何もわからないから座り込みたい③
「じゃぁ遠慮なくブッ放しちゃいますかぁ!」
エルザの身体から黒い霧が湧いて出ると、瞬時に右腕の中に収束する。それは黒い拳銃となって敵に銃口を向ける。実在の物ではなさそうだが、ブローバック式のオートマチックガンの形状をしている。
先の羊の頭に風穴を開けたのはこの銃である。魔物の命を一撃で刈り取ったその威力は折り紙付きといって差し支えあるまい。
「折角だから出来そうなこと試してみたら良いんじゃないで……ない?」
「あー……確かに」
この際敬語未満の可愛さは一旦置いておくべきだ。エルザは目の前の敵と自分に出来ることに集中することにした。でも何か横から可愛い娘が魔法を一生懸命使ってくれてる感じのお花以上のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!
「銃だからなぁ……何かこう必中的な技とかないのかな?」
「あの……私に聴かれても……」
ついヘルガの方を凝視してしまう。可愛過ぎるから。むしろエルザの方がヘルガに射抜かれてしまってるっていう、何かそんな感じだ。もう既に手遅れかもしれない。
「バウッ! バウッ! ウウウウウウウウウウウウウウゥ! バウッ!」
「チッ、うるさいなぁ……」
その時エルザの視界で、眼前で吠えている狼にわかりやすいレティクルが付いた。条件的にはエルザ自身の敵意とか殺意といったところだろうか。
「……ん? 必中照準? これか!」
敵が入って来られないことを良いことに、エルザは適当な空中に銃をブッ放した。光そのものを撃ち出したような弾丸は見事に防御魔法をすり抜け、はるか遠くに消えたように見えた。
「えっ、一体何を……?」
「はえー、やっぱダメだった……かな?」
「バウッ! バウッ! バウッ! バッピギャンッ!」
何か今ブッピガンみたいな音した? はるか遠くに消えたはずの弾丸はどうやら戻って来て後ろから狼の頭を撃ち抜いたらしい。そして今、甲高い打撃音を放ってから防御魔法に高速回転しながらめり込み始めた。周囲に亀裂が走るが、防御魔法は何とか耐えている。
キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル……
「あっ、あぁーーっ、ゴメンゴメンゴメンゴメンこれ絶対ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!」
「……相殺、制御、吸収、消滅、なんとか……これで!!」
ヘルガの瞳が琥珀色に光る。めり込んだ光弾は防御魔法に吸収され、入った亀裂を補修する形で消滅した。その間わずか十秒程度。ヘルガ、恐ろしい子……!
「とっ、ととととんでもねぇ……!」
「……ふぅ、ちょっとだけ焦ったけど何とかなりま……なった!」
有能で可愛いとかこの娘女神なのでは? エルザは訝しんだ。
「ぴ?」
アンタじゃない。エルザは眉をしかめた。
「とりあえず、他のやつもやっつけちゃうね……今度は余計なことしないように普通に……」
「あ、さっきのやっても大丈夫で……大丈夫! さっき改良できたから同じくらいの威力なら相殺できると思……うの」
「あ、ほんと?」
「多分大丈夫なはず!」
有能が過ぎるとだんだん怖くなってくるぞこの女神は。
「それじゃもう一コ上いけるか試してみるわ!」
「が、頑張って!」
相棒が有能だと俄然張り切ってしまう。もう何も怖くない!
っていうのはさすがにフラグが過ぎるので控えた方が良さそうであるが……。
「複数必中照準!!」
先ほどのレティクルと同じものが、残り五匹の狼たちを捕捉する。あとは弾道をわかりやすいように真上に向けて発射するだけだ。
「いっけぇーーーーッ!!!」
軽い炸裂音とともに放たれた光弾は防御魔法のドーム天井をすり抜け、青空を突き抜けた後にはるか天空で五つに分裂、直後に狼達の頭蓋を天からブチ抜いた。状況によっては天罰とか神罰的なものに見えるかもしれない。不可避でこの威力は中々恐ろしい技である。
光弾は直撃したらすぐ消えるように設定したつもりだったが、いかんせん弾速が速過ぎたらしく、土をえぐって周囲には隕石でも落ちたような土埃と轟音が上がった。外は何も見えないが、恐らく狼も全滅していることだろう。
「いやぁ、防御魔法あって助かったよ。土埃すごいし、何より守ってもらっちゃってたし」
なんなら瞬時に光弾の相殺したり魔法作り変えたりもしてるし、ヘルガを絶対敵に回しちゃいけないとエルザは心に固く誓った。敵になるくらいならお婿さんにしてもらおう。同性だけど尻に敷かれても良いと思ってる。
「いえいえ、私も防御魔法しか出来なかったので、モンスターやっつけてもらって助かりまし……助かった、よ」
敬語はどうしても抜けないらしい。まぁしばらく一緒にいれば落ち着くだろうし、エルザはこれを今だけの楽しみとしておくことにした。
「……さて、これからどうしよっか!」
「そうで……そうだね、とりあえず……」
ヘルガは周囲を見渡して何かを諦めたように絞り出す。
「周りをどうにかしないと、またモンスター寄って来ちゃいま……来ちゃうね……」
「土埃、早く落ち着くと良いね……」
ふたりが肩をすくめている場所からやや遠く、何かしらの大型モンスターの遠吠えが聴こえ始めたあたりで、エルザとヘルガは互いを見て苦笑いをするしかなかった。




