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【番外編 reverse 4 夏の燕】

元ネタは、

kasadera転生の【k-05 春の燕】を読むと

スッキリします。

 アハロの前に立った本田が、目を丸くした。


「アプリさん! この大砲! こんなの開店直後は無かったですよね! カッコイイ!」


 ゴールデンウィークにもアハロに来ていたトラ子も驚いていた。


「うちらもGWに来た時は、こぎゃん大砲なんてなかってんで! マジでこれカッコええやん! めっちゃリアルやんけ! うちらがわざわざ来たんやし、ド派手にドーンと一発打ち上げてくれへんかな?」


 くま子がアハロの佇まいを見渡して呟いた。


「ここがモト子さんの店なっとね〜。ここば、なこつ本田くんたちで作らしたと? がばい凄かバイ! めっちゃ凄かやん!」


   *


 六人が、店内へ入った。


 花が厨房から本田を見つけて声をかけた。


「本田くん! 財布届いたよ! ありがとう!」


「本当に良かったですね!」


「うん! 本当に良かった!」


 モト子が促して全員が席に座った。


「皆、日替わりで良いわよね?」


「任せる」


 アプリが代表で答えた。


「モト子さん! 外の大砲はどうしたんですか?」


「決まってるでしょ? 鈴菌よ!」


 鈴菌の仕業だと聞いて、アプリと本田は納得した。

 深く追及しなかった。


「鈴菌さんの家は浜松だから近いですもんね……」


   *


 日替わりディナーを食べた後、クレアおばさんが客室へ案内してくれた。

 女子たちは屋根裏の女子エリアへと消えていった。


 閉店後、モト子が本田とアプリとくま子をカフェへ招いてラテを振る舞ってくれた。


「ちょっとだけ、聞いて欲しいことがあるのよ……」


「なねーっ! モト子さん! 結婚なはっとね!? 相手はどぎゃん人ね? やっとモト子さんもお嫁じょになんなっとね! よかった、よかったバイ!」


 厨房の花が凍りついた。

 モト子が血の涙を流しながら答えた。


「ん? 結婚? 私がそんなに焦ってるように見えるのかしら!!」


「な、なっで血の涙ば流しよらすと!? ど、どぎゃんしたとね!? モト子さん! もしかして、結婚じゃなかってなっとね!?」


「結婚はまだしません!」


 モト子が冷静になって続けた。


「そんな事よりも見せたいものがあるのよ。実はゴールデンウィーク中に鈴菌に店内改装をお願いしてたんだけど……」


   *


 モト子が三人を地下室へ案内した。


「え? 地下室なんてあったんですね」


「それだけじゃないのよ……」


 地下室の床に、鋼鉄の扉があった。

 モト子が扉を開けた。


「え? 更に地下室が?」


 梯子を降りた先に、一〇〇式司令部偵察機が鎮座していた。


「「え〜〜〜!!!」」


 本田とくま子の声が、地下に響いた。

 アプリすら、固まっていた。


「鈴菌がこれを発掘しちゃったのよ……」


「鈴菌さんなら有り得るから怖いです!」


「奴に監視も付けずに改装を頼むなんてこうなることくらい予測できるだろ!」


「そうですよ! 鈴菌さんは幕末でも才谷屋のトイレをバイオトイレに作り替えた男ですよ!」


「え? な、なんね? なんね? 鈴菌さんってそぎゃんヤバか人だったと!? 私はミーハーな人と仲の悪かてことくらいしか知らんかったバイ。幕末にバイオトイレて、初めて聞いたばってん、がばい面白そうやん! 聞きたか! 聞きたかバイ!」


「そもそも、俺たちがタイムスリップしたのも、俺は奴のせいだと思ってる」


「はい……実は僕もそう思ってました! あのバイク神社に僕らを連れていったのも鈴菌さんでした!」


「バイク神社? なんねそい? ぎゃん神社のあると!? がばい行ってみたかー! あ! もしかして、浜松までワープしたっちゃ言よった大歳神社のことね?」


「そうです。その大歳神社に僕らを案内したのが鈴菌さんです!」


 くま子が、飛行機のプロペラをそっと触った。


「モト子さん! もしかして、これ動くとね!? エンジンどんのピッカピカばってん……オイルの匂いの、なこつ(本当に)さらのごたっバイ!」


「「は?」」


 モト子が本当に困った顔をした。


「完璧に飛ぶわよ。鈴菌が完璧に整備しちゃったのよ……。まあ、これを取り出そうにもアハロを取り壊さなきゃ取り出せないから、この戦闘機は完全封印するしか無いんだけどね……」


「もったんなかばってん、しょんなかよね……。このままここに置いとけば?」


「なるほどな。店前の高射砲もここに埋蔵してたって事か……」


「そうなのよ。高射砲とか砲弾とかも埋蔵してたんだけど、さすがに砲弾は鈴菌が解体してくれたわ」


 一同が、偵察機を眺めながら鈴菌という男のポテンシャルを改めて噛み締めた。


「実は……近々、アハロの屋上も鈴菌がリフォームする予定なの……」


「「え!?」」


「さすがに屋上ではこんな隠し財産なんて発掘できないだろ? そこは信用してやれ」


「うん……そうよね? 屋上なんて何も出来ないわよね?」


 かつては高射砲の街だった笠寺の夜が、静かに更けていった。


   *


 翌朝。


 六人がカフェでコーヒーを飲んでいると、ガレージに見慣れたジャイロXが入ってきた。


「ミルミルさん! 久しぶりバイ! がばい会いたかったよ〜。ミルミルさんはアハロの常連なっとね! 群馬からいっどんジャイロどんの来とらすと!?」


「くま子ちゃん! 久しぶりね。私は野球のある日だけしか来てないのよ〜。野球を見に来るだけだから新幹線で来ることが多いわね」


「そぎゃんね。新幹線ね。そいばってん、旅ば続けとらすとはがばい凄かバイ! 私なー、夏休みん旅のやっとたい!」


 ミルミルとくま子がキャノンボール以来の再会を喜び合った。


   *


 昼過ぎ、ミルミルと本田とアプリとくま子とトラ子はバンテリンドームへ向かった。

 ユッタとセイラは大須商店街へ出かけた。

 アハロが、ようやく静かになった。


   *


 バンテリンドームに着くと、ミルミルが案内してくれた。


 試合前のグラウンドでは、ドアラとつばみちゃんがパフォーマンスを始めていた。


 オープニングセレモニーが始まった。

 スタメンが発表された。

 つばみちゃんが、ビジターファンに向かって手を振った。


 始球式が終わる頃、ふと気づくとミルミルがいなかった。


「あれ? ミルミルさんがいませんね……」


「ま、こんだけ混んどっと、はぐれてもしょんなかよ。指定席なっとだけん、試合の始まれば席に戻らすでしょ?」


 しかし、ミルミルは試合が始まっても指定席に戻ってこなかった。


 一回が終わった。

 二回が終わった。

 三回が終わった。


 四回の表がツーアウトになる頃、汗だくのミルミルが席に戻ってきた。


「はぁはぁはぁ……えぇ……そうね……試合……はぁはぁ……試合始まってるわね……はぁはぁ……」


「ミルミルさん! どがんこ行っとらしたと!? もう試合の始まっとるバイ!」


「はぁはぁはぁ……ごめんね……もう大丈夫だから……さあ、ヤクルトを応援しましょう!」


「そぎゃん息ば切らして、もう! 走ってきらしたと?」


 ミルミルは、かすかに笑った。


   *


 グラウンド整備の時間になった。


 ドアラとつばみちゃんが、グラウンドで愉快なパフォーマンスを繰り広げた。


「ドアラはやっぱり面白いですね!」


「そうだな。ホークスも日ハムもマスコットキャラクターはまだセ・リーグに比べて弱いからな」


「ウチのトラッキーも最高やで! 次は甲子園をウチが案内したるから、日本シリーズの時は甲子園まで原付で来いや! どうせ今年も日本シリーズは、阪神とホークスに決まっとんねんからさ!」


 六回の表がツーアウトになる頃、また汗だくのミルミルが戻ってきた。


 さっきよりも、汗の量が多かった。


「はぁはぁはぁはぁ……あら、もうツーアウトなのね……はぁはぁはぁはぁ」


「ミルミルさん!? さっきよりもあせみどろじゃなかね! 大丈夫ね?」


「くま子ちゃん、ごめんね。また、すぐに行かなくちゃ! はぁはぁはぁはぁ……」


 ミルミルが、またどこかへ消えた。


「ミルミルさんが何かおかしくないですか? ほとんど試合を見てませんよ?」


「確かにおかしいな……今日みたいなシーソーゲームは見ていても一番面白いはずなんだがな……」


「さっきから戻ってくったんびに、あせみどろなっとバイ。どこんか具合の悪かとじゃなかろか?」


   *


 七回の攻撃前、東京音頭が流れ始めた。


 グラウンドでつばみちゃんがビニール傘を振って踊り始めた。


 本田とくま子も傘を掲げた。


 その時、本田がグラウンドのつばみちゃんと目が合った気がした。


「あ! 今、つばみちゃんと目が合った!」


「ハハハ! 着ぐるみと目の合うわけなかじゃん! 気のせいバイ、気のせい! 中ん人の観客席ば見とる余裕のなかっかとバイ!」


「いや、くま子、ウチも今、目が合ったわ! 間違いあらへん! つばみちゃんはこっち見とんねん! ガチや!」


「気のせい、気のせい! どがん見たっちゃ視線なん覚らんバイ!」


 東京音頭が終わった。


 すぐに、ミルミルが指定席に戻ってきた。


 さっきよりも、さらに汗が多かった。


 フラフラだった。


「あら? ミルミルさん、またあせみどろなっと……!? ……あ、……」


 くま子が、ミルミルの足元を見た。


 ミルミルの足が、真っ黄色の鳥の足のようなフォルムになっていた。


 つばみちゃんの足だった。


 くま子は、見なかった事にした。


 アプリも、気づいた。

 アプリも、見なかった事にした。


 二人が視線だけで「見なかった事にしよう」と頷き合った。


 トラ子もミルミルの足元に気づいた。


「お、お、オバサ……」


 アプリが、トラ子の口を塞いだ。


 本田も気づいた。


「うわっ! ミ、ミ、ミ……」


 くま子が、本田の口を塞いだ。


 ミルミルは、足元がつばみちゃんのままヤクルト戦を観戦していた。


 一同は、見なかった事にした。


   *


 九回の表がツーアウトになる頃、ミルミルはまたどこかへ消えた。


「エンディングですもんね……」


「つばみちゃんの『中ん人』な、ミルミルさんだったつね……。だっけん、バンテリンドームの試合の時は毎試合、名古屋に来とらしたつね……」


 試合はヤクルトの勝利だった。


 ヒーローインタビューが始まると、グラウンドでつばみちゃんのパフォーマンスが始まった。


「ミルミルは昼間はヤクルトレディをして、夜はつばみの中の人をやってるとは……。伊達にキャノンボールを完走した訳ではなかったという事だな」


「あ、今、つばみちゃんと目の合った! 中ん人のミルミルさんてわかっと、目の合うとなんか気まずかね……」


 その時、本田が振り向いた。


「皆、あそこにいるのは間違いなくつばみちゃんだよ! 中の人なんて居ないんだ! つばみちゃんはつばみちゃんだろ?」


「せやな、本田! たまにはええこと言うやんけ! その通りや! あそこにおんのは『つばみちゃん』や。中の人なんておらん、つばみちゃんいう名前のツバメの女の子やねん!」


「うん! そぎゃんね! 私、つばみちゃんのグッズば買うてくっけんね!」


「ウチも欲しいわ! アプリのオッサン、金貸してーな! ウチもつばみちゃんのグッズ欲しなったわ!」


 アプリが、トラ子に一万円札を渡した。

 トラ子とくま子がグッズ売り場へ走っていった。


   *


 アハロへ戻った。


 ヤクルトのバンテリンドーム三連戦の間、ミルミルは毎晩アハロへ帰ってきた。

 毎晩、汗だくだった。

 毎晩、足がつばみちゃんだった。


 本田も、アプリも、くま子も、トラ子も、一度として気づかないふりをした。


 夏の夜のカフェで、みんなが笑いながらワイワイと語り合った。


 笠寺観音の鐘が鳴った。


 つばみちゃんが飛ぶ夏は、まだ終わらない。



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