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【番外編 reverse 8 また逢う日まで】

 早朝、一同は伊勢屋旅館の女将さんからおにぎりを受け取った。


 まだ暗い桜川市を、旅立った。


   *


 国道を走り始めたところで、ミルミルが立ち止まった。


「それじゃ、皆も気をつけてね!」


「ミルミルさんも、気ばつけとかなんよ! 冬休みも、どっかでお会いしたかね。絶対、どっかで会おうね!」


 ジャイロXが、高崎市へ向かって走り去った。


 六台が、南へ向かって走り出した。


   *


 守谷で利根川を渡った。

 千葉県に入った。

 国道六号、水戸街道に乗った。


 見慣れた看板が増えてきた。


 東京ディズニーランドに着いたのは、開園前だった。


「茨城からディズニーランドって、わっぜ近かとねー! びっくりしたばい。うち、茨城って北関東のいっちょん端っこの、どぎゃんもこぎゃんもならん遠かとこにあるて思っとったもん。ばってん、結局のとこ……北関東て言うたっちゃ、群馬だけが異常に田舎なだけだったんだね。茨城は都会だったつね。群馬の人には、ちょっと言えんごたる話ばってん……」


「いかに水戸黄門が江戸城から近い所にいたのかが自分で走るとわかるだろ?」


「ほんなこて、こぎゃん近くに天下の副将軍様が住んどらしたっちゃら……。犬公方様も暴れん坊将軍様も、好き勝手なこつぁできんかったろねぇ。江戸でな~んか起こったっちゃら、あくる日には黄門様にまるっとバレとったってことだもんね。茨城の情報網は、おそろしかねぇ……」


「え? 水戸黄門って本当にいたの?」


「本田くん……あんた、歴史のことなーんも知らんとだねぇ。そぎゃんこつで、ほんなこて幕末ば見てきたつね? 土佐藩だって、バリバリの徳川家の領土だったんだよ? 幕末を語るっちゃら、そぎゃん大事なこつば、忘すれとっちゃいかんよ……」


「え? そうなの?」


「意外とくま子が一緒にタイムスリップをしていたら、歴史に詳しすぎて身動きが取れなくなっていたかもな」


 三人が笑った。


 トラ子が、不思議そうに割り込んできた。


「堪忍な! うちら水戸黄門とかマジで一ミリも知らんわ! 昔、ばあちゃん家でなんか流れてた気ぃするけど、どれが黄門様でどれが暴れん坊なんか、見分けつかんし、ぶっちゃけどうでもええねん! せっかく夢の国おんのに、江戸時代の話とかサーバーの無駄遣いやで? そんな化石みたいな話せんと、早よあのアトラクション並ぼうや! 行くで!」


   *


 一同は、ある程度アトラクションを楽しんだ後、カフェ・オーリンズでコーヒーを飲んでいた。


「散水パレードが始まるみたいだよ? トラ子達は行かないの?」


「散水? 濡れるんやろ? 興味ないわ、うちはパス! 言うとくけどな、うちはディズニー映画なんか一本も見たことないねん。せやから、さっきからあっちこっちにおる着ぐるみ見ても、キャラの名前なんか一ミリも分かってへんかったわ!」


「「激しく同意!」」


「……実はね、うちもただ、『可愛かー!』って言っとけば女子力の高う見ゆるかなーて思って、いっちょん知らん着ぐるみば見てキャーキャー言いよっただけなんだよねぇ。うちもトラ子ちゃんと同じで、ディズニー映画も見たこつなか! アニメは……『紅の豚』しか見たこつなかばい!」


「な〜んだ。皆もそうなんだね! 実は僕もディズニーには全く興味無いんだよ! どうせならディズニーランドじゃなくて原付ランドがあればそっちに行きたいよね!」


 全員が、笑った。


 なぜか笑えた。


 着ぐるみの名前を一人も知らない六人が、「原付ランド」という言葉には全員が食いついた。

 それが、この六人の全てだった。


   *


 コーヒーが空になった。


「うちは、ほら! あの口の周りに泡ぁ付く、なんちゃらビールってやつ飲んでみたいわ〜! おい本田! うちら、その『泡のつくビール』三つ頼んどいてや! ヒゲ付けて自撮りすんねん!」


 本田がオーダーを告げに行った。


「本田さんに買い物頼んで大丈夫かな? ほら? 前にのり弁八個も買ってきたよね?」


「さすがにディズニーランドに『普通オーソドックス』なもんとか置いてへんやろ! 全部キラキラした名前付いとんねん。フツーのが無かったら、あいつも変な注文できへんから安心しとき!」


 本田が戻ってきた。


「トラ子が頼んだハリーポッターの泡のビールはここにはなかったよ。だから泡のビールでは無いけど普通のコーラを買ってきた! あとクレープ!」


 ハリーポッターのバタービールではなく、ごく普通のコーラだった。


「まあまあ、ハリー・ポッターのビール無いんならしゃあないな。コーラやったらまだマシか。ありがとな、本田。アンタも、たまには『まともな買い物』できるんやんか!」


 一同がクレープを食べ始めた。


「ん? このクレープ……」


「あれ? 私のクレープの中身が入れ忘れられてる……」


「……ん? うちのクレープの中身も、なーんも入っとらんばい? これって、お店の人のミスしたっちゃろか…… せっかく『可愛かー!』って言いながら食べようと思っとったとに、生地ばっかりで、わっぜ寂しかごたる……」


 本田がとびきりの笑顔で答えた。


「あ、クレープって皮が主役だからね! 中身はあえてホイップクリームオンリーにして貰ったよ! これなら、皮の美味さがよくわかるでしょ?」


「ヒッ!」


 ユッタが、のり弁八個のフラッシュバックで悲鳴を上げた。


 一同が、本田スペシャルの皮だけクレープをもごもごと食べた。


 一同は心の中で誓った。


 もう二度と本田にお遣いはさせない、と。


   *


 散水パレードが終わった頃、本田が呟いた。


「ここがもし、本当に原付ランドだったとしたら、ミッキーマウスじゃなくてカッブーマウスだったのかな? ドナルドダックじゃなくてディオルドダック」


「残念ながら、ディオがアヒルだとバランスが悪い。HONDAには既にダックと言う原付がある。だから、ドナルドダックはそのままドナルドダックでも良い」


「おい! オッサン! せっかく『ディオルドダック』襲名したったんに、それ邪魔すんなや! アヒルがディオ跨いで爆走してんねんで? 夢の国の新しいヒーロー誕生やんけ!」


「え〜! それならジョグだってペリカンって呼ばれてるんだよ〜! だったらジョグルドダックでも良いんじゃない?」


「残念ながら、ユッタのジョグはペリカンジョグではないがな。4stジョグとペリカンジョグを一緒にすると、往年のジョグ乗りが激怒するぞ?それにカブが何故ミッキーなのかも俺には理解できん!」


「だってミッキーは主役ですからね。ミニーはリトルカブだからリニーですよ!」


「カブが主役というのは誰が決めた? 俺は原付の主役はNSR50だと思うぞ? だからNチビマウスだな。ミニーはNS1ニーだ!」


「「めちゃくちゃ語呂悪い!」」


「Nチビマウス? NS1ニー?……こんなもん子供泣くわ! NSを無理やりねじ込むんも大概にしときや、オッサン!」


「……ふふん! それなら、うちの『くまモンモンキー』なら最初からキャラ仕様だし、原付ランドの主役にふさわしかー! そのまま『くまモンマウス』でよかじゃなか!? 語呂も完璧ばい!」


「くまモン? そんなもんディズニーランドに持ち込むなや! そんなん言い出したら、うちの『阪神スペシャル』のディオやって、バリバリのキャラ仕様・虎模様やんけ! 『トラッキーマウス』として、主役はれる存在やで! なんならな、今後、阪神が優勝するたびに『原付ランド』で優勝パレードさせたってもええわ!」


 原付ランドの討論が、夢の国のカフェで繰り広げられていた。


 そこへ、セイラが恐る恐る尋ねた。


「あの〜。ところで原付の主役ってどうやって決めるんですか?」


「加速だろ!」


「売上台数かな?」


「見た目や!」


「バリエーション豊富な所かな?」


「可愛さ!」


 全員の答えが、完全に違った。


「それじゃ一生、原付ランドなんて出来ませんよ〜! もはや、この五人で主役の認識がバラバラなんだもん!」


 一同が、セイラと共に笑った。


 そうだった。


 全員の答えがバラバラなのに、それでも全員が原付の話をしている時だけは、誰よりも楽しそうだった。


 ミッキーマウスの名前を知らなくても、原付の型式番号なら全員が暗記している。

 シンデレラ城より、鈴菌さんの笠寺の大砲の方が話が盛り上がる。

 バタービールより、セイコーマートのビタミンカステーラの方が大事だった。


 この六人にとって、ディズニーランドは観光地だ。

 でも、原付ランドは既にある。


 国道も、峠も、フェリーも、旅籠も、キャンプ場も。

 全部が、この六人の原付ランドだった。


 全ての道が主役で、全ての原付が主役で、全ての仲間が主役だった。


   *


 十七時。


 フェリーの時刻が迫ってきた。


「乗船手続きに間に合うよう、余裕を持って離脱するぞ」


 六台が、ディズニーランドの駐車場を出た。


 有明のフェリーターミナルに着いた。


「あ〜あ! これに乗っちゃえば、もう九州に着いちゃうんだねぇ……。我ながら、わっぜ楽しか夏休みだったばい! 谷中湖の約束ば守ってくれて、ほんとにありがとうね!」


「次は冬休みだね! 何処へ行こうか!」


「え? 冬休みも一緒に旅ばしてくれると……? ……それなら、冬の北海道がよか! 真っ白か雪ばいっぺん見てみたかとですよ。わっぜ楽しみばい!」


「年越しツーリングってのがここ数年流行ってるな」


「はぁ〜? オッサンは冬休みも着いてくる気なのと……? どこまで邪魔ばする気ね! ……まぁ、こぎゃんマスツーリングも楽しかっだったけん……別に、よかけどさ」


「くま子! 冬休みはうちらも着いていくからな! いや、春休みも次の夏休みも、絶対に着いてったるわ! ……うちら、もう『旅仲間』やろ? 逃げられると思んなよ! 虎柄のディオが壊れるまで、一生アンタの横で爆走したるから覚悟しときや!」


「ま、しゃんかなかねぇ〜」


   *


 十九時。


 フェリーが、東京港を出た。


 東京の夜景が、波の向こうに小さくなっていった。


 船が、南へ向かって進んでいった。


 谷中湖のハートのモニュメントに、愛鍵が一つ揺れていた。


 この夏休みが終わっても、あの鍵は揺れ続ける。


 フェリーは、ひたすらに南下した。


 波の音だけが、夜の海に続いていた。


 くま子の夏休みは、こうして幕を閉じた。












今回、日間4位の御礼として『くま子の夏休み』を書かせていただきました。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

この番外編では、彼らのひと夏の旅を描きました。

笑ったり、遠回りしたり、どうでもいいことで揉めたりしながら、

それでも確かに前へ進んでいく時間です。

作中には、ささやかな出来事や何気ない会話がいくつもありますが、

それらがどこへ繋がっていくのかは、また別の物語で触れることになるかもしれません。

彼らの旅は、まだ終わっていません。

道が続く限り、きっとどこまでも走っていきます。

またどこかで、その続きをお届けできたら嬉しいです。

それでは——

また逢う日まで。

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