空腹なので肉が食べたい②
「おーおーヘルガさんや、地下シェルターでも作るんですか?」
不本意に四角い穴が掘れちゃったらエルザお姉さんがイキりだした!
「そ、そんなつもりじゃ……」
「はっ、もしかしてこのまま鉄を掘りに行くつもりとか! 私があんなことを言い出したばっかりになんてお優しい!」
「……あー、それもやぶさかではないんだけど、とりあえず焚火を起こすために草をどけようと思っただけなのよ……」
「やぶさかじゃないんだ!」
「そうなんだけど、今は焚火を起こすのが……」
ニヨニヨしているエルザに懇切丁寧に説明しようとするヘルガ。何かコントみたいになってきたなって思っていた。もしかして上手いことエルザに乗せられている……? このままでは誠に遺憾だ。
「っていうか、その土戻せばそこだけ草ハゲるんじゃね?」
「……! そうかもしれない」
鶴の一声ってこういうことかもしれないなぁ、とか思いつつ、ヘルガは素材として発生してしまった土ブロックを埋め戻してみた。結果一メートル四方の四角い土の地面が生まれた。結果おーらい。持つべきはやはり友達と脳みその柔軟さだ。
「……やっぱりあんまり複雑に考えないようにした方が良いみたい」
「でしょー! シンプルイズベストってやつだよ」
ヘルガは何か違う気がしたけど、言い返すのは面倒くさかった。面倒くさいという感情をヘルガは柔らかい脳みそで頑張って粉々に噛み砕いた。
「そうだね。はい、シャベルお返しします」
「はい、お受け取りします」
エルザは心に刻んだ大切な言葉を思い出した。
おん? 毎度このやり取りやるんか? でもヘルガはこういうのが大事って言ってたし、別段何か手間なわけでもないから甘んじて受けよう。
エルザは心に刻んだ大切な言葉のおまけ部分も思い出した。
ちなみにリピートする時は おん? の部分から再生されます。
――おまけ部分いらねぇ!
エルザは心に刻んだ言葉を忘れることにした。
「……次こういう時は私が穴掘るとかした方が良いのかな」
「うーん、多分気合入れちゃったせいで素材にしちゃう機能が出ちゃったと思う……。次から気を付けてみるけど、もしだめだったらお願いします」
「あいよ! 任せときな!」
持ち直したヘルガは、インベントリから太さがまばらな枝をまんべんなく取り出すと、それを露出した土の上に積み重ねるように広げた。
「何か木って水分があるから中々燃えないって聞いた気がするんだけど」
「ふふん、まぁ見てなさいって」
得意げなヘルガは指先から小さい炎を出し、それを枝に燃え移した。水分の懸念などどこ吹く風と言わんばかりによく燃えている。
「ほぇー、聞いた話なんてアテにならないね」
「違うのよお姉さん、素材になった時に水分が良い感じに抜けるのよ」
「うわぁ、やはり持つべきものはチート能力だね。そういやしれっと炎出してたけど驚くのに疲れたからもう驚かないね」
「私も自分のことで驚くのにもう疲れたわ……で、串焼き何本食べる?」
「んー、とりあえず三本!」
「らじゃー。あとアストレアは一本分で良い?」
「ぴ」
「アンタ、サイズの割に結構食べるのね……イテッ!」
ウィンドウの中でちゃちゃっと肉を細かく分割し、ちゃちゃっと作った串にちゃちゃっと刺していけば、はい、手元に肉串(生)が出ました。串は長めに作ってあるので地面に刺すにも充分余裕がある。さすヘル。
「えぇ!? そこまで下準備できちゃうの!?」
「お姉さん、驚かないって言ったばかりじゃないの」
「しまった! 罠か! でもそんなことより……うっへへぇ! 肉だ肉だァ! 焼こうぜ焼こうぜェ!」
「はいはい、見てて飽きないお姉さんだこと」
肉串を焚火から程良いところで突き立てれば横からの遠火で良い感じに表面がテカってくる。わずかにある風が焚火を強めつつ揺らすが、風下があるおかげで煤がそちらに逃げてくれる。
「うわぁ~……肉が焼けるにおいだぁ……」
「ちょっと物騒な言い回しな気がするけど……このにおいはたまらないねぇ……」
「……大丈夫? また狼来ない?」
「……もう複雑に考えるのやめたの。来てから考えましょ」
「それもそうだぜェ!」
「それに消臭防壁出しちゃうと全部においなくなっちゃうからね……」
「オゥ……それは嫌だぜェ……」
焼けた面と焼けてない面をくるっと回したり遠ざけてみたりして焼き加減を調整すれば……なんということでしょう。
「おぉー! 串焼きの完成だァ!」
「何か想像以上に美味しそう……!」
「ぴぴー」
串の下の方は脂がしたたり落ちているので、木材を紙に加工してちょちょいのちょいってもんですよ。間の加工はすっ飛ばせるあたりさすヘルである。ちなみにアストレアの分は木製の皿に乗せてあげた。やさしい。
肉串(焼)を手にお互いの顔を見合わせた二人は、何を打ち合わせるわけでもなく、同時に声を出す。
『せーのっ! いっただっきまぁすっ!』
「んぅーっ!……ちゃんと良いラム肉の味がするぅ……」
「これは相当良いお肉だね、高いって出るのもわかる気がする」
二人と一羽は夢中で肉を頬張る。少なくとも二人は目が覚めてから初めての食事なわけだ。慣れない環境での食事ですら一時の清涼剤足り得る。
「ねぇ、地獄のものを食べたら地上に帰れなくなるらしいよ……」
「ここが地獄なら私たちが獄卒の可能性あるね……結構好き勝手してるし」
「ははっ、そうかもしれない。ってかちょっとは怖がってよぅ。さっきはあんなに私の胸で泣いていたというのに……」
「……もう、話を盛らないで! 怖がっても何も変わらないってわかったからね。それに、誰かさんは隣にいてくれるし、お肉は美味しいし……」
ヘルガ は はずかしがって いる!
「そうだねぇ、間違いないねぇ」
エルザ は ニヤニヤ している!
「ぴぴ」
「お、アンタも味わかるのか」
「ぴ!」
「当然! って言ってそうな感じだね」
「ぴー」
空腹も相まって最初の串は一瞬で平らげてしまった。でも二本目を手にした時、二人してその手を止め、その目は座った。そして二人してスンッてなった。横にいた一羽もちょっとスンッってなった。
「美味しいんだけどさぁ……」
「良いお肉なんだけどねぇ……」
「ぴぴぃ……」
『やっぱり塩が欲しいなぁ……』
空は高く、風は凪ぎ、見渡す限り海は見えず、岩塩がありそうな岩肌も見えない。どこもかしこもあるのは草と木ばかり。状況は実に絶望的であった。




