地下墓地を何とか進みたい
地下へと下る時計回りの螺旋階段はうっすらと湿っており、日光を拒む造りのせいで深度を増すたびに肌寒くなっていた。
「……ぅわー、雰囲気あるぅ……」
「……さすがにちょっと不気味ね……」
「ぴ」
会話以外で聞こえるのは、ふたり分の湿った足音、吹き抜ける風の音、どこかで滴る水の音、くらいであろうか。行動に慎重を期すためか、アストレアはヘルガの肩から微動だにしない。
「これこそダンジョンって感じするよね……全然わくわくしないけど……」
「地下墓地系……っていうかそのものだからね……骸骨出たらどうしよう……」
「え゛っ!? ここ地下墓地なの!?」
「いや普通に考えてそうでしょ。それ以外に何があると思ったの……?」
「え、洞窟……みたいな感じ?」
「何で礼拝堂の地下が洞窟なのよ……」
「よくあるじゃん! 脱出口みたいなやつがさぁ!」
「あぁー、それはあったかも」
「でしょー? やっぱ地下は洞窟なのよ」
「でもここ明らかに人が造ってるよねぇ……?」
「……………………っはぁ~~~~~~~~~~」
階段を下りきってみれば、床が湿っている割に水は溜まっておらず、おそらくどこかで水はけを意識した構造になっているようだ。通路は奥まで続いている様子だったが、何かの違和感がヘルガの足を止めさせた。
「…………ちょっと待って」
「ん? どうした?」
「……おかしい、ここには格子があったはずなんだよ。ほら、この跡。」
「こうし? ……あれか、茶色く錆びてた檻みたいなやつ」
「そう、あれ。……でもここ無いのよ……」
「…………外したんじゃないの?」
「どんな理由で?」
「……建付け上の理由とか……? いやごめん、適当言った」
エルザも理由を聞かれて言い淀む。まぁこんなもの一発で看破できるようなら考古学者も社会の先生も要らんのですよ。
「……シンプルに直感で、どう思う? 思いついたこと言って?」
「え、直感? んー、どうだろ……なんで無くなってるかでしょ……?」
この地下通路を見つけたのはエルザだ。偶発的とはいえ、彼女は隠してある仕掛けを突破した。ならば、ここは彼女の直感に従うのもひとつかと、そうヘルガは考えたのだった。え、大丈夫? エルザちゃんの直感だよ?
「……最初に来た人間を、迎え入れるため……? とか」
「……………………迎え入れる……誰かが来ることを想定して……? でもこれじゃあんまりに……」
ヘルガはあごに手を当ててしばらく考え始めてしまった。地下墓地の中だとちょっと沈黙が重い。
「………………………………………………………………」
「ちょっとぉ、黙ってないで何か話してよぅ!」
「……………………信じるわ」
「へ? 何を?」
「行きましょ。あなたの直感を信じる」
「えぇ……なんかあったら私責任重大じゃない?」
「どの道一蓮托生なんだもの。うらみっこなしよ」
「う゛う゛ぅ゛……」
「それともこのまま帰る? お宝探しはいいの?」
「ぅ゛いきますぅ! おともさせていただきますぅ!」
ランプの炎を揺らしながら、きゃいきゃいと奥に踏み入る様子は、まるでアトラクションのお化け屋敷に来たギャルふたりといった趣だった。
♢
ちょっと進むと通路の左右に小部屋が現れた。こういう地下マップでの定番待ち伏せスポットですね。何のってそりゃ、骸骨とかですよ。
「さすがに急に小部屋が出てくると怖い……」
「ふっふっふ……こんな時のための……簡易索敵ッ!!」
「おおー、頼りになるぅ!」
まぁワイバーンの時には色々あって役に立たなかったからね。こういう時くらいはちゃんと使えないとね。
「……敵っぽい反応はないみたい。なんか四角い箱がちょいちょいある」
「……その中から出て来るってことはない……?」
「大丈夫そうかな。そういうのだったら多分箱の中身も赤く映るはず」
「はぁ~、便利だねぇ」
「それは言わないお約束だぜべいべ」
敵がいないと踏んで意気揚々と小部屋に入るふたりと一羽。そこで中央の〝四角い箱〟を照らしながら、エルザは露骨にがっかりした。
「何か宝箱ではなさそうだね」
「……えぇ? 何言ってるのよ……」
「いや、箱があったからさ! きっと宝箱かな~……って……」
「こんなの、棺に決まってるでしょう……」
「え? 羊?」
お約束とかそういうことじゃなくて、これは多分シンプルに単語が繋がっていない様子である。比較的殺ったり食ったりしたばっかりなのでエルザの脳内では似た音は全部羊に繋がってしまうのだ。おめでたや自然の摂理。
「ひ・つ・ぎ! 石棺! 古墳とかピラミッドに入ってたやつ!」
「あ、あぁ~そっち系? そっち系ね、なるほどね?」
「そっち系って何……?」
目を高速でめちゃくちゃ宙に泳がせながら、エルザお姉さんは古墳とピラミッドとの共通点を必死に考えた。そしてピーンって来た。あれってお墓じゃんね? ん? お墓? そういえばここも地下のお墓じゃんね? お墓? ……お墓ァ????
「…………ってぇことは~? この中には~……?」
「そ。そういうこと」
「……………………ッ!!!???」
【 エルザ は きょうふ じょうたい に なった ! 】
エルザは高速でヘルガの後ろに回り込んでしがみついた。
「……散々そういう話してたじゃない……。何で今まで繋がらないのよ……」
「……だってさぁ……あぁいぅのゲームとかの話じゃんさぁ……」
「そういうものにもモデルはあるのよ……。無料で本物を見られるなんてラッキーだと思って……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……」
【 エルザ は きょうふ して いる ! 】
完全に怖気づいてしまったエルザに対して、ヘルガママはため息をひとつついた。そして、愛しい我が子を諭すようにこう問いかけた。
「……帰る? それともお宝?」
「う゛ぅ゛……ぉ、お宝ぁ……!」
「よしよし、良い子ね」
「う゛っ……う゛っ……」
どんなに怖くてもお宝の魅力には抗えないエルザ。そして意外と盗掘精神がたくましいヘルガママなのであった。




