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【reverse 100 本当の答え合わせ】

kasadera転生にてこの回の後日談を書きました。

『k-06 誰も走れない道』参照。

 澤餅茶屋へ来た。


「ここは建物こそはすっかり変わってますけど、この道も店も当時のままですね!」


「土佐東街道もこの百六十年でかなり走りやすくなったな」


 二台を店先に停めた。

 店内に入ると、店主が二人を見て声をかけてきた。


「あの〜失礼ですが、他にお連れの方はいらっしゃいませんか? 確か……浜松ナンバーの方と青森ナンバーでしたっけ?」


「あぁ! 前に来た時のことを覚えてくれてたんですね! 他の二人は今日は来てないんですよ! 今日は僕らだけなんで1パックで良いですよ」


「え? 以前にもいらした事があるんですか? それは失礼しました! その時は全く気づきませんでした! 本当に申し訳ございません!」


 店主が、慌てて頭を下げた。


「え? 前に来た時の事を覚えててくれたんじゃないのに、どうして僕らの仲間のことを知っていたんですか?」


 会話が噛み合わなかった。

 店主が、二人を事務所へ案内した。

 お茶と手結の餅が出てきた。

 「こちらで少しだけお待ちください」と言って、どこかへ行ってしまった。


「なんか変な人でしたね。でも、手結の餅を出してくれたんで良かったですね」


「文久二年の頃よりも砂糖の質が良くなってるな」


「はい! でも、やっぱり文久の方がなんか美味かったような気がしますね」


 店主が、包みを持って戻ってきた。


「お待たせしました。実はこれからとても不思議な話をするので、信じて貰えるのかわかりませんが、聞いてください」


 包みを、二人の前に丁寧に置いた。


「実は先代から不思議な事を言われてまして……『鹿児島、福岡、浜松、青森の二輪車に乗った人物がここに来た時にこの包みを渡せ』と。そうしたら、今日、福岡と鹿児島の二台を見て私から声をかけさせていただいた次第です」


「まさか、この展開って……アプリさん!」


「平七パターンと同じだな……」


「先代もまたその先代から、これを託されたようで、先代のその先代もこの包みをいつかは受け継がれたのかを知らないそうです。ただ、これを預けたのは浪人者の林冠という人物だったそうです。この人物に心当たりはありますか?」


 本田とアプリが、顔を見合わせた。

 二人の顔に、笑みがこぼれた。


「はい! 知ってます。林冠さんは僕らの仲間です!」


「え? 仲間? でも、先代の先代から受け継がれた包ですよ?」


「まあ、分かりやすくいえば、俺たちもその末裔だと思ってくれれば納得できるだろ? 俺たちの祖先もこの澤餅茶屋で手結の餅を食うのが好きだったんだ。今まですまんな。俺らのご先祖さまが迷惑かけた」


 アプリが包みを受け取った。

 店主が、ようやく肩の荷が下りたような顔になった。


   *


 ALOHA Village・BaseCampに着いた。


 太平洋が、目の前に広がっていた。


 テントを設営した。

 焚き火を起こした。


 二人が、包みを開けた。


 中から、手紙と、花柄の長財布が出てきた。


 ハワイ島の地図が描かれた、あのプリマクラッセの財布だった。


 本田の肌が、粟立った。

 アプリも、黙っていた。


 本田が、手紙を広げた。

 文字が、踊るように並んでいた。


「それじゃ僕が読みますよ……やっぱりこの時代の文字は本当に慣れませんよね……えっと……」


   *


『Hello!からくり馬の仲間たち。


本田、アプリ殿、お花、鈴菌殿。

息災でおるかえ?


わしは今、見たこともないほど真っ青な海の上におる。

お花からもろうたあの「地図の描かれた財布」、まっこと重宝しちゅうぜよ。

この財布に描かれた「ハワイ」という島を目指して、わしと中岡、それに長崎で拾うた沢村の三人で、シンいろは丸をぶっ飛ばしちゅうところだ。


あの「指示書」には、まっこと肝を冷やしたぜよ!

十一月十五日、自分の誕生日に山鯨の死体を二体用意して、血糊をぶちまけて逃げろだなんて……。

お花、おまんは可愛らしい顔して、やることはなかなかにハレンチじゃのう!


実は、いろは丸の賠償金を受け取った七日から十五日までの間、横におる中岡の奴が「龍馬、金は手に入った! 早く出航せんか! 命が狙われちゅうぞ!」と毎日毎日、耳にタコができるほど五月蝿くてかなわんかった。

わしは「お花との約束があるき、十五日の夜四ツまでは動かん!」と、あいつをなだめるのに死ぬほど苦労したぜよ。


指示通りに近江屋を抜け出し、長崎へ寄って沢村の奴を迎えに行った時のことだ。

わしと中岡の顔を見た瞬間、沢村の奴は腰を抜かして「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」と念仏を唱え出しおった!

なんでも、京の都では「坂本と中岡は暗殺されて、無惨な死体が転がっておった」という話で持ちきりだと言うじゃないか。


あの時、ようやく合点がいったぜよ。

おまんらの「指示」は、わしらの命を救うための「神仏の導き」じゃったがやね。

暗殺部隊の連中も、まさか自分たちが踏み込んだ現場に「山鯨」が転がっていたとは、口が裂けても上役には言えんかったんじゃろう。

自分らで必死に死体を偽装して「坂本を討ち取ったり!」と嘘の報告をした姿を想像したら、中岡と二人で腹を抱えて笑うたぜよ!


さて、わしらはこれからハワイへ行くが、そこでジョン万次郎という男から聞いた「アメリカ本土」という場所を目指すことにした。

捕鯨船に乗り換えて、もっと広い世界を見てくるつもりだ。

金なら、あのいろは丸の賠償金が使い切れんほどある。

長崎の倉場グラバーの旦那からも、「坂本さん、それだけの資金があれば、アメリカでも大統領並みの暮らしができますよ」と太鼓判を押されたき、心配はいらんぜよ。


(あ、倉場の旦那の本名、トマス・グラバーと言うらしい。おまんらには「倉場」と教えてしもうたが、まっこと粋な男じゃった。)


おまんら、いつかまた、あの「お茶屋餅」を食べに土佐へ来るじゃろう?

あのニッキの香りを嗅ぐたびに、わしとお花坊が背中を合わせたあの夜を、アプリの旦那と本田の旦那と馬鹿笑いした日々を思い出してくれ。


わしらはもう、前へ、前へと突き進むだけだ。

I have a low exhaust……。

わしらもちっぽけなハートを燃やして、海の向こうまで行ってくるぜよ!


……それから、最後にもう一つ言わせてくれ。

こんな不自由な時代に、おまんらみたいにただ自由に旅を楽しんじゅう変わり者は、今の世の中じゃあ誰一人、まともな評価はしてくれんじゃろう。

けんどな、わしには見えるがぜよ。

百年後……いや、二百年後かもしれん。

おまんらみたいな、ちっぽけなハートを燃やしてひたすら前へ進む奴らこそが、真の『英雄譚』として、後の世に語り継がれちゅう姿がな。

わしも、おまんらみたいに笑うて旅ができる。


日本の夜明けを、おまんらに託す。

まっこと、ありたけ、ありがとう。


慶応三年 十二月 土佐沖 シンいろは丸にて

坂本 龍馬


追伸。

あの日、お花から「おばあちゃんの形見」と聞いたあの財布、まっこと大切に使わせてもろうたが、ここでお返しするぜよ。

もう勝海舟先生にお願いして、ハワイまでの正確な海図をあの地図からそっくり書き写してもろうたき、もう大丈夫だ。これでお花の元へ、無事に帰れるのう。


それから、お花に一つ聞きたいことがあるが。

あの日もろうた「ミレービスケット」という菓子がまっこと美味くて、航海の蓄えにしようと、お花の言う通り国分川のほとりまで探しに行ったがぜよ。

「のむらせんまめ」という店をあちこち聞き回ったが、誰一人として知る者がおらなんだ……。

お花、ありゃあ一体どこの異国の菓子ながかえ? まっこと、長旅の供にどっさり欲しかったがやけんど、見つからんかったがだけが心残りぜよ。

もしまた会えたなら、あのビスケットを腹一杯食わせてくれんかえ。』


   *


 本田が、手紙を読み終えた。


 焚き火が、静かに燃えていた。

 波の音が、遠くから届いていた。


 アプリが、呟いた。


「ミレービスケットが食いたくなった。買ってくる」


 RS50が、国分川へ向けて走り去った。


   *


 一人になった。


 本田は、手紙を見た。

 もう一度、読んだ。

 また読んだ。


 龍馬は、生きていた。

 中岡も、沢村も、生きていた。

 シンいろは丸で、海の向こうへ向かっていた。


 倉場の本名は、トマス・グラバーだった。


(そうか……そういうことだったのか)


 全部が、繋がった。


 春猪が函館へ渡ったこと。

 タツが浜松で育ったこと。

 平七がSUZUKIの父になったこと。

 鈴菌がフェリー代を怒ったこと。

 花が泣きながら笑ったこと。


 全部が、あの時代から続いてきた。


 「I have a low exhaust」という言葉が、龍馬の口から出ていた。


 本田は、手紙を胸に当てた。


 涙が、出た。

 止まらなかった。

 止めなかった。


 太平洋が、焚き火の向こうに広がっていた。

 龍馬が今、あの海の向こうにいる。

 ちっぽけなハートを燃やして、前へ進んでいる。


 本田は、空を見上げた。


 星が、眩しかった。


   *


 しばらくして、RS50のエンジン音が近づいてきた。


 アプリが、ミレービスケットの袋を持って戻ってきた。


「あったぞ」


 本田が、涙を拭いた。


 アプリが、袋を開けた。

 二人で、ビスケットを食べた。


 何も言わなかった。

 言う必要がなかった。


 焚き火が、春の夜に揺れていた。


 これが、本当の答え合わせだった。


 


これにて本当の幕末編終了です。

ここまでお付き合い頂きまして誠にありがとうございます。

この後ももう少しだけ鹿児島まで走りますので、お時間のある方々は鹿児島までお付き合いをお願いします。

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