残った廃墟を探索したい
大きな建物跡の探索にて塩を手に入れた一行、次は奥にある巨大な塔を見ることにした……のだが、先程と同様に床だった部分はすべてブチ抜かれ、ただの巨大な吹き抜けと化していた。あぁ、空が青い。
「ありゃー、見事に崩れとるわ」
「何かあってもこれじゃ全部瓦礫の下ね……」
この塔も入り口が二~三階付近と思われる高さにしかなく、アクセスが不能となっていたので例によってエルザが階段を作っていた。入り口から飛び降りようと思えば内部の瓦礫まで一メートル程度の深さしかないため、侵入自体は容易に可能ではある。ただ、先程のように何か残っていたとしても、落ちている瓦礫の量と元々の高さを考えると現存は絶望的だった。
「……次いこっか」
「……そうだね」
ひと悶着あった後だからか、ふたりはすんなりあきらめた。ビバ疲労困憊。良いぞその調子だガンガンいこうぜ。
残った最後の建造物は、先程のふたつと比べてサイズこそ小さかった。ただ、凝った装飾が施されている壁や柱が多く、廃墟だというのに仄かに神聖さを感じられる場所だった。
「ここは何だったんだろうね。あ、見て、像があるよ像」
「……これ、もしかして教会とか礼拝堂だったんじゃないかな?」
「確かに! そう言われたらそんな気がする!」
「ほんとに調子良いなぁ」
天井が崩れているとはいえ、複数階を持つ他の建物と違い、ここの崩落している瓦礫の量は然程でもなかった。最奥には何らかの像があるが、入り口からでは何を象った像なのかはわからない。
「うはは、ここは歩きやすくて良いねぇ」
「やっと探索らしい探索になってきた感じがするね」
足元にやや警戒しつつ、ふたりは建造物の中を歩きながら内部を見回していく。さすがに年季がかなり入っている様子だが、それもあってか差し込む陽光は巻き上げた埃すら幻想的に見せる。
「まずはやっぱ奥の像でしょ。あんなん絶対何かある系だし」
「どこから見ても良いけど怪我だけしないように気を付けてね」
「ハイッ! 気を付けます!」
しっかりヘルガママに釘を刺されたエルザは背筋だけ伸ばして気を付けてるフリをした。気を付けってそっちの意味じゃないだろう。
「もう、ほんとに調子良いんだから」
と言いつつもヘルガも何だかんだで楽しそうである。子を持つ親御さんの気持ちってこんな風なのだろうかと思いつつ、でも自分と同い年か若干年上くらいの少女の親とは一体何だろうかとも考えたりもする。ま、複雑に考えるのはやめたので、この際無事でいてくれればいいか、という考えに至るあたりやっぱりヘルガママなのであった。おぎゃー。
「あ! 何かこれ女神像っぽい? これスカートだし。ホラ、おっぱいあるよおっぱい!」
エルザの名推理が冴え渡った。やはり大事なことは二回言うべきなのだ。
「……もうちょっと上品な言い方もあるでしょうに」
「え? そうだなぁ、バスト? ボイン? メロン?」
「……その中だったらバストがマシかな……でも荘厳過ぎて神の遣いって感じもしないし、きっと本当に女神様の像なんでしょうね」
「ぴ」
ヘルガはアトラクション的な楽しみ方をしているエルザと対照的に、しげしげと像を見上げながら感慨に耽っていた。その肩に乗ったアストレアも興味深げに像を見ている。ま、実際のところ何考えてるかわからないが。
「きっと足元に地下に続く通路があるはず!」
「そんな都合の良い……なんでそう思うの?」
「え? だってそういうのあった方が面白いじゃん!」
「私はその生き方を強く見習いたいと思うわ……」
その像は古くに造られたのであろうが、当時として最大限の崇敬と技術を凝縮したであろう艶やかさと厳かさを持ち合わせていた。ただし、意図的であったのか事故だったのか、頭部だけ欠落してしまっている。
それまでヘルガの肩の上でおとなしくしていたアストレアだったが、ここぞとばかりに像の頭のあった部分に陣取った。結果、像から綿のかたまりみたいな頭が生えたみたいになってしまった。なにやっとんねん。
「フスー」
「ぶっは! ちょ、それは反則だって!」
「ちょっと、アナタまで何してるの!?」
「ぴ」
【 ヘルガ は アストレア を ちゅうい した ! 】
【 ながれだま が エルザ を かすめた ! 】
「ぬ? アナタ〝まで〟? 私まだここでは何もしてませんけど?」
【 エルザ は せいいっぱい はんろん した ! 】
「さっきのことぶり返すの?」
「ハイ! ゴメンナサイ!」
【 エルザ は まけて しまった ! 】
「物分かりが良くて大変結構ですわ、エルザお姉さま」
「う゛っ、う゛っ、こんなはずでは……」
像の頭部となったアストレアは、若干周囲を見渡すと、「ぴ」と鳴いて壁際のとある付近に移動した。飛べるって良いなぁ。
「あ……頭、こんなところに。崩落で落ちちゃったのかな?」
「……にしては何かこう、切り口がスパっとやられた感じじゃない?」
「……もしかしたら誰かに切られちゃったのかもしれないね。……でも、この顔、穏やかでとっても綺麗……」
「何か仏様とか観音様っぽさがある」
壁際に転がっていた頭部は、首のところを人為的に切断されたような痕跡があった。紛れ込んだ背教者でもいたのか、もしくは滅んだ後に誰かが悪戯で切り落としたのか。ともあれ、この頭部が胴と繋がっていた頃は、きっと慈悲深く参拝者を見守っていたことだろう。
「首が斬られた理由とかは、さすがに文献でもないとわからないね。昔なにがあったのかすごく気になるけど、今はどうしようも……」
「そうそう、昔より今! 大事なのは今ですよ! お宝があるかどうかですよ、お宝!」
「もう……ロマンがないんだから」
「にしし、お宝も立派なロマンでしょ?」
「そう言われたらまぁ、そうかもしれないけど?」
そんなやりとりをしつつ、エルザが女神像の台座に横から体重を預けるように左手を置いた瞬間、微々たるものではあるが魔力が吸い取られたような感覚があった。っていうか君にも魔力あったんだね。
「お?」
「ん?」
「ぴ」
エルザが自分の左手の感覚を確かめているうちに、地響きとともに台座ごと女神像が横にずれ始める。まじかよ。おもしれー女神像。
『――嘘でしょ!?』
そうして、あれよあれよと地下への通路が開通したのでした。
「……本当にあった」
「そんなことある……?」
地下への入り口からは風が吹き出していた。どうやら奥側から空気が流れ込んでいるようで、つまるところどこかに繋がっているわけだ。
「……え、行ってみる……?」
「……まぁ、開いちゃったなら進んでみたい……よね」
あれだけイケイケだったのにいざ道が開くと尻込みしちゃうの若者あるあるだよね。夏休みに廃墟とかで肝試しとかしてる時のアレよ。あ、私は行ったことないですよ、インドア派なので。
「ヘルガ、ランプ出してもらって良い?」
「ちょっと待ってね、可燃性のガスとか無いか見てみるから」
「あっ、お願いしまーす……」
さすがにさっき痛い目を見たのでエルザはおとなしかった。それを横目で見て微笑みながら、ヘルガは簡易分析で地下の大気組成を見る。といっても風が吹き抜けている時点で危険なガスが溜まっている可能性はさほど大きくはないのだが。
「うん、大丈夫そう。いこっか」
「……良かった。また気絶したくないしね……」
それぞれでランプを持つと、ふたりと一羽はゆっくりと地下へ潜っていくのだった。




