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箱庭のテラフォーミング【カオル編】流浪のエンジニアと、世界のバグ  作者: 大神みや
第3章 旧都マ・カレシュ・残酷なすれ違い編

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第29話 GECOと、箱庭の観測者

インフラが無事に安定稼働した余韻もそこそこに、私は執務室のメインコンソールに向き直り、ジャミーラを真っ直ぐに見据えた。


「約束通り、カイの情報を教えて。全部よ」


私の声に、ジャミーラは小さく頷いた。


「ええ。統治者には内緒だけど、私の権限で中央サーバーの深層にアクセスできるわ」


彼女がコンソールに複雑な認証コードを打ち込むと、空中にホログラムのウィンドウが展開された。


そこに浮かび上がったのは、巨大なシステムの管理者権限を示す四文字のアルファベットだった。


『 G E C O 』


そのロゴを見た瞬間、私の心臓が早鐘のように打ち始めた。


「……GECO? 嘘でしょ、なんで……」


「カオル? どうしたの」


「カイが昔、所属していた組織の名前よ。ただの環境保護団体だったはずなのに」


血の気が引いていくのが分かった。


ただの偶然? そんなわけがない。


私たちが元の世界から拉致された理由。


私がこの異世界でインフラの復旧をさせられている理由。


なぜ、よりによってカイのいた組織の名前が、この世界の統治システムの中枢に刻まれているのか。


(……カイは、知っていたの?)


いや、あの泥まみれで笑う農業バカが、こんな世界の黒幕なわけがない。


だとしたら、私たちは最初から「GECO」という存在に目をつけられ、明確な意図を持ってここに放り込まれたということだ。2年間抱え続けてきた「なぜ私たちが」という問いの答えが、得体の知れない巨大な悪意となって私を押し潰そうとしていた。


ジャミーラは、衝撃で固まっている私を見て何も言わず、黙ってコンソールの操作を続けた。


やがて、画面にはカイの現在地データが表示された。


「南の砂漠地帯に向かっているわ。……でも、おかしい」


ジャミーラが眉をひそめてコンソールを叩く。


「セキュリティが甘すぎる。まるで、私たちがここにアクセスして、この情報を引き出すことを『最初から待っていた』みたいに……」


その時だった。


画面の端に、見たこともない無数の文字列が滝のように流れ始めた。


『User_8892:キタキタ! ついにGECOのロゴ発見イベント!』

『User_1044:南の砂漠編への誘導完了だな。はやく次の絶望展開が見たい』

『User_2241:カオルがバベルでネビルに怒鳴り返した第7話の視聴率が過去最高だったやつ、覚えてる? あの時の顔も最高だったよなw』

『User_5501:ジャミーラも自分が駒だって気づいた顔してて草』


「……な、に、これ」


背筋を、今まで感じたことのないおぞましい悪寒が駆け上がっていく。


「視聴者……? コメント……? 私たちがやってきたインフラの仕事も、ネビルとのことも……すべて見られていたっていうの……?」


バベルでの命懸けの闘いも。


メルフドで泥にまみれ、アイシャたちと涙を流したあの日も。


このマ・カレシュで、ジャミーラと酒を飲み交わし、真剣にインフラの未来を語り合った夜も。


すべては、安全な場所から見下ろす何千万人という視聴者のためのドラマ。カイの『南の砂漠』という情報すら、私を次の舞台へ移動させるための、運営が用意したシナリオの一部だったのだ。


ジャミーラは画面を見つめたまま、凍りついたように立ち尽くしていた。


「私たちは、アクセスできたんじゃない。……アクセスさせられていたのね」


すべては仕組まれた箱庭の中。


私たちは圧倒的な恐怖と絶望の前に、声も出せず、ただ寄り添うように立ち尽くすことしかできなかった。

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