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【番外編 reverse 7 ポイント交換で昔の街】

 翌朝、一同は国道五十号線をひたすら東へ向かっていた。


「おい、アプリのオッサン! ほんまに昨日の渡良瀬橋のお詫びに、牡蠣が食い放題なんやろな!? うちら大阪人に『食い放題』なんて言うたら、悪いけど牡蠣が絶滅するまで食い尽くしたるからな! それでもええんやな!?」


「心配するな。那珂湊のカキ小屋飯岡屋水産は本当に食い放題だ。好きなだけ食え!」


 一同が、五十号線を疾走していた。


   *


 茨城県桜川市付近で、先頭を走っていたくま子が急ブレーキをかけた。


 セイコーマートがあった。


「えっ? なんでこぎゃん所にセイコーマートのあっと!? うちたち……いつの間にか北海道にワープしたっ!?」


 トラ子もユッタもセイラも、目がランランと輝いていた。

 本田も、目をランランとさせていた。


 ミルミルが冷静に教えた。


「茨城県と千葉県には少ないけどセイコーマートがあるのよ。中の商品も北海道と同じものが売ってるのよ」


 少年少女が、店内へ飛び込んだ。


「やったー! この安いパスタも売ってた! 買い占めたい!」


「本田さん! またナポリタンばかり買わないで! またオーソドックス病が出てますよ!」


 その頃、トラ子がレジ前にある申込用紙を見つけていた。


「おい、アプリのオッサン! こ、こ、このセコマカードって、うちらでも作れるん!? セコマカード持っとる大阪人なんて、うちらが初っちゃん!? いや、絶対うちらが第一号にならなあかんわ! セコマカードはライダーの証やもんなぁ!」


「あ! 私も作りたい! きっと角島で私が第一号だよね!」


 レジの店員さんが、にこやかにトラ子とセイラとユッタへ申込用紙を渡してくれた。

 三人の少女は、店員さんからカードの説明を受けてポイント交換のカタログも貰った。

 目をランランとしながらカタログを眺めていた。


   *


 アプリと本田とミルミルとくま子は早々に買い物を済ませて外で缶コーヒーを飲んでいた。

 北海道でいやというほどセイコーマートで買い物をしていた四人には、もう新鮮味はなかった。


 ようやく出てきたトラ子達が、四人にビタミンカステーラを手渡してきた。


「これ、お裾分けや。さあ、食べてええよ」


 四人が、モゴモゴと食べた。


 食べ終わると、今度はユッタがビタミンカステーラを差し出してきた。


「私からもどうぞ!」


 四人が、またモゴモゴと食べた。


 食べ終わると、今度はセイラがビタミンカステーラを持ってきた。


 アプリが、セイラに尋ねた。


「おい! 何故三人連続でビタミンカステーラを出してきた?」


 セイラが、少しだけ恥ずかしそうに呟いた。


「あの……それは……ポイントが……」


「ポイント?」


「はい……ビタミンカステーラが今ならポイント五十pなんです……。ビタミンカステーラは百円なので五十p貰えるのは凄くコスパがいいんです……」


「あぁ! なるほどね! そいぎゃんこつなら、ありがたくビタミンカステーラば頂くよ! 三つくらいなら皆も無理なく食べらるっけん! ありがとうっ!」


 四人がセイラの説明を聞いて納得した。

 三つ目のビタミンカステーラを受け取った。


 それを見たトラ子とユッタが、さらに二本ずつ四人に手渡そうとした。


 くま子が、止めた。


「ちょっと待って! ビタミンカステーラ五個はどぎゃん見ても多すぎったい! 今から牡蠣の食べ放題に行くというとに、こいじゃビタミンカステーラでお腹いっぱいになってしまうよ! トラ子ちゃんたちは、一体何個ビタミンカステーラば買うたとね!?」


「「「二十個!」」」


 沈黙が降りた。


「一人で二十個も買うてどぎゃんすっとね! そぎゃんしてポイントば集めて、一体何と交換しようとしとるとね!?」


 トラ子がニコッと笑って、セコマカードのカタログを見せた。


「これ見てーや! セコマカードのカタログ、キャンプ用品もよぉさん載ってんで。ほら見て、このランタン! めっちゃ可愛いやろ? これがな、七千五百pもすんねん! 皆、ビタミンカステーラの消費に協力してや! 店のオバチャン、在庫まだまだある言うてるからさ! もっとビタミンカステーラ食うて! 食うてぇな!!」


 四人が、唖然とした。


 ビタミンカステーラが百円で五十p。

 七千五百pに到達するには、百五十個のビタミンカステーラが必要だという計算が、全員の頭の中で静かに弾き出された。


 アプリがランタンのページを見た。

 ミルミルが天を仰いだ。

 くま子が深いため息をついた。


 本田は店内に戻り、ビタミンカステーラを大量に購入していた。


 アプリは那珂湊を諦めた。

 ミルミルもくま子も牡蠣食べ放題を諦めた。


   *


 たっぷりビタミンカステーラを食べた少年少女が、ようやく我に返った。


「ヤバい! もう牡蠣なんて食われへん! どないしよ……。もう那珂湊は諦めて、この辺で泊まろうやぁ……」


「桜川市にはキャンプ場があるから、そこへ行くか?」


「そやったら、那珂湊ツーリング台無しにしたウチが責任取って先頭走ったるわ! 皆、ウチに着いてきな!」


 トラ子が、スマホのナビにキャンプ場と入力した。


 走り出した。


 少し走ったところで、トラ子の挙動がおかしくなった。


「あれ? おかしいなぁ。こっち旧道なんかな? ナビがバグっとんのか? まぁ、ええわ! このまま進んでみたろ!」


 国道五十号線から、大きく外れていった。


   *


 やがて、一同は不思議な街へと迷い込んだ。


 茨城県桜川市真壁町だった。


 原付のエンジン音が、場違いに聞こえた。


 道の両側に、黒ずんだ板壁の蔵が整然と並んでいた。

 重厚な瓦屋根を戴く商家が続いた。

 江戸、明治、大正、昭和が、重なり合うように息づいていた。


 丸ポスト。

 洋品店。

 文具店。

 肉屋の古い看板。


 シャッターが下りた店の格子戸の意匠が、夕暮れの光の中に浮かんでいた。


 コンビニがなかった。

 チェーン店がなかった。


 街灯が一つ、また一つと灯り始めた。

 古い洋風建築の旧銀行跡が、オレンジ色の光に照らされた。

 小さな祠が、街角に静かに立っていた。


 七台の原付が、ゆっくりと走り抜けた。


「ここは旅館とは書かれているが、当時の旅籠だな」


 アプリが、一件の宿屋の前でバイクを止めた。


   *


 伊勢屋旅館だった。


 二階建ての木造建築。

 外壁は長い年月に晒されて、深く底知れない褐色へと変色していた。

 一階を囲む細く繊細な格子戸。

 軒下を支える腕木と、美しく反り返った瓦屋根。

 屋根の端々に据えられた鬼瓦が、古色蒼然とした眼光で街を見下ろしていた。


 磨りガラスの向こうに、琥珀色の明かりが灯っていた。


「国登録有形文化財? ここって昔は旅館だったんですね! めちゃくちゃ古い建物ですよね。なんか幕末を思い出しますね」


 くま子とセイラが撮影を始めていると、中から女将さんが出てきた。


「お泊まりですか?」


「えっ!? ここ、泊まらるっとですか!? こぎゃん所、文化財じゃなかですか!?」


「もちろん! ここは旅籠ですから!」


「ウチ、ここ泊まりたい! ……けど、文化財やったら、えげつないほど高いんちゃうん!?」


「素泊まりなら四千円で結構ですよ」


 女将さんが、笑顔で答えた。


 一同が、即断した。


   *


 アプリと本田だけは、幕末で旅籠に泊まった経験があった。

 懐かしかった。


 くま子もミルミルもトラ子もユッタもセイラは、生まれて初めて泊まる旅籠に興奮しきりで、宿の中を探検し始めた。


 女将さんが、旅人たちの世話を懸命に焼いてくれた。

 観光客が滅多に来ない街に、原付が七台やってきたことを、女将さんはとても喜んでいるようだった。


「旅籠というものはね、旅人が来てくれてこそなんですよ」


 女将さんが言った。


 真壁町の夜は、深くて静かだった。


 外には誰もいなかった。

 原付の七台が、黒ずんだ板壁の前に並んでいた。

 旅籠の琥珀色の明かりが、アスファルトに柔らかく落ちていた。


 街灯の光の中で、丸ポストが一本だけ立っていた。


 幕末でもなく、昭和でもなく、現代でもない。

 真壁町の夜は、時間の外側にあった。


 七人が、夜更けまでその静けさの中にいた。






(あとがき)

ビタミンカステーラは、北海道のお菓子です。 そして気づいた方もいるかもしれませんが、この物語の登場人物たちは、ビタミンカステーラを「食べ物」ではなく「ポイント発生装置」として扱っています。

百円で五十ポイント。 冷静に考えると、これはもうカステーラではありません。金融商品です。 しかも恐ろしいことに、これを百五十個食べるとランタンになります。 つまり――カステーラは、光になるのです。

そう考えると、なんだか少しだけロマンがあります。 ……ありませんね。普通に考えて、胃が先に限界を迎えます。

おそらくこの日、セイコーマート本部も「セコマカードを関西人に発行してはいけない」と、その恐ろしさを再認識したに違いありません。

なお、作者は実際にビタミンカステーラを食べたことがありますが、三個くらいで満足しました。二十個は、やりすぎです。



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