空腹なので肉が食べたい①
「私は考えたんですよ。さっきの肉って食べられるのかなって」
エルザは真剣な面持ちで切り出した。今後の食糧事情を鑑みるに際し、先程獲った肉類が食べられるのかどうかというのは死活問題になり得る。というか肉だろうが植物だろうが、毒性が強くて食べられないとなればそれは飢・即・死でなわけである。こいつぁやべぇぜ!
「なのでとりあえず食べてみようかと」
「ちょっっっっと待って!! 向こうを見ないにも程があるでしょう!?」
「え、でもお腹空いて来ちゃったし……」
「それにしたって早計過ぎるッ……!」
ヘルガは何とかエルザの暴走を止められないか考える。ここに至るまでに緩やか(当社比)ではあるが困難を乗り越えて来たわけで、この場も何とかなる手段が用意されているのではないだろうか。
「例えば、鑑定だとか分析みたいなスキルが出て来るかもしれないでしょう?」
「なるほどぉ、あ……出て来た」
「……あっ、こういう感じかぁ」
ヘルガはこれまでのエルザの反応を色々悟った。なるほど、急にスキルとか魔法が生えて来ると何か怖いしちょっと疎外感みたいなものを感じる。
「え~なになに? 簡易分析? 物の性質をそれなりに知ることができる……? それなりにねぇ……」
「大雑把でも食べられるかどうかだけでもわかればすごいよ。せっかくだからちょっと試してみて欲しいかな」
「……っていうか何か枠みたいなのが出てる! 何これ!!?」
「……あ、今かぁ。私のインベントリが似た感じかもしれない」
「へぇ~、こういう感じなんだぁ……」
「色々お互い様ね……、はい、切り替えてこー!」
「お、おう」
ヘルガは空中に指を走らせている。魔法の事前動作のようにも見えるが、実際はインベントリウィンドウから羊の魔物肉を取り出そうとしているだけである。他者からウィンドウは見えないらしい。便利ぃ。
ポンッと相も変わらず間抜けな音がすると、ヘルガの手の中に手ごろな塊に分割された羊肉(魔)が現れた。骨付きで良い感じに持ちやすい部位だ。
「じゃーん、ということで羊肉です」
「落ち着いてるね……ヘルガ」
「まぁさっきから使ってるからねぇ。はい、お願いしますエルザお姉さん」
「そっかぁ……よっし、任されて! えーとなになにぃ……?」
エルザは簡易分析を発動する。右目に魔法陣が重なったような疑似レンズが発生すると、肉の性質が文字で分かるようになる。ちなみに日本語です。
「えーと、ゲヴァルティヒシャーフの肉……可食……美味……高額……? さっきの羊はゲヴァルティヒシャーフって言うんだ……変な名前」
「可食ってことは食べられるってことね。それがわかっただけでも偉いけど、美味とか高額とかどこ情報なのかしら……?」
美味だとか高額だとか、言ってしまえば相対的な評価である。更に分かりやすく言えば、○○と比べてどうかという情報なわけで。
「うーん、考えられるとしたら、主観を元にしたクラウドみたいな総合データベースがあって、そこにアクセスして情報を引き出している可能性がひとつ。もうひとつは、神様みたいな存在が情報を提供してくれている可能性……何にせよ考えられる材料が無さ過ぎるなぁ……」
「まーた難しいこと考えちゃって! とりあえず食事の目途が立ったってことでいーじゃん? 今はそれで充分だと思うし、考え過ぎても余計にお腹が空いちゃうよ。あともっと私を褒めて良いよ!」
「うんうん、偉い偉い」
ヘルガはエルザを撫でながら〝高額〟という表現について考えていた。美味という情報はまぁ置いておくとして、高額というのは金銭に置き換えた時に出て来る表現だ。つまるところ人類かそれに準ずる何者かの文明の存在については期待できるのではないだろうか。無論滅んでいる可能性についても視野に入れておかなければならないとは思うが。
「とりあえず肉と言ったら焼肉でしょ! さぁバーベキューしよう!」
「素晴らしいアイディアですエルザお姉さん! ぜひお願いします!」
「……ちょっと、そのお姉さんってのやめてよ」
「え、自分で言い始めたんじゃない」
「いやあれはちょっとした言葉のアヤ的なあれだし……あと肉焼いてもらおうと思ったんだけど……バーベキューコンロ的なやつクラフトしてもらってさぁ」
「言い出しっぺのエルザお姉さん、バーベキューコンロって何でできてると思うの?」
「……えー? 鉄とかステンレスとか……? ……あ」
「まぁ半分正解? 火を起こす部分はレンガとかでも良いんでしょうけど、網の部分は金属でしょうね」
「そんなぁ……私のバーベキューがぁ……」
エルザはしおしおにしょぼくれた。アストレアがクチバシじゃなくて羽根の先を人差し指みたいにしてつつくくらいに気を遣う程。
「……もう、そんなにしょぼくれないで。バーベキューじゃなくても、木の串に刺して焚火で焼けば良いでしょう?」
「はっ! その手があったか!」
エルザ は しおしお が なおった!
「でもタレも塩も無いのよお姉さん」
「……け……けんこうてきぃ……」
エルザ は また しおしお に なって しまった!
「しょぼくれたエルザお姉さん、シャベル出して?」
「……へぇい」
黒い霧はしおしおと出て来ると、何かやる気のなさそうな感じで手のひらに収まるシャベルになった。ちなみに関東と関西とJIS規格で呼称や分類に違いがあるらしいので、関東の呼称でお願いしますね。はい、そうです、ちいさいやつです。関西の方やJIS至上主義の方は脳内で置き換えて下さい。お手数ですが何卒よろしくお願い申し上げます。
ヘルガはそれを受け取ると、地面をひと掘りした。焚火用に草をどけて土の面を作ろうとしたわけです。
「よいしょ」
ボコッと大袈裟な音がしたかと思うと、直方体状の穴が発生した。大体一辺が一メートルといったところか。そうです。〇インク〇フトのあれです。
「……あるぇ?」
ヘルガは目を細め、手元のシャベルと四角く穴のあいた地面を交互に見た。
書いてたら肉食いたくなってきました。
※09/08 5話を①~②に分割、若干加筆修正しました。




