塩を何とか取り出したい
どぅろんどぅろんの黒い液体(激臭)を突き付けられて「これ、塩です……」って言われて皆さんは納得するだろうか。いいやしないね。ドン引きする前に臭いを嗅いで多分逃げると思います。
「…………とりあえず舐めてみる?」
「絶対やめなよ死んじゃうよ」
「だってこれ塩なんでしょ……? あきらか塩って感じじゃないけど……」
「どう考えたって不純物とかのせいで化学変化しちゃってるでしょ! きっと数百年ものの雑菌とかでごった返してるんだから絶対口に入れちゃダメ!!」
「あ、あいぃ……」
そもそもが激臭なのを無理矢理抑えているだけなので、口になんて入れたら臭過ぎて死ぬ前にのたうち回るんじゃないですかね。
「でも塩だってんなら、ここから塩を取り出せるってことよね」
「そうだとは思うけど、何かするつもり……?」
「塩が入った液体なら海水と同じっしょ。蒸発させよ! 蒸発!」
「……絶対やめた方が良いと思うんだけど」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ試させてよ」
「……まぁ、ちょっとだけなら……」
「っしゃぁ! やってやるぜー」
エルザは霧で柄杓を作ると、少しだけ黒い液体をすくい上げた。そうしてから、思い出したようにヘルガに要求を伝える。
「悪いんだけど、ちょっと焚火作ってもらって良い?」
「……はいはい」
ヘルガは要求に応えて細目の木材をぱぱっと取り出すと、指先から炎を出して一瞬で焚火を作り上げた。毎度のことだけど人類の進化を一万年くらい飛ばした感じがする。
「さぁて、塩塩塩~♪」
「怖いから私少し離れてるね……」
「えぇ? そんな怖がることないと思うけど~」
エルザは何の躊躇もなく手持ちの柄杓を火にかけた。何に対しても迷いがない姿勢だけは評価したいが、状況は選んで欲しい。
「さぁ塩、出て来い出て来い~♪」
だが、一向に液体が加熱される気配がない。あれれ~?
「んー? おかしいな……?」
エルザは火から柄杓を引き上げ、底の辺りを何度か爪で弾いてみた。それから「ん?」と言いながら更に指でなぞってみる。
「……ヘルガ! どうしよう! 霧熱通さないっぽい!」
「あぁ、そうなんだね……じゃあ一旦あきらめましょう?」
「やだ! あきらめない! 何か代わりになりそうなもの探す!」
「あきらめよう……? お願いあきらめてよ……」
ヘルガの思い虚しく、エルザは柄杓を焚火の近くにおいて、平べったくて中央が若干くぼんだ石と、それを支える足に出来そうな長めの石をふたつ拾ってきてしまった。どうしてこういう時の行動力がえげつないのか。
「足を置いて~、平べったいのを乗っけて~、ここにこれを入れて~♪」
「エルザ―、やばいと思ったらちゃんと逃げてねー?」
心なしかヘルガの距離は先程から二倍近く遠くなっていた。
「おー? おっけーおっけー! っていうか遠ッ!」
エルザは慎重過ぎるヘルガに対しておふざけの一貫だと思っている様子で、一人できゃいきゃい楽しそうにしている。それに対してヘルガは、もう心の中でこれから自動的に発生してしまうミイラを拾いに行く決意を心に固く誓った。アストレアはいつも通り呆れていた。
「あ、何かマスク貫通して臭い……アッアッアッ鼻がッ! アッヤバッ!」
石は熱され、水分は着実に蒸発し始め、マスクで分かりにくくはなっているが周囲はとんでもねぇ臭気に包み込まれているはずである。
「アッ臭いッ! ゲホッ、ゴホッ……! アアアッ! アアアアアアアアッ!」
ヘルガは、まぁそうなるだろうな、って思いながら冷静にそれを見ていた。ちょっとこれに懲りて少し落ち着いて欲しい。
「ヘルガッ、ヘルガ助けてッ! 消臭ッ! しょうしゅアアアアアアアアッ!」
そして更なる悪夢は舞い降りる。液体が乗っていた平たい石が、含まれてる水分の気化とか熱膨張で破裂してしまった。ついでに乗っていた液体も飛び散ったり焚火に直接入ったりした。
「アッ! アアアアアアアアアッ! ……あれ、臭い、消え…………」
【 エルザ は めのまえ が まっくら に なった ! 】
♢
「本ッ当に、申し訳ございませんでした……」
エルザは誠心誠意土下座した。ちゃんと手の平も全部地面につけた。別にヘルガがそうしろと言ったわけではないが、暴走した挙句に気絶して回収され、お片付けも全部ヘルガがやってくれたので、これはもう平身低頭するしかないと状況から判断した。
「もう、そんなに謝らなくても良いけど……今度から無茶しないようにね?」
「……はい、すいませんでした……」
実際、構えていたヘルガが瞬時に状況ごと回収してくれたおかげで何とかなったが、下手をしたら毒ガス死亡事故だったわけで。よくわからない液体をいきなり火にかけるのはやめましょうね。
ちなみにヘルガの膝枕は程々に柔らかくてお花みたいな良い匂いがしたそうです。ガッデム。
「で、あの液体の処遇ですが」
「……はい」
「ちょっと手を出して下さい」
「……はい?」
エルザが出した手をヘルガは魔法の水でささっと流すと、温風でガーッと乾燥させた。また知らない魔法増えてるよ……。人類の進化がまた二千年くらい巻いた感じがする。そんでもって、その手の上にパラパラッと何かをこぼした。
「……ん? これは……?」
「まぁ、舐めてみて下さいよ」
見た目は白い粉、中身は大麻とか青酸カリ……ということもなく。
「……しょっぱい……塩だ! 塩だっ!!」
「はい、ご明察です」
ヘルガの笑顔が眩しい。女神様かな?
「え? でもどうやったの?」
「昨日ガラスの材料を土から精製したって言ったでしょう? あれと同じことをインベントリ内で」
「……あぁ、そんなこともしてましたね。すご過ぎてもう何やってるかわかってなかったけど、精製ってそういうことなのね……」
「そういうことです。わかっていただけたようで嬉しいですわ、エルザお姉様」
「いやぁ、インベントリ様様だねぇ……」
そう言ったまま、エルザは一瞬固まる。
「ん? どうかした?」
「もしかしてさぁ、最初からこれできるってわかってた……?」
わかってたんなら止めてくれても良かったじゃん? というエルザの気持ちは割とわかりやすく顔に書いてあった。この他力本願め。
「はぁ……正直最初は私も忘れてたの。でもそれ以上に誰かさんがやたらと蒸発させたがってたから」
「う゛っ……」
「それに私、やめた方が良いとか、あきらめようって何度も言ったと思うんだけど……」
「う゛う゛っ……!」
まぁ、加熱するための焚火を作ったのはヘルガさんなんですけどね、立場的にはもうそこら辺の上下は揺るがない感じになっちゃいましたね。
「あんまり細かくは言わないけど、気絶したのだって結構やばいものが気化しちゃったからなんだからね?」
「う゛う゛う゛っ……!! 誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
エルザは脱帽をした上で、手の平もおでこも全部地面に擦り付けて誠心誠意の土下座をした。これはもう平身低頭謝り散らかすしかないと思った。でも、ふたりの苦労もあっての成果か、
【 ねんがんの しおをてにいれたぞ! 】
奪い取りに来る奴がいないことを切に願うばかりである。




