幕間:観測者と家族
砂埃を上げて走り去ったトラックを見送った、その日の夜。
メルフドの街。
先生の家の地下室では、冷たい青色の光を放つコンソール画面が密かに起動していた。
通信の向こう側にいるのは、彼らに指示を出していた上層部――「イザベル」と呼ばれる存在だった。
『どうして彼女を行かせたの? あなたたちのタスクは、カオルをその街に繋ぎ止めることだったはずよ』
感情の起伏が読めないイザベルの問いかけに対し、コンソールの前に立つ先生とママは、静かに並んで顔を見合わせた。
恐れる様子もなく、先生が穏やかな声で答える。
「カオルは、私たちの大事な娘です」
「ええ。娘が、自分の好きな人のところへ行きたいと言ったら……親として、それを止めることなんてできませんよ」
ママも微笑みながら、画面に向かってはっきりと告げた。
システムへの明確な反逆。
しかし、スピーカーから返ってきたのは、拍子抜けするほど軽い声だった。
『……まぁ、いいわ。思い通りにはならなかったけれど、結果的に物語が面白くなるなら、私はそれでいいの』
イザベルのその言葉を最後に、通信はふつりと途切れた。
青い光が消え、再び静寂が戻った地下室で、二人は肩の力を抜いた。
彼らは与えられた役割を放棄したが、その顔に後悔は微塵もなかった。
「いつかまた……カオルが彼を連れて、ここに遊びに来てくれたらいいな」
「ええ、本当に。その時はきっと、アイシャも大喜びするわね」
ふふ、と二人は静かに笑い合った。
頭上の天井の向こうからは、今日も一日泥まみれになって遊んだアイシャの、穏やかな寝息が微かに聞こえていた。




