【reverse 84 激アツの虎柄】
ついに『Rider's★I have a low exhaust』がOPENしました!!
というわけで、『kasadera転生』として新たにスピンオフ作品を始めます。その後の花の様子を知りたい方にはオススメの作品となってます。どちらも読んで貰えると本当に嬉しいです!
グランドオープンの前日。
鈴菌が、ハスラー50に跨った。
「俺は浜松だから、ちょくちょく来るぜ。今度は夫婦でジムニーで来るからな!」
モト子からバイト代の入った封筒を受け取って、颯爽と帰って行った。
鈴菌の排気音が、西之門の路地から消えた。
*
モト子が、本田とアプリに振り返った。
封筒を二つ、手渡した。
「二人もありがとうね。長く引き止めて悪かったわね」
「元々、僕とアプリさんはバイトしながら南下していたので、構いませんよ!」
花が、二人に向き直った。
「私からもお礼を言うよ! ここまで連れてきてくれて、二人ともありがとう! まさかこんな素敵な所で働けるなんて、青森のドラッグストアで働いてた時は夢にも思ってなかったよ!」
「俺たちが連れてきたわけじゃないだろ? お前自身がここまで走って来たんだ。そして、居場所を見つけただけだ。礼を言われる由縁もないさ」
アプリが、静かに言った。
三人が、青森からの道のりを思い出していた。
「明日は何処まで走るんですか?」
二人が、同時に笑顔で答えた。
「さあ? 行ける所まで」
*
翌朝。
日の出と共に、二台が笠寺を後にした。
RS50とプレスカブ。
二人だけだ。
花もいない。
鈴菌もいない。
本田は走りながら、それに気がついた。
(二人旅って、久しぶりだ)
伊根を出た頃から、誰かが一緒にいた。
ずっと誰かがいた。
アプリの背中だけが、前にある。
国道1号線。
東海道だ。
朝の光が、路面を照らしていた。
*
四日市を過ぎた。
鈴鹿の山が近づいてきた。
鈴鹿峠の手前で、RS50がゆっくりになった。
本田がアプリに並んだ。
「峠、ちょっとキツそうですね」
「そうだな。まあ、カブなら問題ないだろ」
「アプリさんのRS50は?」
「2ストは坂に弱い。回転を落とすな」
二台が、峠を登り始めた。
アプリのRS50が、甲高い音を上げた。
本田のプレスカブが、淡々と登った。
峠を越えた。
空気が変わった。
看板の文字が、関西仕様になっていた。
*
滋賀県に入った。
右手に、琵琶湖が見えてきた。
広い。
本田は、琵琶湖を見ながら思った。
幕末に来た時は、この湖を見る余裕もなかった。
(今は、ちゃんと見えてる)
彦根、近江八幡と過ぎていく。
湖が、ずっと右手にある。
冬の光が水面に弾けていた。
*
大津に着いた頃、腹が減った。
旧大津公会堂の建物に入った。
昭和初期の建物だ。
天井が高い。
窓が大きい。
ニクバルモダンミール大津店に入った。
「近江牛って、高いやつじゃないんですか?」
「精肉店の直営だ。値段を確認してから言え」
メニューを見た。
千二百円だった。
「え、安い!」
近江牛のステーキが来た。
本田が一口食べた。
「……やばい。肉が柔らかい」
「近江牛は脂の質が違う」
アプリが、ワインを一口飲んで言った。
窓の外に、琵琶湖が光っていた。
二人は、しばらく何も言わなかった。
ただ、肉を食べた。
こういう時間が、旅だと思った。
*
午後。
京都市内を通過した。
東寺の五重塔が見えた。
一瞬だけ見えて、すぐに建物の隙間に消えた。
「幕末で見たお寺と、全然違いますね」
「当たり前だ」
「でも、なんか同じ匂いがする気もするんですよ」
アプリが、何も言わなかった。
それが、肯定だとわかった。
国道171号線に入った。
イナイチだ。
沿線にバイク用品店が並んでいた。
*
箕面の山道を登った。
スノーピーク箕面キャンプフィールドに着いた。
一サイト千六百五十円。
二台のバイクを、テントの横に停めた。
テントを張り終えると、空が燃えていた。
橙色から山吹色、深い群青へ。
箕面の山々が、逆光の中でシルエットになっていた。
その稜線だけが、夕陽の残光で白く光っていた。
風が止んだ。
どこかのサイトで、薪がパキッと爆ぜた。
乾いた音が、凍った空気の中を届いた。
二人が、コーヒーを飲んだ。
何も言わなかった。
空が青みを帯びていく。
ブルーモーメントだ。
ランタンが灯った。
吐く息が、白く浮かんだ。
(きれいだな)
本田は、それだけ思った。
*
その時、駐輪場の方が騒がしくなった。
女の声が、二つ聞こえた。
若い。
うるさい。
しばらくして、その声が近づいてきた。
手ぶらの女の子が二人、こちらに歩いてくる。
「自分ら、九州から来たん!? エグない? どんだけ根性あんねん!」
一人が、本田たちのナンバープレートを指さしながら言った。
「あ、はい。九州から北海道まで走って、今は南下中です」
「はぁ? 嘘つけや。ただの原付やろ。こんなんでそんな走れるわけないやんけ、エグッ……自分ら何なん?」
本田が面倒くさくなって、スマホを取り出した。
原付キャノンボールランのHPを開いて、差し出した。
「これに出場したんだよ」
女の子がスマホを奪い取って、二人で食い入るように見始めた。
「これ、マジだよ。トラ子」
「……ん? なぁ、これ日本縦断したん? マジか。……って、え? 宗谷岬のゴール、十月半ばって書いてるやん。なぁ、今一月やで? なんでまだこんなとこ走ってんのん? 帰り道に三ヶ月もかかってるとか……自分ら、どんだけ寄り道してんねん!」
トラ子と呼ばれた方が、スマホを返しながら続けた。
「観光かな……? いや、バイトかな……? とにかく各地でバイトしながら旅をしてるんだよ。明日もカップヌードルミュージアムに行く予定なんだ」
「はぁ? カップヌードルミュージアムぅ? 自分ら、あんなとこ行って何すんのん。カップヌードルいっこ五百円もすんねんで? アホちゃう? 玉出行ったら百二十円……いや、セールやったら百円で買えるやんけ。三百八十円もムダにして、自分らどんだけ金持ちなん? マジ理解不能やわ」
「それでも行ってみたいんだよ。オリジナルのカップヌードルは旅人の夢だからね!」
トラ子が、笑いながらさらに絡んできた。
「明日、うちが先導したるわ。どーせ暇やし、自分らみたいなモタモタしたん見とったらイライラすんねん。朝、寝坊すんなよ。置いていくからな!」
本田が、アプリを見た。
アプリが、サングラスを指で上げた。
*
暗くなっても、ヤンキー少女二人は帰らなかった。
焚き火の煙が、冬の箕面の山に上がっていた。
アプリが、コーヒーのお代わりを淹れながら、トラ子のバイクを見た。
駐輪場に、虎柄のスクーターが停まっていた。
黄色と黒の、強烈な配色だ。
阪神タイガースのロゴが入っている。
(HONDA Dio Z4か……阪神スペシャルとは、また目立つな)
アプリは何も言わなかった。
本田は、うるさい関西弁に巻き込まれながら、静かに笑っていた。
旅は、まだまだ続く。
HONDA Dio Z4 阪神タイガース スペシャル
型式 BA-AF63
最高出力 5.3ps / 8,000rpm




