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【reverse 90 それが青春なんだ!】

kasadera転生にてこの回の後日談を書きました。『k-01 小豆島からのお裾分け』参照。

 居酒屋ダイニングひみつきちに、五人が集まった。


 全員がバイクなので、アルコールは頼まなかった。

 料理だけを囲んだ。


「まさか、リアキャリアを付けて追っかけて来るとは思わなかったよ」


「……おい本田ァ! うちみたいな美少女二人に追いかけ回されて、ホンマは鼻の下伸ばして喜んどるんやろ!? せっかくやからな、わざわざ小豆島まで乗り込んできたうちらのメンツ立てて、山口まで連れて行かんかい! ほんでアプリのオッサン! 悪いけどな、うちら今『一文無し』やねん。旅費くらい、そのスカしたツラに似合う太っ腹なとこ見せて、貸しとき。……あ、返済期限は『出世払い』やからな、覚えとけよボケェ!」


 アプリの表情が、スッと冷酷な笑みに変わった。


「だが断る」


 一瞬、トラ子が固まった。


 アプリが、さらに続けた。


「このアプリが最も好きな事のひとつは、4ストを速いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ」


「まんま岸辺露伴じゃん!」


「……はぁ!? なんやねんその、打ち切り寸前の三流漫画家みたいなイキったセリフ! サブいねん! ええか? うちらみたいなバリバリの美少女二人と旅できるんやぞ!? ホンマは内心、小躍りするくらい嬉しいくせに、変にカッコつけんなや! 『トラ子様、ぜひ俺の財布で山口まで着いてきてください』って、素直に土下座して喜ばんかい!

……なぁ、本田ァ! お前は嬉しいよな!? うちとユッタおったら、このむさ苦しいオッサンとの道中が天国に変わるもんな! な!? ええから早よ『はい、めちゃくちゃ嬉しいです』って言えやボケェ!」


 本田が、唐揚げをつまみながら答えた。


「二人はいくら位持ってるの?」


「私は今は二万円かな?」


「……はぁ!? うちは一千五百円や! ここまでのフェリー代やらなんやらで、ほとんど溶けてもうたんやわ! ええか? そもそもな、うちらにガッポリ金があったらな、誰が好き好んでこんなムカつくアプリのオッサン追いかけるねん! もっとまともな、ええ店で美味いもん食うて、優雅に観光しとるわボケェ! 金がないから、しゃあなしにアンタらのケツ追いかけとるんやろがい! 察さんかい!」


「トラ子は無茶で無謀だね。でも、最初の一歩を踏み出せない人よりは僕は好きだなぁ……。トラ子には旅人の才能があると思うよ」


 小石先生が、教師の顔になってトラ子とユッタに語った。


「そうね。最初の一歩を踏み出せない人は多いのよ。この島から出たことがない人もいるくらいなの。本土に行ったことがあるから偉いって訳じゃないんだけど、知らないと井の中の蛙になってしまう人も少なくないのよ。一般常識としてはトラ子ちゃんのやってることは家出少女と変わらないんだけど、自分の足でこんな孤島に来れる勇気は大切にした方がいいわね」


 トラ子とユッタが、少しだけ照れた。


 アプリが言った。


「とりあえず、今夜からは二人は先生の家に泊めて貰え。そして、明日の朝、七時に俺たちが泊まってる宿に来い。自分らの資金くらいは自分で稼げ」


「バイトぉ? うちらでも出来る仕事なんかあんの? 未成年やし、履歴書なんて真っ白けっけのポイやで。

……あ! さてはオッサン、うちらにエロいことさす気やな? ヒューヒュー! オッサンもやっぱり隅に置けんなぁ、ただのスケベ親父やったんかい!

ちなみにうちはパスやけど、エロ担当はこっちのユッタやから! オッサン、ユッタで良ければ好きにしーや。煮るなり焼くなり、可愛がったってな! ギャハハハ!」


「ちょっとトラ子! 何言ってんのよ!」


 ユッタが、真っ赤な顔でトラ子をポカポカ叩いた。


 本田も小石先生もアプリも、笑っていた。


「大丈夫! 安心して。明日からはネーブルオレンジが食べ放題の美味しいバイトだからさ!」本田がそう言うとトラ子もユッタも少しだけ戸惑っていたが、すぐに了承した。


   *


 小石先生の家は、古い一軒家だった。

 部屋が余っていた。


 三人がリビングでお茶を飲んだ。


「小石先生! 今日から世話んなるわ、マジでおおきにな! バイト代入ったら、シブシブやけど宿代もちゃんと払うから。まぁ、スズメの涙くらいしか出せへんけどさ!

その代わり、家事とか手伝えることあったら、このユッタに何でも言うたって! こいつ、やればできる子やから! こき使ってええで!」


「ハハハ、宿代なんていらないよ。ここは社宅だから家賃も安いからね。気にしないで。それよりもトラ子ちゃんのバイクって阪神タイガース柄なんだね。自分で塗ったの?」


「いや、ちゃうねん。これ、二〇〇三年にタイガースが優勝した時に、たったの百二十台だけ出た超レアな限定品なんやで。

うちのオトンが当時、血眼になってゲットしたらしいわ。オトンも、もちろんうちも、骨の髄までタイガースファンやからな! この虎柄は、うちの家族の魂が乗っとんねん。そこらの安もんの塗装と一緒にせんといてや!」


「そうなんだ。こんな限定品もあったんだね……。もしかして、トラ子ちゃんってタイガースファンってことは野球のルールとか詳しい?」


「野球のルール? はぁ? 小石センセ、ウチのことナメすぎやろ! そもそも去年、阪神がアレしたんもな、選手も監督もウチのアドバイスをガチで聞き入れよったからやぞ。

正直、ウチこそが『野球の神様』言うても過言やないからな! 野球のことやったら、しょーもないことから極秘事項まで、なんでもウチに聞きぃや!」


「本当に? それなら、ここに泊まってる間で良いから、ウチの学校の子供たちに野球を教えてくれない? ウチの学校は一クラスが十人前後なの。だから、体育の授業では野球とかサッカーとかさせたことが無いのよ。でも、二〇二七年に学校の統合で一クラスが三十人になるんだけど、その時に子供達が戸惑わないように今から野球を教えてあげたいのよね」


「せやろ! んならウチが一番適任やんけ! 小石センセ、安心してウチに任せときって!

あの小学校からメジャーリーガー百人はシバき出してやるからよぉ! 明日からバイト終わったら毎日、ガキ共に野球を徹底的に叩き込んだるわ! 覚悟しとけよ!」


 こうして、翌日からトラ子が苗羽小学校で野球教室をすることが決まった。


   *


 翌朝。

 ゲストハウスNOTELの前に、アプリと本田が待っていた。


 虎柄のディオとジョグZRが、やってきた。


「着いて来い」


 アプリが先頭になった。

 殿は本田が務めた。


 四台が、小豆島の朝の道を走った。


 やがて、ネーブルオレンジ畑に辿り着いた。


 果樹園のご主人が、トラ子とユッタに前掛けと軍手を手渡した。

 二人は選別作業に回された。


「簡単な作業で良かったね」


「選別とかしょーもない地味な作業ちゃうくて、ホンマはネーブルオレンジをガシガシもぎ取りたかったやんなぁ。

ま、楽な作業に越したことはないし? ここは選別で我慢しといたろか! ウチらに比べたら、アプリと本田の荷降ろしと積み込みの方、えげつないくらいキツそうやしな……あいつら、腰いわしてへんとええけど!」


 作業が、淡々と進んだ。


   *


 昼休みになった。


 果樹園のご主人が、ほっかほっか亭土庄店からお弁当と飲み物を大量に持ってきてくれた。

 弁当は色々な種類があって、トラ子とユッタが目移りしていた。


「これ貰って良いの?」


「そうだよ。あと、あのカゴの中のネーブルオレンジも好きなだけ食べていいんだよ」


 トラ子が、弁当を選んで食べ始めた。

 一口目で目が輝いた。


「ちょお待て、弁当タダで食えてオレンジまで食べ放題とか、ここマジで極楽かよ! しかもこれ、しっかり給料まで懐入ってくるんやろ? んなもん、辞めろ言われても辞めれるかいな! 骨埋めるまで働いたろかコラァ! アプリのオッサン、ここうちらの『聖地』に決定やな!」


「ネーブルオレンジの収穫は今月中で終わるがな……」


「アチャー! せやったわ! 収穫終わってもうたら、このシノギも無うなるんか〜!

ま、ええけどな! ウチら、これから山口まで単車飛ばさなあかんしな! それに何より、苗羽のガキ共に野球の極意を叩き込まんとならんからよぉ! いつまでもオレンジばっかり相手にしてられへんねん!」


「メジャーリーガーだと?」


アプリが不思議そうに尋ねる。



「今日からトラ子が苗羽小学校の生徒に野球を教えるんですよ。ここのバイトが終わったら苗羽小学校に直行するんです」


 ユッタが、弁当を食べながら答えた。


「へぇ〜。それはいいことだね。僕も見学に行ってみようかな?」


本田も興味津々にユッタの説明を聞いていた。


   *


 十六時。

 作業が終わった。


 四人が、苗羽小学校へ向かった。


 グランドに、子供たちが待っていた。

 一クラス十人前後の学校だ。

 体育の授業では、野球もサッカーもできなかった。

 だから、この子たちは野球を知らない。


「皆さん、ありがとうございます。一応、古いですが道具は揃ってますので、よろしくお願いします」


 小石先生が頭を下げた。


 トラ子が、グランドに出た。


「よっしゃ、ガキども集まれーっ! 今日からウチが監督や。ええか、今からお前らに『野球』っちゅうもんを叩き込んだるからな!」


「野球は人生や。甘いこと抜かしとったら、すぐアウトやぞ。ウチの役目はな、お前らみたいなハナ垂れを、立派なタイガースの選手に仕上げることや。……返事は!? 聞こえへんねん!」


「ええな? 死ぬ気でついてこいよ。覚悟決めやーっ!」


 子供たちが、トラ子を見上げていた。


   *


 野球に全く興味のない小石先生とユッタは、早々に職員室に引き上げた。

 二人でお茶を飲んでいた。

 グランドを見てもいなかった。


 本田とアプリが、グランドの端から眺めていた。


 トラ子のドヤ顔が、冬の小豆島の夕陽の中で眩しく輝いていた。


 一クラス十人の学校では、今まで誰もこの子たちに野球を教えられなかった。


 教えられるのは、今この瞬間、トラ子だけだった。


 グランドに、子供たちの声が響き始めた。


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