第34話 処刑ステージと、死闘のハッキング
赤茶けた砂漠を抜け、さらに南へ進んだ境界線。行き倒れそうになっていた私とラクダが辿り着いたのは、切り立った岩肌の渓谷に打ち捨てられた、不自然な都市の残骸だった。
オアシスかと思って弾かれたように飛び込んだ瞬間、背後で重厚なシャッターが轟音を立てて落下した。
赤い警報ランプが回転し、『都市再構築ステージ開始』という無機質なホログラムが宙に浮かぶ。
そこは私を死なせない代わりに、死ぬほど苦しめるために用意されたサバイバルコンテンツの密室だった。
私は、タイピングで酷使して痛む手首のサポーターを、歯で噛みちぎりながら締め直した。
私の左腕にある黒い端末。
そこから伸びた被膜剥き出しの手製ケーブルは、管理室のローカルノードへと物理的に直挿しされている。
手元の機材は、道中の廃墟で拾い集めたジャンクのキーボードとモニターを繋ぎ合わせた即席のハッキングPCだ。
画面の向こう側では、端末の通信を傍受して吸い上げた、私を高みの見物で楽しむ富裕層たちの、反吐が出るような視聴者コメントが流れていた。
『カオルちゃん、次の防衛ファイアウォールで詰みじゃね?』
『さすがに今回はリタイアでしょ。女の子一人でこの暗号プロトコル突破は無理(課金:3000G)』
「安全なぬるま湯から、よく喋るわね……成金どもが」
サーバーの冷却システムが、砂漠の熱をよそに室内を強制的に冷やし続けていた。
汗だくで飛び込んだ私の体が、急激な温度差でガタガタと震える。
私は凍える風に指先を震わせながら、無骨なキーボードに指を叩きつけた。
絶望して、泣き叫んで、モルモットのようにシステムに潰されていくのが運営(奴ら)の望むシナリオ。
――だけど、私は絶対に諦めない。ただの泣き虫な遭難者で終わるつもりはない。
端末の裏から流れる膨大な暗号化データを、私の持つ知識でゴリゴリとクラッキングしていく。
私が最初の地下都市バベルで手に入れた、現地の権限。そしてジャミーラから盗み見たシステム構造の知識。
これを足がかりに、奴らの防壁をブチ抜いて、深層サーバーの裏口をこじ開けようとした――その時だった。
私の深層アクセスを、監視者の中央システムがついに検知した。
部屋の電気系統が一斉にショートして火花を散らし、画面が真っ赤に染まる。
『――不正なルート権限を感知。防衛セキュリティプログラムが強制起動。端末の物理的破壊プロセスに移行します』というシステムメッセージがポップアップした。
直後、左腕のバグから「ジジッ!」と焦げ臭い音と煙が噴き出した。
『警告。極大電圧の逆流を検知。内部温度が臨界点を突破。マスターの生体組織に重篤な損傷を与える可能性があります』
腕ごと焼き切断しようとするほどの熱が、容赦なく私の皮膚を焼く。
痛みに視界が白濁し、奥歯を噛み砕きそうになる。
だが、私の唇は、戦慄と激痛の中で確かに吊り上がっていた。
「持ちこたえなさい、バグ! 私の組んだプロトコルと、そっちの欠陥AI……どっちのパッチ適用速度が速いか、勝負よ!」
私は焼け焦げる左腕の激痛に耐えながら、右手だけで狂ったようにキーを叩き続けた。熱暴走で溶けかけるケーブルと、火花散るコンソール。
永遠にも思える数十秒の死闘の末――メインモニターが「Access Granted(承認)」の緑色に光り、廃墟のロックが重い音を立てて解除された。
私の勝ちだ。




