくて……スキルというかもう、普通に使える機能みたいなもの……なのかな?」


インスタントな解体(さっきのアレ)も?」


「うん、機能のような感じがするんだけど……。この世界に他の人がいたとして、これを見て何と言われるかはちょっとわからないなぁ」


 なんということでしょう。グロさ当社比三倍の狼の死体は、ぶちまけられた血液も綺麗にインベントリに収まり、痕跡は毛の一本まで消えてしまったのです。あ、ノミとかダニとかいても知らないよ。素材になりそうにないし。


「機能ねぇ……何かぽんぽん出て来て本格的に怖くなってきたわ」


「種類的にはまだふたつ……みっつめ? だし、そっちも銃とナイフと必殺技で三種類ってことでおあいこじゃない……?」


「なるほど! そういう考え方もある」


「えへへ、でしょう? とりあえず残りも片付けちゃうね」


「うん、お願い」


 頭に鳥もどきを乗せながら、エルザの定位置はすっかり岩の上になってしまった。わかっているんだ、今は邪魔にしかならないって。

 インスタントな解体(さっきのアレ)はエルザ側では再現できないらしい。黒い霧の操作とは違う枠での認識が必要らしく、またインスタントな解体(さっきのアレ)で発生した素材についても施術した当人でしか回収ができないらしい。


 ずっとインスタントな解体(さっきのアレ)というのもなんかアレだし、便宜上、簡易解体とでも呼称するか、とエルザは考えた。名前があると現象だろうが特定の行為だろうが後々が便利になるだろうし、あって困るものじゃないわけで。


 ヘルガは残っている狼を先程と同様にポンポンと素材にしてしまうと、やはりさっきと同じ要領で吸い込んでしまった。そう見えるだけだと言われてもそう見えてるんだからもうあれは吸収ですよ。


「……さて、じゃぁこっちもやってみますか」


「大丈夫そうな気はするけど、失敗するところも見てみたい気はする」


 次はいよいよ最初に狩った巨大な羊の魔物である。ちょっと時間が経っているので上手く簡易解体ができるのかどうかは微妙なところだ。損傷は少ないけれども、もしかしたら素材が劣化してたりとか、血を素材として得られなくなるとかそういう事象は考えておくべきかもしれない。


「もし失敗したら……別の方法とか考えなくちゃいけないね……」


「あっ、ごめ! ちがくて! 意地悪とかそういうつもりじゃないから!」


「大丈夫、わかってます。……ただ、実際問題、上手く行かないことは色々試さないと自分のこともよくわからないままだからね」


「そうなんだよねぇ……なーんもまだわかってないからねぇ」


 表面的には和やかであるが、実際内心までそうとも言い切れないのが二人の実状ではある。片や高威力高射程何でもござれの必中武器持ち、片や随時防御を更新していく化物である。これでお互い内心穏やかであったら相当な図太さと言えるだろう。そういう意味でも二人の考えていることは同じだった。


 複数の狼が撃ち抜かれている時、ヘルガは思った。明日は我が身かと。

 気分を害すようなことがあれば、命がいくつあっても足りないのでは?


 その狼の解体現場を隣で見た時、エルザは思った。明日は我が身かと。

 すごい魔法を開発されて殺されたら自分も同じように解体されるのでは?


『この人を敵に回すと絶対にやばい』


 そろそろお互いに不利益を働かないという証が欲しいところではある。とはいえこんな草と木しかないようなところに着の身着のままブッ込まれて証も何もあるわけがない。お互いに担保にするものがないのだ。


 わかってる、わかってますとも。お互いがお互いを害そうなんてこれっぽっちも思ってないってことはわかってるんです。お互いにわかってるんですけど、確証が欲しいんです。でもそれが難しい。そうであるならばもう、とことんまでお互いに穏やかに接するほかないってことなんです。


「えいっ!」


 相変わらずポンッと間抜けな音がしたと思えば、でっかい羊もクルクル回るアイコンへと早変わりした。何度見ても実に不思議な光景である。

 サイズがサイズだけあって肉の量はすごいし、羊毛と断言して良いのかわからないが、売って一儲けできそうな素材がこんもりと発生した。あとはヒヅメ部分であるとか角なんかも綺麗に解体されているらしい。血液も散らばって凝固した部分も綺麗に回収されているようだ。ちゃんと骨も部位毎に分割されていたりする。とにもかくにも便利な機能である。


「これくらいなら素材の劣化とかはないみたい。不思議な機能様様だねぇ」


「ほー、こっちとしてはありがたい限りでござんすなぁ」


「なにそれ、ちょっと古臭い」


 ヘルガはふふっと笑うと、手元にある黒いナイフを返しそびれていることに気付いた。解体に使う分には刃物らしい扱いをしてやれているか不安があるが、きっと普通に使えば恐ろしい切れ味を発揮する代物だ。慎重に扱わねば。


「はい、ナイフありがとう。お返しします」


 丁寧に刃先を自分に向けながら、ヘルガはナイフを差し出す。その面持ちに少し緊張感が走ったのをエルザは見逃さなかったが、別段ここで何ができるわけでもないので一旦流すことにした。


「あいよ。まぁ手渡しで返してもらわなくてもその場で回収できちゃうからそっちの方が手っ取り早いと思うけど」


「そうかもしれないけど、こういうのは表面的、形式的でも大事かなって」


「ふーん、そういうもんかぁ」


 受け取ったナイフを軽く弄んでから、エルザは霧に還した。帯刀せずに手の中で武器をノータイム召喚ノータイム収納できるというのはやはり驚異的である。


「素材は一旦私の方で預かりま……預かるけど、どこかで換金できれば分配するし、素材を使えそうなことがあれば言って欲しい、かな」


「うん、ありがと! 正直荷物無いだけで助かるからそんな律儀に気にしなくても良いんだけどねぇ」


「魔物をやっつけたのはエルザだから、そういうわけにもいかないよ」


「そう? まぁそう言ってもらえるのはこっちとしても有難いよ。ガメるやつだったらそっくりガメるだろうし」


「あはは……、まぁ私にはそんなことできないから、その辺は安心してもらって良いかな……」


 ヘルガの苦笑いに、エルザはどうしたものかと思う。お互いまだ信じきれてない部分があるとはいえ、もうちょっと屈託なく笑って欲しいものだ。


「じゃ、半分こ」


「……え?」


「素材とかお金とか、半分こしようって話!」


「それはちょっと……、こっちが貰い過ぎじゃない?」


「そんなことないでしょ。本当だったら解体費用とか荷物運搬費用みたいなのもあるわけだし、あと防御魔法も使ってもらってるからね。むしろこっちが少なくても良いくらいだと思ってるよ」


「それはちょっと言い過ぎじゃ……」


「私はそんなことないと思ってるけど、でもそれじゃヘルガは気を遣っちゃうでしょ? だから半分。どう?」


「……そういうことなら」


「決まりね!」


 エルザがニカッと笑うと、ヘルガもつられて微笑む。お互いに、それまであった緊張が少しはほどけた気がした。


 素材の扱いについて、ヘルガは誠意を尽くしてくれようとしている。そこを誠意で返せれば、今後の関係は安泰なのではないか、少なくとも、今日明日くらいの信頼は築くことができるのではないか。エルザはそう考えた。打算的と言われたらそうなのだろうが、表面的形式的にそれくらいわかりやすい礼節や利益が必要なこともある。それもヘルガが先程教えてくれたことだった。


「……わかりやすい形、かぁ」


 ヘルガが防御魔法を解きながらまた眼を光らせている横で、エルザは考え事をしていた。そのままふと空を見上げていたら、考えていたことが口から零れちゃった。不覚である。


「……? 何か言った?」


「あー、ごめん。変な独り言出ちゃった」


「なら良いんだけど……力を使って疲れちゃったとかあったら言ってね?」


「あ、うん! 全然大丈夫だから!」


「そう……? ならいいんだけど……」


 ヘルガに気を遣わせてしまって若干心苦しい。魔法使ってる分そっちの方が疲れるんじゃないのかってエルザはちょっと心配になった。あと帽子にとまってる鳥もどきが爪を急に頭皮に食い込ませてきて痛い。あんまり痛かったので、エルザは鳥もどきをむんずと掴んで胸の前にまで持って来た。


「なによ、痛いんだけど」


「ぴぴぴ」


 鳥もどきは少しだけ鳴いた後に、執拗にクチバシだけを動かしている。いや、どうやらお前も口を動かせ、という指示にをしているようにも見える。考え過ぎな気もするが……しかし。


 ――あぁ、わかりやすい形、あったわ。


 人間というのは、簡単なことでも難しく複雑に考えてしまったりするものだ。エルザはそこに陥っていた自分を少しだけ恥じた。でも、今大切なのは自分を貶めることではない。それはきっと、友達(ヘルガ)との信頼のためにわかりやすい形を示すこと。


「ねぇ、ヘルガ」


「え、何?」


「私はあなたを、どんな時でも絶対に裏切らない」


 なぜか「裏切らない」という言葉が口から出ていた。エルザはそれが自分達には自然な気がしたのだ。まっすぐヘルガを見つめる瞳は、嘘偽りのない澄んだ碧色(みどりいろ)をしていた。そこには一点の曇りもない。


「私も、エルザをどんな時でも裏切らない、絶対に!」


 言葉を受け入れ、エルザを見つめ返す瞳も、曇りのない澄んだ琥珀色だった。少々気持ちが昂ったのか、少し潤んでいるようにも見える。


「せっかく会えたんだし、仲良くしてくれると嬉しい。改めてこれからよろしくね、ヘルガ」


「ありがとう……こちらこそ、よろしくね、エルザ」


 お互いの欲しかった証、それは物理的なものではないけれど、確かにそこに形になったのだろう。握手とともに交わした誓いに、ほんの少しだけこれからへの期待を込める。きっとここが二人のスタート地点だ。


「ぴぴ」


「偉そうにふんぞり返って……でもま、アンタもありがと」


「ぴ」


 鳥もどきは満足と言わんばかりにエルザの腕の中から飛び立ち、再びキャップの上に戻った。どうやらそこが定位置らしい。


「そういえばその子に名前はないの?」


「これ? すぐ逃げるかなって思ってたんだけど……」


「え!? 相棒とかそういうポジションかと思ってた……」


「いやぁ、目が覚めた時に目の前にいただけで、特にそういうポジションなわけではないと思うんだけど」


「そうなんだ」


 ヘルガはエルザの近くに寄ると、鳥もどきに向かって優し気に話し掛ける。


「ねぇ、あなたは私たちと一緒に来る?」


「ぴ」


 否定や逃げる素振りではなさそうだ。ヘルガはそれを肯定ととらえ、にっこりと微笑んだ。


「じゃあ、あなたにも名前が必要だね」


「ぴ?」


「名前かぁ、ぴー助とかじゃだめなイテッ! やめっ! イテッ!」


 ぴー助は嫌なようである。さすがにそれは雑だなとヘルガも思った。


「わた助イテッ! まる助イテッ! とり助イテッ! 焼き鳥イテッ!」


 〇助のパターンから脱却しないエルザと、それを頭ごなしにつつきまくる鳥もどきのやり取りを見てヘルガは苦笑する。……ん? 焼き鳥?


「ヘルガぁ……笑ってないで何か考えてぇ……」


「そうねぇ……鳥……羽根……翼……何かそういうイメージの……」


 うーん、とひとしきり悩んだあと、ヘルガは何かを思い出したように胸の前で手を打った。その間エルザはずっとつつかれていた。かわいそうに。


「アストレア! ……ってのはどう?」


「アストレア……? 何か随分と格好良い名前だね」


「ぴぴっ」


「翼の生えてる女神様の名前なの。どうかな?」


「ぴ!」


 鳥もどきは小さな翼を手に見立て、親指を立てるような動作を見せた。こういうのをサムズアップっていうらしいよ。


「気に入ったみたいね……アンタ結構仰々しい名前好きなんイテッ!」


「……エルザ的には異存はない?」


「こいつが気に入ってるならそれで良いよ。もうつつかれたくないし……」


「じゃあ、あなたもこれからよろしくね、アストレア」


「ぴぴ」


 任せろ! と言わんばかりの鳥もどき改めアストレア。見た目は丸い綿のかたまりなので完全に名前負けしていると思われるが、本人(鳥)的には気に入っているらしい。何事も名前があるというのは大事で便利なことだ。


「はぁ、何か話し過ぎて喉渇いちゃったかも……」


「あ、水なら魔法で出せるよ」


「……は!? 出せるの!?」


「あ、うん、羊の攻撃で引き籠ってる時に喉渇いたなぁと思って試してみたんだった……すっかり忘れてた」


 ヘルガは指先から水をぽたぽたと零して見せる。通りで涙が枯れないわけである。永久機関が完成しちまうところだったなアア~!! でも多分この世界にノーベル賞は無いので安心といえば安心である。知らんけど。


「……それも魔法? すげぇ……でもそれどうやって飲んでたの?」


「……え? こ、こうやって?」


 ヘルガは自分の口元に指を運び、やや上を向く形で水を口内に垂らした。文学的に言えば、それはとても煽情的で耽美であった。


「なんかえっちだな、それ」


 エルザは地の文が文学的に書いたことを一言で表現した。


「へあ!?」


「ぴぴ」


 きっとここが、二人と一羽のスタート地点だ。

調子乗ったら5千字超えました。

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